高時間分解能のグリーンランド氷床コアのデータが示すわずか数年の急激な気候変動

掲載日:2008年6月23日

国立極地研究所は、デンマークなどとの国際共同研究によりグリーンランド氷床コアを分析し、最終氷期から現在の間氷期への移行期に見られる2回のグリーンランドでの急激な気候変動の過程と、その気候変動が極めて短期間に起きたことを明らかにしました。

研究の背景

 グリーンランドにおける最終氷期から現在の間氷期への移行期(15,500年前~11,000年前頃)には、ヤンガードライアス期(12,900年~11,700年前頃)と呼ばれる一時的な寒冷期を挟んで急激な温暖化が2回(14,700年前頃と11,700年前頃)生じたことが分かっている。
 この2回の急激な温暖化の際には、数十年間という短い期間に気候変動が起こったことが分かっていたが、気温や海水温などの個別の変化がどのような順にどのような時間スケールで進んだのかは明らかではなかった。
 本研究は、近年の分析手法の発達により時間スケールをさらに短くした分析が可能となったため、これら気候変動のメカニズムをより高時間分解能で明らかにすべく行ったものである。

研究対象・手法

図1

 NGRIP(North Greenland Ice Core Project)と呼ばれる北グリーンランド氷床コア掘削計画により得られた氷床コアを研究対象とし、酸素同位体比、過剰重水素、ダスト等を年単位以下の高時間分解能で分析した。
 NGRIPは世界9カ国(デンマーク、ドイツ、日本、フランス、アイスランド、スイス、スェーデン、ベルギー、アメリカ)で行われた国際共同研究プロジェクトで、北緯75.1度、西経 42.3度の標高2,921mのグリーンランド内陸部(NGRIP地点 図1)で、1996~2003年までの間掘削が行われ、2003年7月には岩盤まで到達して全長3084.99mの氷床コアが得られた。最深部のコアの年代は約12.3万年前。

研究成果

 ヤンガードライアス期を挟んだ2回の急激な温暖化に際しては、まず、グリーンランドのダストの降下量が減少しはじめ、その後に、グリーンランドの降水の起源となる海水の温度が、1~3年という極めて短期間に2~4度低下し、最後に、グリーンランドの気温が、1回目の上昇の際は3年ほどの間に、2回目の上昇の際には50~60年の間に、10度ほど上昇するという過程が明らかとなった(図2)。
 ダストの降下量の減少は、アジアの砂漠が湿潤化したためであると考えられ、降水の起源となる海水温の変化は、水蒸気の起源海域の位置が変動したためと考えられる。これらは、熱帯収束帯※が北に移動したことにより北半球の大気循環が変化したために起こった現象と考えられる。

図2 気候変動の過程を示すグラフ(一番の下の白抜きが1回目の温暖化、真ん中の白抜きは寒冷化、一番上の白抜きが2回目の温暖化を示す。赤線が海水温の指標となる過剰重水素、青線が気温の指標となる酸素同位対比、黄色線がダストを示す。)

発表論文

 本研究成果は、平成20年6月19日(日本時間6月20日)付けの米科学雑誌「Science」電子版(http://www.sciencemag.org/sciencexpress/recent.dtl)で発表されました。

 

・論文タイトル

High resolution Greenland ice core data show abrupt climate change happens in few years.
(高時間分解能のグリーンランド氷床コアのデータが示すわずか数年の急激な気候変動)

・著者

J.P. Steffensen1, K.K. Andersen1, M. Bigler1,2, H.B. Clausen1, D. Dahl-Jensen1, H. Fischer2,3, K. Goto-Azuma4, M. Hansson5, S.J. Johnsen1, J. Jouzel6, V. Masson-Delmotte6, T. Popp7, S.O. Rasmussen1, R. Rothlisberger2,8, U. Ruth3, B. Stauffer2, M.-L. Siggaard-Andersen1, A.E. Sveinbjörnsdóttir9, A. Svensson1, J.W.C. White7

・著者所属

1 Centre for Ice and Climate, Niels Bohr Institute, University of Copenhagen, Denmark
2 Climate and Environmental Physics, Physics Institute, University of Bern, Switzerland
3 Alfred-Wegener-Institute for Polar and Marine Research (AWI),Germany
4 National Institute of Polar Research, Japan
5 Department of Physical Geography and Quaternary Geology, Stockholm University, Sweden
6 Institut Pierre Simon Laplace/Laboratoire des Sciences du Climat et de ’Environnement,France
7 INSTAAR,Campus Box 450,University of Colorado, USA
8 British Antarctic Survey, NaturalEnvironment Research Council,United Kingdom
9 Raunvísindastofnun Háskólans,Iceland