南極大陸の岩石の中から新鉱物を発見

掲載日:2011年6月1日

発表概要

 第50次日本南極地域観測隊「セール・ロンダーネ山地地学調査隊」が、2009年1月における野外調査で発見した鉱物が、「ヘグボマイト類」の一種の新鉱物として国際鉱物学連合(IMA)<※1,2> に認定された。日本南極地域観測隊が、南極大陸を構成する岩石中から新鉱物を発見したのは初めてのことである<※3>。発見の速報は、国際鉱物学連合のホームページとMineralogical Magazineに近く掲載される。
 また、新鉱物の標本は国立極地研究所南極・北極科学館(東京都立川市)と新潟大学サイエンスミュージアム(新潟市)に後日展示される予定である。

サファイア(青色)、スピネル(薄紫色)、雲母(茶色)、緑泥石(薄緑色)の中に赤色の鉱物として「ヘグボマイト」がみられる。写真の横幅は約3cm。

「ヘグボマイト」の単結晶。結晶の横幅は約0.4mm。

新鉱物の名称や特徴など

 「ヘグボマイト類」という稀少な酸化鉱物の一種に分類される。新鉱物であるが、命名ルールが厳密に決まっているため、
「magnesiohögbomite-2N4S(マグネシオ ヘグボマイト 2N4S)」
という名称になる。簡単には「ヘグボマイト」でよい。「2N4S」は結晶構造を表す記号で、ノラナイト構造(N)2枚とスピネル構造(S)4枚が層状に重なることにより構成されている。この構造をもつ鉱物としても世界初の新発見である。六方晶系の鉱物で、簡略化した化学構造式はMg10Al22Ti2O46(OH)2である。

 コランダム(サファイア)やスピネルを含有する岩石中から、約0.2mm〜3mmの大きさで、赤色透明な六角形をした鉱物として発見された。

新鉱物発見場所

 南極、セール・ロンダーネ山地中央部の「小指尾根(こゆびおね)」の斜面。キャンプ地からスノーモービルで約2時間移動、そこからさらに約3時間、斜面を徒歩で登った場所(標高約1500m地点)で発見された。

 セールロンダーネ山地は昭和基地の西方約600kmにある、急峻な山岳地帯である。四国とほぼ同等の領域に、約10億年前〜5億年前に形成された岩石が広大に露出している。発見地点は図の矢印の先端、「小指尾根」である。この地域の地形が人の手の形のようであることから、日本南極地域観測隊により東から西へ親指尾根(おやゆびおね)〜小指尾根までの五指の名称がつけられている。山地の北方には日本の「あすか基地」がある。また、現在は山地の北西方にベルギーの「エリザベス基地」が開設されている。

セールロンダーネ山地中央部、小指尾根付近から薬指尾根(くすりゆびおね)方向を臨む。

新鉱物の発見地点付近での地質調査の様子。写真の右上方の氷河面にスノーモービルを残置し、斜面を徒歩で登り地質調査中に発見した。

新鉱物発見の科学的意義

 この鉱物が含まれる岩石の絶対年代や、周辺の地質などを総合して考えると、この新鉱物は約5億2千万年前ごろに出来たと思われる。巨大な大陸同士(西ゴンドワナ大陸と東ゴンドワナ大陸)の衝突によってゴンドワナ超大陸が出来た後、大山脈が盛り上がる時期に、この新鉱物が出来たと考えられる。

 たとえばインドがアジア大陸に衝突することで、その境界が盛り上がり、現在のヒマラヤ山脈が形成されている。これと同様に、ゴンドワナ超大陸ができた時、約6〜5億年前頃にこの地域に巨大山脈が存在したことが想定される。今回の発見と解析結果は、ゴンドワナ超大陸の形成過程を探る重要な手がかりとなるであろう。

 また、「ヘグボマイト類」の鉱物は化学組成・結晶構造・成因などが難解で、未解決の問題が多数あった。今回発見された新鉱物が極めて高精度で分析されたことにより、これと類似の鉱物(ターファイト類・ニジェーライト類など)の多くの謎が一気に解決した。岩石学・鉱物学の飛躍的発展が期待される。

「ゴンドワナ超大陸」の復元図。セール・ロンダーネ山地は東西ゴンドワナ大陸の衝突境界に位置している。

第50次日本南極地域観測隊「セール・ロンダーネ山地地学調査隊」の行動概要

メンバー

大和田 正明(山口大学)
志村 俊昭(新潟大学)
柚原 雅樹(福岡大学)
束田 和弘(名古屋大学)
亀井 淳志(島根大学)
阿部 幹雄(国立極地研究所(当時))

主な行動日程

 第50次日本南極観測隊セール・ロンダーネ山地地学調査隊は、2008年11月16日に成田空港から出国し,翌2009年2月17日に帰国するまでの95日間にわたり行動した。往復には、成田空港〜ケープタウン〜ノボラザレフスカヤ基地(ロシア)〜エリザベス基地(ベルギー)の経路を航空機で移動した。

 現地では全日程テントに居住し、外部と完全に隔絶された環境で、全行程をスノーモービルと徒歩により野外地質調査をおこなった。太陽熱を利用した水の確保、滞在中の全電力を太陽光発電により賄うなど、環境に配慮したオペレーションを実施した。ほとんどの食糧は独自に開発したフリーズドライで持ち込んだ。

 

スノーモービルとソリによる移動の様子。

国立極地研究所発行のセール・ロンダーネ山地の地質図。
 セール・ロンダーネ隊のキャンプ地()および地質調査地点()を示した。山地の中央部〜西部にかけて調査を行った。

ベースキャンプ地(BC)の全景。全日程テントで寝泊まりし、山地の地質を調査した。

 テント周囲に配置した太陽電池パネル(テントの手前の黒い四角形の板)と造水器(右手前のプラスチック箱)。生活に必要な電力は、すべて太陽光発電でまかなった。また、太陽熱で雪を溶かし飲料水を造るなど、環境に配慮しながら調査を続けた。

 フリーズドライ食糧による食事。輸送物資の軽量化・輸送の燃費向上・ゴミの削減にもなり、これも環境保全に重要な役割を果たした。
 また、あたたかく美味しい食事は、隊員の精神衛生にも良い効果を与えた。

補足説明

<※1> 国際鉱物学連合(The International Mineralogical Association, IMA)
http://www.ima-mineralogy.org/
1958年に設立された学術組織で、世界各国の鉱物学会等と協力し、鉱物学に関わる国際連携を担っている。

<※2> 新鉱物命名・分類委員会(The Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification, CNMNC)
http://pubsites.uws.edu.au/ima-cnmnc/
IMAの8つの委員会の中の1つで、新鉱物の命名や鉱物の分類の定義を定めている、世界最高かつ唯一の組織である。新鉱物かどうかは、この委員会に申請して認定されなければならない。世界中で年間約50件程度が新鉱物として認定されている。

<※3> 日本の研究者が南極大陸で新鉱物を発見した例としては、故・鳥居鉄也氏(1918-2008)が1963年に発見したハロゲン化鉱物「南極石」がある。これは南極の池の中で、水中に溶け込んでいる塩分などが低温条件などにより結晶化したものである。南極大陸の地殻を構成する岩石中から、日本南極地域観測隊が新鉱物を発見したのは、今回が初めてである。

国際鉱物学連合による認定情報・論文掲載情報

Shimura, T., Akai, J., Lazic, B., Armbruster, T., Shimizu, M., Kamei, A., Tsukada, K., Owada, M. and Yuhara, M. (2011) Magnesiohögbomite-2N4S. IMA 2010-084. CNMNC Newsletter, 2011, Mineralogical Magazine (in press).

※本発表は、新潟大学と国立極地研究所の共同発表です。