氷期-間氷期の気温変動に
硫酸塩エアロゾルが寄与していたことを解明

研究成果のポイント

・アイスコアに保存されている水溶性エアロゾル粒子を観察する手法を世界に先駆けて開発。
・水溶性エアロゾルのひとつである硫酸塩エアロゾル粒子に着目し、過去30万年間のフラックス(1年間に1㎡あたりに降り積もる量を示す単位)を復元することに成功。
・大気中の硫酸塩エアロゾルが氷期-間氷期サイクルの気温変動を増幅していたことを初めて解明。
・将来の地球温暖化予測において、最も大きな不確定要因になっているエアロゾルの影響評価を、高精度でモデルに取り込むことができるようになると期待される。

研究成果の概要

アイスコアに保存されている水溶性エアロゾル(大気中に浮遊する微粒子)を微粒子1粒ごとに観察する手法を世界に先駆けて開発しました。この手法を用いて、南極で採取されたドームふじアイスコアに含まれる硫酸塩エアロゾルを測定しました。その結果、過去30万年間の氷期-間氷期サイクルにおいて、硫酸塩フラックスと気温の指標(酸素同位体比)の間に逆相関(気温が低い氷期に硫酸塩フラックスが大きい)がみられました。この事実は、硫酸塩フラックスが大きい時代は、エアロゾルの間接効果が気温低下をもたらしていることを示唆します。南極で約8℃の変化と考えられている最終氷期最盛期(約2万年前)から現在の間氷期(現在~約1万年前の温暖期)への気温変動のうち、硫酸塩エアロゾルの間接効果による寄与は最大で5℃と見積られ、硫酸塩エアロゾルが氷期-間氷期の気温変動に寄与したことを解明しました。

ドームふじアイスコアは1995年から1997年にかけて、国立極地研究所が中心となって行われたプロジェクト(南極氷床ドームふじ深層掘削プロジェクト)によって採取されました。ドームふじアイスコアはアイスコアコンソーシアムのもとで、国立極地研究所を中心とする国内の研究機関によって解析され、学際的な数多くの成果が創出されています。ドームふじアイスコアの詳細はホームページを参照願います。(http://polaris.nipr.ac.jp/~icc/NC/htdocs/

※エアロゾルが間接的に気温変化に作用すること。その一つにエアロゾルが雲の凝結核となり、雲の発生量を増加させる作用がある。雲は太陽光を跳ね返し、気温を下げる働き(グローバル・ディミング)をする。

論文発表の概要

研究論文名:Sulphate-climate coupling over the past 300,000 years in inland Antarctica
和訳名:南極内陸における過去30万年の硫酸塩エアロゾルと気温のカップリング
著者:飯塚芳徳(北海道大学低温科学研究所)、植村立(琉球大学)、本山秀明(国立極地研究所)、鈴木利孝(山形大学)、三宅隆之(国立極地研究所、現:滋賀県立大学)、平林幹啓(国立極地研究所)、本堂武夫(北海道大学低温科学研究所)
公表雑誌:Nature
発行日:英国時間 10月4日 ※報道解禁は、日本時間で10/4(木)朝刊・午前2時となります。

研究成果の概要

背景

図1 ドームふじアイスコア

南極のアイスコア(図1)には過去数十万年分の気温変動や二酸化炭素などの温室効果ガスといった環境指標が保存されています。なお、地球の気温変動に大きな影響を及ぼす要素として大気中に浮遊する微粒子(エアロゾル)があります(図2)。南極のアイスコアに含まれる硫酸エアロゾルには、液体の硫酸(H2SO4)と固体の硫酸塩(Na2SO4、CaSO4)が含まれています※1。これまでの研究では、アイスコア中の硫酸エアロゾルはこれらの成分を分離せずに測定していたために、氷期-間氷期スケールの放射強制力(気温変化)への影響は小さいと考えられてきました(図3)。

他方で、地球と生物が相互に関係し合い環境を作り上げているとする「ガイア仮説」があり、海洋生物活動によって増減する大気中の硫酸エアロゾルが気候を支配するという「CLAW仮説※2」(ガイア仮説の一つ)の検証が求められていました。南極のアイスコアに含まれる硫酸エアロゾルのほぼすべては、南大洋の海洋生物(植物プランクトン)活動によってもたらされます。南大洋は生物生産が活発な地域の一つであり、南極のアイスコアに含まれる硫酸エアロゾル変動は「CLAW仮説」の検証に適した指標です。

※1.固体の粒子である硫酸塩は、間接効果による放射強制力の影響が液体の硫酸よりも大きいと考えられている。
※2.CLAW仮説とは、海洋生物活動が活発になることで大気中に放出される硫酸エアロゾルが増え、それが気温を低下させ、その結果、寒冷化が生物活動を抑制するという、ある変化に対してその変化を抑制する方向に作用する「負のフィードバック」によって、生物活動が気候変動を安定化させるという説。

研究手法

本研究では、氷に含まれる硫酸塩(Na2SO4、CaSO4)粒子(図4)を測定する手法を開発しました※3。この手法を用いて、南極ドームふじアイスコア※4に含まれる硫酸塩エアロゾルを測定し、過去30万年間の硫酸塩の存在割合を得ました。その存在割合をもとに、過去30万年間の硫酸塩フラックスを復元しました。

※3.氷を低温のまま昇華させ、残留した微粒子をエネルギー分散X線分光法(Energy dispersive X-ray spectrometry EDS)で測定した。
※4.ドームふじ基地(南緯77度19分、東経39度42分、標高3810m、年平均気温-54.4度)で日本の南極地域観測隊が掘削を行ったアイスコア(氷床コアとも呼ばれる)。本研究で測定したアイスコアは長さ2503mに及ぶ。

研究成果

過去30万年間の硫酸イオンおよび硫酸塩エアロゾルのフラックスと、気温の指標(酸素同位体比)の間の相関に明らかな違いが見いだされました(図3)。従来の指標であった硫酸イオンのフラックスは気温と相関がない(図3左)のに対して、固体の硫酸塩エアロゾルのフラックスには負の相関がみられました(図3右)。すなわち、海洋生物(植物プランクトン)に由来する硫酸エアロゾルと気温変動にはカップリングは認められないにもかかわらず、硫酸エアロゾルから生成される硫酸塩エアロゾルと気温変動には明確なカップリングがあることを示しています。寒冷期に硫酸塩エアロゾルが多いという結果は、硫酸塩エアロゾルが寒冷化を増幅していること(正のフィードバック)を示唆しています。この結果は、CLAW仮説が提唱する、寒冷化に伴って硫酸エアロゾルが少なくなることで、寒冷化を抑制するというプロセスが成り立っていないことを示しています。

では、なぜ硫酸イオンのフラックスに変動が無いのに、硫酸塩エアロゾルのフラックスが気温と明らかな負の相関をもつのでしょうか。少なくとも、気温が高い間氷期は、硫酸塩エアロゾルの生成量は、大気中の海塩の量に依存します。そのため、大気中に放出される海塩の量が増加することが、硫酸塩エアロゾルの生成量増加のカギと考えられます。すなわち、図3右の負の相関は、CLAW仮説が想定するような生物系と物理系の相互作用の結果ではなく、海塩の量という大気海洋物理学的な作用の結果と考えることができます。

過去30万年間の硫酸塩フラックスと気温の逆相関は、硫酸塩フラックスが大きいときにエアロゾルの間接効果による負の放射強制力が強まり、硫酸塩が気温低下に寄与していることを示唆します。南極で約8℃の変化と考えられている最終氷期最盛期(約2万年前)から現在の間氷期(現在~約1万年前の温暖期)にかけての気温変動のうち、硫酸塩エアロゾルの間接効果による寄与は概算で0.1~5℃と見積られました。

今後への期待

将来の地球温暖化に対するエアロゾルの間接効果による放射強制力の算出は不確実性が最も高く、影響評価の定量化に向けて活発な研究が行われています。1950年から数十年にわたって、二酸化炭素濃度は上昇しているのに、気温が低下した時期があり、エアロゾル(大気汚染)によるグローバル・ディミング(地球薄暮化)だと言われています。今回の成果は、人間活動の影響のない氷期-間氷期変動において、大気中のエアロゾルが気温変動に寄与していたことを示す初めての結果です。

過去数十万年の気候変動については気温、二酸化炭素濃度などの変動が明らかになりつつあり、本研究は、硫酸塩エアロゾルの変動という新たな知見を提供しました。これは、過去の大規模な気候変動が起こった際のメカニズムを理解することにつながり、将来の気候変動をコンピューターで予測する際の精度向上にもつながると期待されます。

図2 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)で報告された、産業革命前(人為的な温暖化傾向以前)の気温と比較した、最終氷期最盛期(約2万年前)の気温低下の要因とその科学的理解度(2007年時)。
右から2列目の棒グラフはエアロゾルが気温変化に与える寄与であり、気温変化に対して第3の要因であるにもかかわらず、その科学的理解は低いままであった。
(出典:気候変動に関する政府間パネル第一作業部会第四次評価報告書「気候変動の物理科学的根拠」)

図3 従来の解釈である硫酸イオンフラックス(黒)と今回明らかとなった硫酸塩フラックス(青)の氷期-間氷期の気温変化との関係。硫酸イオンフラックス(黒)は気温に無相関であるが、硫酸塩フラックス(青)は気温と逆相関であることがわかる。

図4 新しい手法で観察されたエアロゾル微粒子(冷陰極電界放射型走査電子顕微鏡写真)
背景の黒い丸は微粒子を載せているフィルターの穴である。
「北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センター 福井研究室の協力で撮影」