小川泰信講師が、第126回地球電磁気・地球惑星圏学会
総会において大林奨励賞を受賞しました

掲載日:2011年11月23日

受賞者氏名

小川 泰信 (国立極地研究所・研究教育系宙空圏研究グループ 講師)

受賞の業績

非干渉散乱レーダーによる極域電離圏イオン上昇流の研究

受賞の対象となった論文・著書

[1] Ogawa, Y., R. Fujii, S. C. Buchert, S. Nozawa, S. Watanabe and A. P. van Eyken, Simultaneous EISCAT Svalbard and VHF radar observations of ion upflows at different aspect angles, Geophys. Res. Lett., vol. 27, p. 81-84, 2000.

[2] Ogawa, Y., I. Haggstrom, S. C. Buchert, K. Oksavik, S. Nozawa, M. Hirahara, A. P. van Eyken, T. Aso, and R. Fujii, On the source of the polar wind in the polar topside ionosphere: First results from the EISCAT Svalbard radar, Geophys. Res. Lett., vol. 36, L24103, doi:10.1029/2009GL041501, 2009.

[3] Ogawa, Y., S. C. Buchert, A. Sakurai, S. Nozawa, and R. Fujii, Solar activity dependence of ion upflow in the polar ionosphere observed with the European Incoherent Scatter (EISCAT) Tromso UHF radar, J. Geophys. Res., vol. 115, A07310, doi:10.1029/2009JA014766, 2010.

受賞理由

地球大気流出に関する研究は、1960年代に理論的な予測がなされて以来、人工衛星観測や数値シミュレーションなどを用いて精力的に行われてきた。しかし、流出が起こり始める極域電離圏における流出・加熱機構は充分に理解されていなかった。小川泰信氏は、欧州非干渉散乱(EISCAT)スバールバルレーダー等の地上レーダー、地上光学観測機器及び衛星・ロケットを組み合わせた総合観測によって得られたデータを詳細に解析することにより、極域電離圏の研究を精力的に進めてきた。中でも、電離圏イオン上昇流・流出の研究では、世界をリードする成果を数多く生み出している。

最初の重要な研究成果として、小川氏はEISCATスバールバルレーダー(ESR)を中心に、複数の地上レーダーを用いて、高度600 km付近のイオン上昇流に伴うイオン温度の異方性を発見した[業績1]。この発見は、人工衛星等の直接観測やモデリング研究に大きなインパクトを与え、これまでに多くの学術論文に引用されると共に、その後のロケット・レーダー観測による極域大気流出研究の礎となっている。また、小川氏は、ESRを用いた新たな観測及び解析手法を開発することにより、イオンの流出過程を理解するための要となる電離圏上部のイオン組成及びイオン種毎の速度とフラックスを定量的に明らかにした。その研究成果はISレーダー観測に新しい展開をもたらすと共に、経験モデルやシミュレーション研究の発展に大きく貢献するものである[業績2]。さらに、小川氏は、過去24年間にわたるEISCATトロムソUHFレーダーデータから、夜側オーロラ帯における電離圏イオン上昇流の太陽活動度依存性を、その成因を含めて明らかにした[業績3]。本研究は、太陽活動が地球大気流出に与える影響について、その因果関係を踏まえて示しており、EISCATレーダーの宇宙天気・気候研究への大きな貢献といえる研究である。

これらの電離圏イオン上昇流・流出の研究実績を背景に、小川氏は複数の新規国際大型研究計画の国際ワーキンググループメンバーや国際会議のコンビーナとして、研究分野の発展のために重要な役割を担っている。国内においては、EISCATレーダーの全国共同利用のため、現地での観測に加えて、レーダー実験及び解析手法の開発やデータベースの作成・公開を積極的に進めている。小川氏はEISCATレーダーデータの解析を主な研究手法としながら、レーダーのハードウェアの造詣も深い。ISレーダーをすべての面で活用できる希有な人材であることから、国際的に電離圏物理学分野、特にEISCATコミュニティでの認知度は大変高く、今後、この分野を牽引していくことが期待される。以上の理由により、大林奨励賞候補者推薦委員会は全会一致で、小川氏を大林奨励賞に推薦し、評議員会において授賞が決定した。