「南極ドームふじ氷床コア」から、地球外物質に富む層を二つ発見。氷床コアに、43万年前と48万年前の大規模な地球外物質の落下イベントが記録されていた。

掲載日:2009年12月1日

 国立極地研究所(所長:藤井理行)は、南極ドームふじ基地(図1)において採取された氷床コアの深度2,641メートルと2,691メートルにおいて、それぞれ別の始原的な天体に由来した珪酸塩に富む溶融物からなる粒子層を発見した。
 この粒子層は、ドームふじ基地から約2,000キロメートル離れたコンコルド基地において採取された「ドームC氷床コア」から報告されていた二つの地球外物質層(深度2,788メートルと2,833メートル)とそれぞれ起源が同じことがわかった。
 43万4,000年前と48万1,000年前に、直径100メートルを超える始原的な天体が落下し、その時に砕けて溶融した粒子が東南極内陸域に広範囲に降り注ぎ、氷に閉じこめられたものと結論された。本研究は、過去に起きた小惑星や彗星の地球突入とそれに伴う大規模衝突に関する研究を進展させる端緒となります。

研究の背景

 地球には絶えず小惑星や彗星からの塵が降り注いでおり、その総量は年間3万トンと推定されている。地球外物質の流入を過去に遡って知ることによって、どのような天体起源の物質が地球に降り注いだのか、地球外物質の流入量に変動はあるのか、そして大規模な天体の突入・落下によって地球環境の大激変が引き起こされたのか等々を明らかにすることができる。
 惑星間塵や彗星からの塵が地球に大量に降り注ぎ集積した過去の証拠は、堆積物中のイリジウムや3Heの濃集した粒子として見つかっている。しかし、堆積物に残された地球外物質の痕跡は、長期間にわたる続成作用によって乱され、やがて消えてしまう。
 酸素同位体組成などから氷の年代が求められる、長期間にわたり連続的な氷を得ることができる、氷に大陸起源の塵や火山灰などの混入が少なく地球外物質を識別しやすいこといった利点があることから、極域の氷床コアは地球外物質の流入の歴史を探るうえで貴重な試料となる。

研究対象・手法

 国立極地研究所の雪氷研究グループと日米の隕石研究グループは、南極ドームふじ基地(図1)において2005年に採取された氷床コアから地球外物質に富む層を2層(深度2,641メートルと2,691メートル)発見した。珪酸塩鉱物に富む粒子の岩石・鉱物学的特徴、化学的特徴、酸素同位体組成と宇宙線生成核種10Be,26Al,36Clの存在量から、この2層がそれぞれ別の始原的な天体に由来していることを明らかにした。

研究成果

 岩石・鉱物学的な特徴および酸素同位体組成から、ドームふじ氷床コアの深度2,641メートルと2,691メートルから採取された珪酸塩鉱物からなる粒子層(図2)は、地球外起源物質であり、2007年に「ドームC氷床コア」において見つかった二つの地球外物質層(深度2,788メートルと2,833メートル)と起源がそれぞれ同じであることがわかった。つまり、43万4000年前と48万1000年前に、地球外起源物質が広範囲にわたって東南極域に降り注いだことが明らかになった。

(1)2,641メートル層の粒子について

 2,641メートル層の粒子は、ほぼ完全に溶融した液から晶出したオリビン、輝石、マグネタイトから成り、急冷した組織を示している(図3左)。
 2641メートル層の粒子には、宇宙線の照射によって生成される核種、26Alおよび36Clが認められないことから、2,641メートル層の母天体は、地球に突入する前は大きなサイズであったと結論された。
 また、2,641メートル層の粒子を構成するオリビンの酸素同位体組成が南極内陸部の氷の酸素同位体組成に近いことから、始原的な天体が南極氷床に衝突して氷クレーターが形成され、その際に溶融して広範囲に飛び散った粒子が2,641メートル層を形成したことがわかった。

(2)2,691メートル層に含まれる粒子について

 2,691メートル層に含まれる粒子は、2,641メートル層の粒子よりも粒径が小さく、集合体を成している(図3右)。2,641メートル層の粒子と同様に、高温で溶融した組織を示しているが、発泡したものはない。直径1-5マイクロメートルの微粒子が20-30マイクロメートルの集合体を成している2,691メートル層は、始原的で脆い天体が秒速30キロメートルを超える高速で地球の大気圏に突入した結果、大気上層で溶融・凝集して形成されたものと結論された。

(3)この粒子のもととなった天体の質量

 1平方メートルあたり0.3グラムから1グラムの密度で、ドームふじ基地とコンコルド基地(ドームC)の地域をカバーする直径2,000キロメートルの円内の氷床に溶融した粒子が均等に分布していると仮定すると、2,641メートル層と2,691メートル層のもととなった天体の質量は、それぞれ3メガトンと1メガトンを超えるもの(石質の天体とすると直径100メートルを超える)と推定された。

 45±5万年前に小惑星1270 Daturaが衝突によっていくつもの天体に破壊されたことが知られているが、今回の「南極ドームふじ氷床コア」において発見された地球外物質層との関連は、現在のところ不明である。

 

発表論文

 この研究成果は、科学誌Earth and Planetary Science Lettersに掲載を受理され、現在印刷中である。(2009年11月27日webで公開された。)

論文タイトル

Two extraterrestrial dust horizons found in the Dome Fuji ice core, East Antarctica.(南極ドームふじ氷床コアから発見されたふたつの地球外物質層)

著者

Keiji Misawa,1,2 Mika Kohno,3* Takayuki Tomiyama,1† Takaaki Noguchi,4 Tomoki Nakamura,5 Keisuke Nagao,6 Takashi Mikouchi,7 Kunihiko Nishiizumi8

1Antarctic Meteorite Research Center, National Institute of Polar Research, Tokyo 190‒8518, Japan.

2Department of Polar Science, The Graduate University for Advanced Studies, Tokyo 190‒8518, Japan.

3Polar Meteorology and Glaciology Group, National Institute of Polar Research, Tokyo 190‒8518, Japan.

4College of Science, Ibaraki University, Mito 310‒8512, Japan.

5Department of Earth and Planetary Sciences, Kyushu University, Fukuoka 812‒8581, Japan.

6Laboratory for Earthquake Chemistry, University of Tokyo, Tokyo 113‒ 0033, Japan.

7Department of Earth and Planetary Science, University of Tokyo, Tokyo 113‒0033, Japan.

8Space Sciences Laboratory, University of California, Berkeley, CA 94720‒7450, U.S.A.

*Present address: Geoscience Center, University of Goettingen, Goldschmidtstr. 1, D‒37077 Goettingen, Germany. Present address: Kochi Institute for Core Sample Research, JAMSTEC, Nankoku, Kochi 783‒8502, Japan.

 

図1:南極大陸と深層氷床コア掘削場所

 

図2:ドームふじ氷床コア中の地球外物質(左:深度2641メートル、右:深度2691メートル)を矢印で示した。2641メートル層は、比較的粒径が大きく、1ミリメートルに達するものもある。2691メートル層は極めて細粒なことから、肉眼では粒子を識別できない。層の厚さは5ミリメートル以下である。火山灰層の産状と似ている。スケールは1センチメートル。

 

図3:地球外物質の電子顕微鏡写真(左:2641メートル層)オリビン(暗灰色)とその間を埋めるガラス(灰色)、マグネタイト(白色)から成り、急冷した組織を示す。スケールは10マイクロメートル。(右:2691メートル層)。無数の小球粒からなる集合体。スケールは5マイクロメートル。