ペンギンにビデオカメラをつけて海中のエサ取りを観察

2013年1月22日

情報・システム研究機構国立極地研究所(所長:白石和行)は、南極のアデリーペンギンに小型ビデオカメラをとりつけることにより、ペンギンが海中でエサをとる様子をペンギンの視点から観察することに成功しました。ビデオカメラで観察したエサ取りのタイミングを、同時に記録したペンギンの頭の動きと照合することにより、頭の動きだけからエサ取りの行動を検出できることがわかりました。長時間にわたって記録した頭の動きを分析することより、ペンギンがいつ、どこで、どのようなエサを捕えていたかを初めて把握することができました。

研究の背景

動物の生態をよりよく理解するためには、どんなエサをいつ、どこで、どのくらい食べたかを調べる必要があります。獲得したエサの質や量によって動物の健康状態あるいは生死が決まるからです。そのため、野生動物がエサをとったタイミングやエサの種類を長時間にわたって記録する手法が今までにいろいろと試されてきましたが、なかなかうまくいきませんでした。

たとえばもっとも直接的な方法として、動物の背中にビデオカメラをとりつけ、動物の視点からエサ取りを観察するやり方が試されました。しかし、ビデオカメラはメモリーや電力の消費量が大きいため、動物の背中につけられるくらいまで小型化すると、たった数時間しか記録できませんでした。

あるいは別の方法として、動物の頭の動きや胃の中の温度など、エサをとったタイミングに合わせて変動するデータを記録するやりかたが試されました。この手法ならビデオと違って長時間の記録が可能でしたが、データが本当にエサ取りのタイミングに対応しているのかどうか、疑問が残りました。

そこで本研究では、最新のバイオロギング技術を使い、小型ビデオカメラと頭の動きの記録計の両方をアデリーペンギンにとりつけました。一目瞭然だけど短時間しかもたないビデオカメラと、長時間もつけれど間接的でしかない記録計が、お互いの短所を補うかたちで機能するようにしました。

研究の内容

第52次日本南極地域観測隊において、2010年12月から2011年2月にかけ、昭和基地の近くにある袋浦と呼ばれるアデリーペンギンの営巣地で調査を実施しました。14羽のペンギンに防水テープを使って小型ビデオカメラを背中に、頭の動きの記録計を頭にそれぞれとりつけ、数日後に回収してデータを集めました。

まず、ビデオ映像を確認したところ、オキアミや魚を捕えるシーンが多数映っていました(図1、2、3)。魚はほとんどがボウズハゲギスという種類でした。この魚はいつも海氷のすぐ下を泳いでいる変わった生態の持ち主です。ペンギンは約85分の記録時間の間にオキアミを244匹、あるいは氷の下のボウズハゲギスを33匹も食べていました。オキアミの群れに遭遇したときは目にもとまらない速さで1秒あたり2匹も捕えていました。

次に、ビデオ映像で確認したエサ取りのタイミングを頭の動きのデータと照合したところ、両者はよく一致しました(図4)。ペンギンがエサを捕まえるときは必ず頭を強く振るので、そのシグナルが記録されていたわけです。ビデオがなくても頭の動きだけからエサ取りの行動を検出できることがわかりました。

そして最後に、数日間にわたるデータ全体からエサ取りの行動を検出することにより、ペンギンがいつ、なにを、どのくらい捕えていたかを把握することができました。一回の潜水中に捕獲したオキアミの数はばらつきがとても大きく、べき乗分布と呼ばれる統計モデルで表されました(図5)。これはペンギンにとってオキアミは当たり外れの大きい、予測の難しいエサであることを示しています。いっぽう氷の下のボウズハゲギスは、一回の潜水中に捕えた数のばらつきが少なく、安定したエサ資源であることがわかりました。

このようにビデオカメラと行動記録計の両方をペンギンにとりつけ、(1)ビデオで観察し、(2)ビデオと行動記録を照合し、(3)行動記録の全体からエサ取りを検出する、という3段階を踏むことによって、ペンギンがいつ、なにを、どのくらい食べていたのかを初めて明らかにすることができました。

今後の展望

南極のアデリーペンギンにとって、ボウズハゲギスはオキアミと違っていつも安定して捕えることのできる貴重なエサ資源であることがわかりました。近い将来、気候変動とともに海氷の張り出し具合が変化すれば、そのすぐ下に居つくボウズハゲギスの分布も変化し、それはそのままアデリーペンギンの生存率にも影響を与えかねません。今回のような調査を長期間にわたって継続することで、ペンギンと環境との関わりを明らかにし、将来の変化を予測することが可能になると期待されます。

また、ビデオカメラと行動記録計とを組み合わせる本研究の手法は、ペンギンに限らずいろいろな動物に応用が可能です。野生動物がどのような環境のもと、どんなエサをどれくらい食べていたかを調べることで、動物の生態をよりよく理解するだけでなく、動物が環境に与える影響をも評価することができると考えられます。

発表論文

この成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。

論文タイトル

Linking animal-borne video to accelerometers reveals prey capture variability

著者

Yuuki Y. Watanabe1 and Akinori Takahashi1
1 National Institute of Polar Research

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ビデオ1:浅い潜水を繰り返すところ

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ビデオ2:オキアミを捕まえるところ

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ビデオ3:氷の下の魚を捕まえるところ

 

図1:ペンギンにとりつけたビデオカメラによる画像の例。

図2:オキアミを捕える瞬間。手前に見えるのはペンギンの後頭部。

図3:氷の下でボウズハゲギスを捕える瞬間。ペンギンの頭には記録計がついている。

図4:オキアミを捕える潜水(A)とボウズハゲギスを捕える潜水(B)のデータ。頭の加速度から検出したシグナルはビデオで確認したエサ取りのタイミングとよく一致した。

図5:ペンギンが一回の潜水で捕獲したオキアミの数(A)とボウズハゲギスの数(B)の頻度分布。オキアミの捕獲数はばらつきがとても大きく、べき乗分布という統計モデルで表すことができた。

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国立極地研究所 広報室 kofositu@nipr.ac.jp