北グリーンランドにおいて最終間氷期の氷床コアの掘削に成功
最終間氷期の気候・環境変動の解明が期待されます

掲載日:2010年7月30日

 国立極地研究所(所長:藤井理行)が参加する北グリーンランド氷床深層掘削計画(North Greenland Eemian Ice Drilling:NEEM計画)では、2008年から掘削を行ってきましたが、この度7月28日に岩盤直上の2537.36mの深さまで到達し、最終間氷期の氷の掘削に成功しました。岩盤の2m上の氷床コアには、数十万年もの間、陽の光を見ることがなかった岩やその他の物質が含まれていました。この中には、グリーンランドが氷に覆われる前の、300万年ほど前の植物に関する情報を持ったDNAや花粉が多く含まれていることが予想されます。

NEEM計画の概要

図1 NEEM地点

 NEEMは、デンマークをリーダーとする14カ国(※)が参加する国際共同掘削計画で、北半球では最古となる最終間氷期(イーミアン間氷期 約11万5千年前~約13万年前)の氷床コアを掘削し、当時の気候・環境変動を復元することが目的です。最終間氷期は、現在よりも気温が高く、海水準も5mほど高かったと考えられており、この時代を研究することによって、温暖化した将来の地球の気候・環境変動を予測するための重要な手掛かりが得られます。
 NEEMの掘削地点は北緯77.5度、西経50.9度、標高約2500mのグリーンランド氷床上で、雪面下に掘削場と実験室が作られています。掘削された氷床コアは、掘削場で一定の長さに切断された後で実験室に移され、現場解析が行われます。最新の技術を駆使した水の安定同位体、温室効果気体、化学成分、氷の結晶構造などの解析装置により、データが続々と取得されます。氷床コアの掘削と現場解析には、若い学生を含む300人以上の研究者が参加しました。

※デンマーク、アメリカ、オランダ、カナダ、ベルギー、フランス、ドイツ、日本、韓国、中国、イギリス、スイス、アイスランド、スウェーデン


日本からの掘削・現場解析参加者

 2009年と2010年に合計7名の研究者が掘削と現場解析に参加しました。
 東久美子、植竹淳、川村賢二、倉元隆之(国立極地研究所)
 東信彦、佐藤基之(長岡技術科学大学)、宮本淳(北海道大学)
 日本から最後に参加した川村は、掘削完了の現場に立ち会うことができました。

今後の研究と期待される成果

 NEEMの氷床コアは、今後、14ヶ国に配分され、水の安定同位体、温室効果気体をはじめとする様々な気体成分、化学成分、微生物などについて、詳細な解析が行われる予定です。過去の気温、温室効果気体の変動、炭素循環、生物循環などについての貴重な情報が得られると期待されます。解析が進めば、地球の気温が2~3℃高かったと考えられる12万年前にグリーンランド氷床がどの程度縮小していたのか、また、グリーンランド氷床の縮小によって海水準がどの程度上昇したのか、といった諸問題が解明されることが期待されます。

写真1 NEEMキャンプ全景

写真2 最終氷床コア(岩盤起源の岩などが含まれているのがわかる)