オーロラの全天周3Dプラネタリウム映像からオーロラの発光高度分布を測定する新手法を開発

掲載日:2013年9月6日

国立極地研究所 宙空圏研究グループ・総合研究大学院大学の片岡龍峰准教授ほか、名古屋大学太陽地球環境研究所、東京大学等からなる研究チームは、オーロラの魚眼デジタルカメラ撮影を8km離れた2地点で同時に行うことで、立体感のあるオーロラの3Dプラネタリウム上映に成功してきました。オーロラの細やかな構造が立体視できるということは、オーロラの高さ分布を逆算できるはずです。そこで、人間の左右の眼が物体への距離感を測る原理と同様の手法を用いてオーロラの高さ分布を求めた結果、これまでの研究成果と整合的かつ高精細なオーロラの発光高度分布が得られることがわかりました。この研究成果は、世界各地で写真家や愛好家が同時に撮影したオーロラ写真を集めて同様に分析することで、従前の科学的手法だけでは補いきれなかった多角的な情報を得ることができるため、オーロラ科学の進展に重要な貢献が生まれる可能性を秘めています。

この研究成果は9月6日発行の「Annales Geophysicae誌」に掲載されました。

研究の背景

宇宙からは常に、高速の粒子が地球の大気に降り注いでいます。その中で、人間の目にもはっきりと見える発光現象がオーロラです。宇宙から地球の大気へ降り注ぐ電子一つ一つのエネルギーが高いほど、大気の深いところ、つまり低い高度まで電子が到達し、そのエネルギーを受けた大気中の原子や分子がエネルギーを失うときにオーロラとして発光します。つまり、オーロラの高さを調べることは、地球の大気を使って、宇宙から降り注ぐ電子のエネルギー分析をしていることになります。このようにオーロラの発光形態を立体的に明らかにしつつ、総合的に研究することで、地球の大気が宇宙から受けるインパクトや、その仕組みが明らかになり、宇宙と地球のつながりの過去や未来を知るためにも重要な、基礎的な情報を与えてくれます。

オーロラの高さ分布を立体視の原理で調べる研究は、オーロラの発生原理も分からなかった100年ほど前から取り組まれている古典的なものです。近年、デジタル一眼レフカメラの感度とピクセル数が急速に高まり、過去とは比べものにならない高精細なオーロラ画像を、比較的安価に取得することが可能になりました。この点が、本研究の一番の特徴となっています。「オーロラは立体視できるか?」をテーマに掲げたオーロラ3Dプロジェクトは、その科学アウトリーチ活動の一環として、Nikonからの機材提供を受けた魚眼デジカメ立体撮影と、科学技術館のシンラドームにおける3D上映実験を2010年から繰り返してきました。半透明でぼんやりとしたオーロラが、そもそもうまく立体視できるかどうか自体が、オーロラの専門家の中でも意見のわかれるところでした。

2012年の暮れから2013年の春にかけて、新たに撮影したオーロラ映像を使って実際にオーロラの3D上映を行った結果、目前に立体的に浮かび上がるオーロラは驚くほど美しいものでした。オーロラの細やかな模様を立体視で詳細に観察できるということは、原理的にオーロラの高さ分布が逆算できるはずだとの確信を得て、オーロラの発光高度分布を実際に求めたものが本研究成果です。

研究方法

水平距離で8km離れた2地点(アラスカ大学のポーカーフラット実験場と、オーロラロッジ)でオーロラの魚眼デジタルカメラ撮影を行いました。人間の左右の目が物体への距離感を掴むのと同様の原理を視野角で1度ごとに適応することでオーロラの発光高度分布を求めました。

図1:オーロラを立体視する原理(絵:川添むつみ、http://aurora3d.jp/より転載)

図2:ポーカーフラット実験場(左)とオーロラロッジ(右)の設営風景

研究成果

図3:ポーカーフラット実験場(左)とオーロラロッジ(右)で撮影した魚眼写真の例

撮影に成功したオーロラの魚眼映像は図3のようなもので、空全体が映り込みます。円の中心が天頂で、そこから等視野角間隔で撮影されています。図3のように色に赤みのあるカーテン型のオーロラは主に高度100-400 kmで光っており(図4左)、ぼんやりと脈を打つように変化するオーロラは主に高度80-90 kmという低い高度で光っている(図4右)ことが推定されました。これらの結果は、後者のオーロラのほうが桁違いに高い数10キロエレクトロンボルトのエネルギーを持つ電子によって発光するという過去の研究結果と整合的な結果になっています。

図4:本研究で得られた、赤みのあるカーテン型のオーロラ(左)とぼんやりと脈を打つオーロラ(右)の全天映像中心部における発光高度分布図。ドットの色が推定高度を表す。

今後の展望

本研究の高度分布推定手法は、適切な距離間隔を置いて同時に撮影されたオーロラのデジタルカラー写真全般に適応することができます。また、正確な時間と位置情報を写真ファイルに記録するGPSユニットも安価で使いやすいものが市販されてきました。つまり、世界各地で写真家や愛好家が同時に撮影したオーロラ写真を結集することが、宇宙から降り注ぐ電子のエネルギーを調べる分析装置となり、その他の科学観測と相補的な役割を果たすため、市民ネットワーク参加型の新しいスタイルの研究として、従前の科学的手法だけでは補いきれなかった多角的な情報を得ることができるため、オーロラ科学の進展に重要な貢献が生まれる可能性を秘めています。

発表論文

この研究成果は2013年9月6日発行のAnnales Geophysicae誌に出版される予定です。

論文タイトル

Stereoscopic determination of all-sky altitude map of aurora using two ground-based Nikon DSLR cameras
(2台のNikonデジタル一眼レフカメラを用いたオーロラ全天高度マップの立体測定)

著者

Ryuho Kataoka(片岡 龍峰:国立極地研究所・総合研究大学院大学)
Yoshizumi Miyoshi(三好 由純:名古屋大学)
Kai Shigematsu(重松 界:名古屋大学)
Donald Hampton(ドナルド ハンプトン:アラスカ大学)
Yoshiki Mori(森祥樹:静岡大学)
Takayuki Kubo(久保 尭之:東京大学)
Atsushi Yamashita(山下 淳:東京大学)
Masayuki Tanaka(田中 正行:東京工業大学)
Toshiyuki Takahei(高幣 俊之:オリハルコンテクノロジーズ)
Taro Nakai(中井 太郎:名古屋大学)
Hiroko Miyahara(宮原 ひろ子:武蔵野美術大学)
Kazuo Shiokawa(塩川 和夫:名古屋大学)

論文出版情報

Annales Geophysicae, Vol.31, No.9(2013年9月6日発行)
http://www.ann-geophys.net/recent_papers.html

本件問い合わせ先

研究成果について

国立極地研究所准教授・総合研究大学院大学准教授 片岡龍峰
TEL:042-512-0929 FAX:042-528-3499
E-mail:kataoka.ryuho@nipr.ac.jp

報道について

国立極地研究所広報室 小濱広美
TEL:042-512-0655 FAX:042-528-3105
E-mail:kofositu@nipr.ac.jp