(資料1)

南極地域観測事業におけるモニタリング観測

基本観測

 基本観測は、学術研究に不可欠な科学観測データを継続的に取得することを目的とする観測である。国の事業として、責任ある担当機関によって長期的に遂行されるもので、定常観測とモニタリング観測からなる。基本観測は、1)継続して実施する必要のある観測、2)国際的または社会的な要請への対応、3)十分な観測データ品質の維持・管理、4)速やかなデータ公開を行うことを条件として備えた観測であり、独立行政法人情報通信研究機構、気象庁、国土地理院、文部科学省、海上保安庁が担当し、国の責務として実施する「定常観測」と、研究者のニーズに立脚して国立極地研究所が担っている「モニタリング観測」に区分して実施する。

モニタリング観測

 モニタリング観測は 国立極地研究所が定常的に担当する基本観測であり、中長期的な継続観測を前提とし、確立された観測手法により、自然現象を明らかにしようとする観測を言う。観測計画の策定に当たっては、国立極地研究所がヒヤリング、他機関との意見交換などを行い、隊員・実施スケジュールなどを検討する。
 実施に当たっては、年度毎に自己点検を実施し基本観測の理念の実現を確認するとともに、担当隊員・国内対応者の意見を聴取し、観測体制の維持・管理を進めていく。
 観測機器の整備は、夏期間に集中的に行い、越冬隊員の負担を軽減する。越冬中のモニタリング観測を担当する隊員は、対象領域を横断して観測機器の運用、データ取得などを行う。

越冬期間のモニタリング観測及びモニタリング担当隊員が携わる基本観測の一覧

1.宙空圏変動のモニタリング

オーロラ全天カメラ観測

魚眼レンズと干渉フィルターを備えた単色CCDイメージャと魚眼レンズを用いたカラーデジタルカメラを用いて、全天の電子オーロラとプロトンオーロラの時間空間変化の観測を行う。

地磁気観測

全磁力、偏角、伏角を正確に求め、地球磁場の長期変動のモニタリングを行なう。このデータは国際磁場モデルの算出にも用いられている。3成分フラックスゲート磁力計を用いた通年連続観測を行う。

リオメータ観測

磁気嵐やオーロラ現象に伴い、磁気圏から極域電離層に降り込む荷電粒子束の変動を測定する。幅広い指向性のアンテナや複数の狭い指向性アンテナビームにより、HF帯電波の強度をモニターする。

自然電波観測

磁気圏での波動-粒子相互作用により発生するULF~VLF帯の電磁波動の強度、周波数スペクトルを極域地上で観測することにより、磁気圏内に捕捉されたエネルギーの高いイオンや電子フラックスの時間変動の概要を求める。

2.気水圏変動のモニタリング

大気微量成分観測
(温室効果気体)

大気中の温室効果気体のバックグランド状態を監視し、それらの放出源・吸収源強度の変動や南極域への物質輸送過程を明らかにするために、昭和基地において、CO2、CH4、COなど温室効果気体とその関連気体の連続観測を行う。

大気微量成分観測
(エアロゾルの粒径分布の観測)

人為汚染の最も少ない地域において、大気環境および雲の気候影響の変化に関係する粒径別のエアロゾル数の経年変化を光学式粒子カウンターおよび凝縮粒子カウンターによって観測する。

雲エアロゾル
地上リモートセンシング観測

昭和基地において、スカイラジオメータ、マイクロパルスライダー及び全天雲カメラによる雲・エアロゾルの光学・物理特性に関するリモートセンシング観測を継続実施する。

南極氷床の質量収支モニタリング

内陸旅行時のルート沿いに設置された雪尺、雪尺網の測定を行う。また、昭和基地―大陸間ルートの設定と維持の際に海氷厚を測定する。

3.地殻圏変動のモニタリング

昭和基地等での
広帯域・短周期地震計による観測

昭和基地及び沿岸露岩域にて、地震計観測を実施し、地殻内部特性を明らかにする。

超伝導重力計連続観測

重力の時間変動を高精度に観測し、地殻変動・地球内部特性を明らかにする。

VLBI観測

多目的衛星受信アンテナを利用して国際VLBI実験に参画し、高精度地球基準座標系の維持に寄与する。

DORIS観測

電波を発信し衛星軌道を精密に決定するとともに、昭和基地の地殻変動をモニタリングする。

衛星データの地上検証観測及び
衛星合成開口レーダーデータのアーカイブ

海氷上・氷床上に設置したGPSの連続観測から、衛星合成開口レーダーデータの検証を行うと伴に、衛星データを蓄積する。

地温の観測

定点にて地下2mまでの地温の通年観測を実施し、経年変動をモニタリングする。

露岩GPS観測

昭和基地周辺の露岩域定点で地殻変動をモニタリングする。

4.生態系変動のモニタリング

アデリーペンギンの個体数観測

ペンギン営巣地において、営巣数や個体数を計測、または写真撮影する。

南極陸上生態系モニタリング

東オングル島およびオングルカルベンに設定された定点から土壌サンプルの持ち帰り、ベンチコートシートの回収を行うことにより、土壌微生物モニタリングを実施する。ラングホブデにおいて、カメラによる植生記録、気象計保守・データ回収を行う。スカルブスネスにおいて、湖沼環境計測および周辺の微気象観測を行う。

5.地球観測衛星データによる環境変動のモニタリング

LSXバンドの衛星データの受信

昭和基地衛星に設置したL/S/Xバンド地球観測衛星受信システムにより、NOAA、MetOp、DMSP、TERRA、AQUA、NPP、NPOESSなどの衛星データ受信・保存、及びQL画像作成と即時国内伝送を行う。NOAAデータについては、気象庁・WMO(世界気象機関)を通じて、各国の全球数値予報モデル(天気予報)の初期データとして供給する。QL画像は即時公開し昭和基地における観測設営活動の支援データとしても活用される。

6.電離層観測(定常観測)

電離層の観測

国際基準に基づく電離層電子密度プロファイル、電波伝搬特性を観測し、宇宙天気予報に利用するほか、世界資料センターに送付し、世界的利用に供する。長期間にわたる観測データの蓄積により、地球環境の長期変動解析の基礎資料に資する。

宇宙天気予報に必要なデータ収集

宇宙環境変動を示すオーロラ、地磁気、電離圏擾乱等の情報のリアルタイムデータ収集を実施し、宇宙天気予報に提供する他、速報データとして公開し、世界的利用に供する。

7.測地観測(定常観測)

GPS連続観測

昭和基地に設置されたGPS連続観測点による観測を行う。観測データは、通信衛星を用いて日本へ転送する。この観測点は、国際GNSS事業(IGS:International GNSS Service)に参加し、データの提供を行う。

8.潮汐観測(定常観測)

潮汐観測

地球規模の海面水位長期変動監視のための国際的な世界海面水位観測システム(GLOSS)へのデータを提供する。