バイオロギングによる海鳥の行動・生態調査チーム

ベーリング海・セントジョージ島における海鳥調査(2014.7.28)

チームメンバー:国立極地研究所 國分 亙彦

写真1:ハシブトウミガラス(左)とアカアシミツユビカモメ(右)

写真2:海鳥の繁殖するセントジョージ島の断崖と調査員

写真3:海岸の岩場にたたずむコウミスズメ

写真4:セントジョージ島の正教会と上空を飛ぶコウミスズメ

写真5:昨年ジオロケータを取り付けて今年再び捕獲したアカアシミツユビカモメ。右足にオレンジ色の足環に付いたジオロケータが見える。

現在私たちは、北極研究プロジェクトの一環として、昨年に引き続きアメリカ・アラスカ州のセントジョージ島という島へ来て、3名で海鳥の行動・生態調査をしています。

セントジョージ島は、ベーリング海の中央にある、周囲約50kmの小さな島です(面積は北海道の奥尻島とほぼ同じ)。この島に、海鳥が大小様々な種類合わせて12種類、計250万羽が繁殖しています。中でも、よく潜ってエサをとる種類の代表であるハシブトウミガラス(写真1左)と、飛んで海の表面でエサを探す種類の代表であるアカアシミツユビカモメ(写真1右)にデータロガーとよばれる小型機器を取り付け、かれらの行動を詳しく調べることが今回の私たちの調査の目標です。GPSロガーや深度計や加速度計を取り付けるとともに、吐き出したエサやヒナに持ち帰ったエサを双眼鏡で観察して、どこでどのように飛んだり潜っていたりして、何を食べていたのかを調べます。さらに、このような調査を何シーズンかにわたって続けることで、ベーリング海の海洋環境の変化が、高次捕食動物である海鳥の生活にどのような影響をあたえているか、行動データをもとに調べることが、研究の目的です。

ハシブトウミガラスやアカアシミツユビカモメが繁殖するのは、高さが300m近くもある断崖の上(写真2)です。私たちは毎日往復10km近くの道を歩いて、この崖の一番上にある調査地へと向かっています。この島のあるベーリング海の夏の気候の特徴は、濃い霧で、視界が50mあるかないかという状態はざらです。調査中に、この濃い霧に包まれて風に吹かれると、ミストシャワーを浴びているような状態になり、雨具の下にセーターを着込んでいても寒くなります。夏で気温が10度ほどあるとはいえ、なかなか大変です。しかしたまに晴れ間がのぞくと、ツンドラの上に様々な植物(日本でいうと、高山に生えているような高山植物が多いです)が咲き乱れ、崖からは海鳥の声が湧き上がってきて、時には太陽を背にして崖の下の霧の中に虹と自分の影の映るブロッケン現象を目にすることもあり、神秘的な雰囲気を体験することができます。

私たちの主な調査対象の他にも、アメリカの調査機関と一緒に、コウミスズメ(写真3)という海鳥の食べ物を採集しました。コウミスズメは海岸沿いや丘の中腹の岩の下などに巣を作っていて、夕方(といっても暗くなるのは夜11時すぎですが)に集団で帰ってきます。それまで静かだった岩場の上空に、コウミスズメが雲のように広がったあと、岩にどんどん下り立たってきます。岩の下からはチュクチュクとヒナの声が聞こえ、それにつられるように親鳥はどんどん岩の下へもぐりこんでゆきます。島の人々はこの鳥をロシア語風に「チューチキ」と呼んでいます。コウミスズメは食べ物をのどにある袋にためて持ち帰ります。岩の上に立った時に捕まえると、びっくりしてそれらを吐き出します。赤っぽいカイアシ類やオキアミなどのプランクトンが大量に含まれていて、付近の海の豊かさを感じます。今はまだこの小さな鳥にデータロガーを付けて調査することは難しいですが、今よりもう少し機器が小型化したら、ぜひ行動を調べてみたい鳥の1つです。

この島には、アリュートという先住民族が80人ほど暮らしています。島で繁殖しているキタオットセイを狩って肉をとったり、小さな漁船で海に出て、オヒョウという大きなヒラメやタコを捕るといった生活をしています。村はとても小さいですが、アラスカがロシアの一部だった時代に建てられた正教会があり(写真4)、学校も病院も役場も郵便局もあって、生活をしてゆくうえで必要なものは一通りあります。お店も一軒ありますが、こちらは品数も少なく、野菜などは貴重で、食材の入手には時々苦労します。我々は小さな家を1軒借りて調査をしているのですが、たまに近所から、オットセイの肉や魚を分けてくれることもあり、そんな時はとてもうれしく思うとともに、私たちの生活も海鳥同様、海に依存しているのだと実感できます。

調査は現在約3分の1のところまできています。これまでのところ、ヒナが大きくなりつつあるアカアシミツユビカモメにGPSロガーを装着したり、吐き出した餌を調べたり、昨年取り付けたジオロケータと呼ばれる位置記録計を回収したりするという作業をしてきました(写真5)。今後は、これからヒナが大きくなってくるハシブトウミガラスやウミガラスなどの鳥の調査を進める予定です。だんだんといそがしくなってゆきますが、最後までけがや病気の無いよう、気をつけてすごしたいと思います。