南極と宇宙に共通する過酷な環境下での健康管理に関する国立極地研究所(南極観測隊)と宇宙航空研究開発機構の共同医学研究の実施について

掲載日:2008年12月10日

 国立極地研究所と宇宙航空研究開発機構は、変則的な日照や長期間の閉鎖環境等の宇宙と南極の共通点に着目し、苛酷な環境での健康管理に関する共同医学研究を実施することとしました。

 日本南極地域観測隊員から被験者を募り、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟等で計画している宇宙飛行士の健康管理に関連する医学研究データを南極で取得することにより、それぞれ、宇宙での長期滞在と南極越冬生活における健康管理技術の向上を図ることを目的とします。

研究テーマと概要

 第50次日本南極地域観測隊員を対象(2008年12月〜2010年春)とした、以下の医学研究(3テーマ)を実施します。

(A)特殊な日照時間の体内リズムへの影響に関する研究

 室内照明のみのISSと、季節により日照時間が大きく変動(夏は白夜、冬は太陽光のない極夜)する南極では、ともに通常の日照変化とは異なる環境で人間が生活します。

 南極での、季節による日照時間変動に伴う、ヒトの自律神経活動や睡眠覚醒に及ぼす影響を心電図、脳波、及び体の動きで調べます。これらのデータを、「きぼう」での使用を検討している小型の計測器等を利用して取得します。また、南極地域観測隊員に対し、睡眠調査アンケートを行い、これらの結果をもとに、体内リズムや休息の質の評価を行い、それぞれの健康管理技術の向上に役立てます。

(B)新しい運動トレーニング法の有効性に関する研究

 重力のない宇宙環境では筋肉が弱くなりやすく、体力を維持するために継続的な運動が必要とされます。また、南極地域では、極夜の冬季は野外の行動が限定され、運動機会が減少します。

 南極地域観測隊員の冬季の運動機会減少と食事過多に伴う体重の増加に対して、短時間で効果的なトレーニング法であるハイブリッドトレーニング法*を行い、その有効性を確認します。また、トレーニングに使用する装置を遠隔の閉鎖環境内で使用する場合の課題を識別し、今後、「きぼう」や南極で継続的に使用できるか検討します。

※ハイブリッドトレーニング:トレーニング中に筋肉へ電気刺激を加えることによりトレーニング効果を高める方法

(C)長期間入浴できない状態での皮膚の衛生管理技術の研究

 ISSには入浴設備がありません。一方、南極の内陸調査では、雪上車での移動中は長期にわたり入浴ができません。

 JAXAがISSに滞在する宇宙飛行士に対して計画しているものと同様な方法で皮膚に常在する菌のデータを南極観測隊員からとるとともに、アンケート調査を実施し、長期間、入浴できない環境で皮膚を清潔に保つための衛生管理技術の開発に役立てます。