北グリーンランドの氷床コアから最終間氷期における気候と氷床の変動を復元

国立極地研究所が参加した北グリーンランド氷床深層掘削計画(North Greenland Eemian Ice Drilling:NEEM計画)によって掘削された氷床コアから、エーム間氷期と言われる最終間氷期(13万年前~11万5千年前)の気候と氷床の変動が復元されました。北グリーンランドでは、最終間氷期が始まったばかりの12万6千年前頃が最も温暖で、気温が現在よりも約8℃±4℃高かったことが分かりました。その後、気温は徐々に低下しました。12万8千年前と12万2千年前の間の6千年間に北グリーンランドの氷床の厚さは400±250m減少し、12万2千年前には氷床表面高度が現在よりも130±300m低下していました。また、現在では殆ど融雪が生じない北グリーンランド内陸部でも、12万7千年前から11万8千年前には、2012年の7月と同様、夏に氷床表面で融解が生じていました。この研究成果は、地球温暖化に伴う将来のグリーンランド氷床の変動を予測するために重要な情報を与えてくれます。

この研究成果は1月24日発行の「Nature誌」に掲載されました。

研究の背景


図1:NEEM地点

これまで北半球の氷床コアから得られていなかった最終間氷期の気候・環境変動の記録を得るために、北グリーンランド氷床深層掘削計画(略してNEEM計画)の下で氷床コア掘削が実施されました。NEEM計画は、コペンハーゲン大学をリーダーとして日本を含む14カ国が参加した国際共同掘削計画です。掘削地点は北緯77.45度、西経51.06度、標高約2450mのグリーンランド氷床上で、掘削計画の名前に因んでNEEMと呼ばれています。2008年に開始された掘削は、2010年7月末に岩盤直上の2537mの深さまで達しました。その後、氷と岩屑が入り交じった層を数メートル掘削した後、2012年の夏に掘削計画が終了しました。NEEMで掘削された氷床コア(NEEMコア)はNEEM計画の参加国に分配され、現在、様々な分析が行なわれているとろころですが、NEEM計画全体としての最初の研究成果が1月24日発行の科学誌Natureで報告されます。 

研究方法

NEEMコアの氷の酸素同位体比の分析と、同コアから抽出した空気の量と成分の分析を行ないました。これらの結果とモデル計算を組み合わせることによって、最終間氷期の気温、氷床高度、氷床表面融解についての情報を得ることができました。

研究成果

NEEMでは、岩盤付近で氷の層が褶曲していたため、現在から最終氷期に至るまでの連続した氷を掘削することができませんでした。層の褶曲がない場合、深いところほど古い時代の氷が存在するはずですが、NEEMでは、氷の深さと年代の関係が逆転していたり、同じ時代の氷が3回現れたりするなど、層の乱れがありました。そこで、NEEMコアの酸素同位体比や空気の成分の分析結果を、グリーンランドの他の地点や南極で掘削された氷床コアの分析結果と比較することにより、褶曲した氷の各層の年代を決めました。そのようにして、NEEMコアから得られたデータを年代順のデータとしてつなぎあわせた結果、最終間氷期の大部分は連続した層として保存されていることが明らかになり、最終間氷期の気候・環境をほぼ完全に復元することができました。


図2:最終間氷期の気温と氷床高度の変動

図2はNEEMコアから復元された最終間氷期の気温と氷床高度の変動を示したものです。図2aの黒線は氷の酸素同位体比で、赤線は酸素同位体比から推定された気温です。気温は、最近千年の平均値からのずれとして表されており、正の値は現在よりも高温だったことを意味します。図2bの実線は含有空気量のデータで、一点鎖線は氷床表面融解がない場合の含有空気量の推定値です。実際には氷床表面融解が生じていたため、含有空気量のデータは一点鎖線からはずれて値が大きく低下しています。融解がない場合、含有空気量は氷床高度の変化に伴う気圧変化と日射量変化の影響を受けて変化します。図2cの青色の一点鎖線は、これに基づき、融解がないとした場合の含有空気量の推定値(黒の一点鎖線)から日射量の変化(緑色線)による影響と氷床流動の影響(水色線)を差し引いて、氷床高度の変化を推定した結果を、現在からの差として示したものです。

図2から、北グリーンランドでは、最終間氷期が始まったばかりの12万6千年前頃が最も温暖で、気温が現在よりも約8℃±4℃高かったことが分かります。また、12万8千年前と12万2千年前の間の6千年間に氷床の厚さが400±250m減少し、12万2千年前には氷床表面高度が現在よりも130±300m低下していたことが分かります。

図2の薄い灰色で囲まれた部分(11万8千年前~12万7千年前)は、氷床表面の融解が生じていた時代です。図3は、含有空気量だけでなく、NEEMコアから抽出した空気の希ガスの存在比(σKr/Ar、σXe/Ar)やメタン(CH4)濃度も極端に大きな値になっている深さがあることを示しており、この時代に氷床表面が融解していたことを裏付ける強力な証拠です。

今後の展望

現在のNEEMでは、夏でも気温が融点を超えることが希であるため、近年は氷床表面の融解が殆ど観測されていませんでしたが、2012年の7月は例外的に暖かく、顕著な融解が観測されました。今後、地球温暖化が進行すれば、最終間氷期と同様に北グリーンランド内陸部でも大規模な融解が起こると考えられます。

最終間氷期は現在よりもかなり温暖で、グリーンランド氷床の内陸部でも大規模な表面融解が起きていたと考えられますが、NEEMコアの研究結果に基づくと、最終間氷期におけるグリーンランド氷床の氷の量は、最低でも現在の90%はあったと推定され、従来の推定値よりも大きくなりました。最終間氷期には海水準が現在よりも4~8m高かったと推定されていますが、グリーンランド氷床の縮小だけではこれだけの海面上昇は説明できません。本研究の結果は、最終間氷期に南極氷床が縮小し、海面上昇に大きく寄与していたことを示唆しています。

NEEMコアは現在各国が精力的に分析を進めており、日本もエアロゾル、大気成分、微生物、物理特性などの研究を実施しています。日本はドームふじコアの研究も実施しており、両極の氷床コアの比較研究によって、全球規模の気候・環境変動メカニズムの解明を目指しています。

研究方法

NEEMコアの氷の酸素同位体比の分析と、同コアから抽出した空気の量と成分の分析を行ないました。これらの結果とモデル計算を組み合わせることによって、最終間氷期の気温、氷床高度、氷床表面融解についての情報を得ることができました。


図3:NEEMコアの希ガス存在比とメタン濃度

発表論文

この研究成果は2013年1月24日発行のNature誌に出版されました。

論文タイトル

Eemian interglacial reconstructed from a Greenland folded ice core.
(グリーンランドの氷床コアによるエーム間氷期の気候・環境復元)

著者

NEEM community members
メンバーの中に、日本からNEEM計画に参加した、以下の7名の研究者(アルファベット順)が含まれます。
Nobuhiko Azuma (東 信彦:長岡技術科学大学)
Kumiko Goto-Azuma(東 久美子:国立極地研究所)
Motohiro Hirabayashi(平林 幹啓:国立極地研究所)
Kenji Kawamura(川村 賢二:国立極地研究所)
Takayuki Kuramoto(倉元 隆之:国立極地研究所、現在信州大学)
Atsushi Miyamoto(宮本 淳:北海道大学)
Jun Uetake(植竹 淳:国立極地研究所)

論文出版情報

Nature, Vol. 493, No.7433 (2013年1月24日発行)
http://www.nature.com/nature/journal/v493/n7433/full/nature11789.html