地圏研究グループ 菅沼悠介助教が「地球電磁気・地球惑星圏学会 大林奨励賞」を受賞しました

掲載日:2013年11月12日

研究テーマ

堆積残留磁化獲得機構の岩石磁気学的研究と太古代堆積岩の精密磁化測定

対象論文

Suganuma Y., Okuno, J., Heslop, D., Roberts, A.P., Yamazaki, T., Yokoyama Y.,
Post-depositional remanent magnetization lock-in for marine sediments deduced from Be-10 and paleomagnetic records through the Matuyama-Brunhes boundary, Earth Planetary Science Letters, 311,39-52, 2011.

Suganuma Y., Yokoyama Y., Yamazaki T., Kawamura K., Horng C. S., Matsuzaki H.,
Be-10 evidence for delayed acquisition of remanent magnetization in marine sediments: Implication for a new age for the Matuyama-Brunhes boundary, Earth Planetary Science Letters, 296, 443-450. 2010.

Suganuma Y., Y. Hamano, S. Niitsuma, M. Hoashi, T. Hisamitsu, N. Niitsuma, K. Kodama, M. Nedachi,
Paleomagnetism of the Marble Bar Chert Member, Western Australia: implication for an Apparent Polar Wander Path for Pilbara craton during Archean, Earth Planetary Science Letters, 252, 360-371, 2006.

過去の地磁気変動を連続的に復元するために堆積物が広く利用されており、堆積残留磁化の有用性は多くの研究者に認められている。その基礎となる堆積残留磁化はこれまで数十年にわたり研究されてきたものの、未だ不明の点が多く残されている。特に、堆積過程で磁化を獲得するメカニズムは重要である。岩石磁気学的研究の開始当初は堆積後の圧密によって徐々に磁化が固着するモデルが主流であったが、最近の有力モデルでは堆積粒子間凝集を重要なプロセスとし、磁化は堆積時に固着すると考えている。したがって、堆積残留磁化獲得機構の極めて重要な問題について、モデルにより見解が大きく異なっている。このような研究背景のもと、菅沼会員は実際の堆積物データから磁化固着の深度を正確に示すため、宇宙線起源の同位体元素測定という異分野の手法を導入した。その結果、残留磁化獲得と地磁気変動との時間差が有意に存在すること、及び、堆積残留磁化の獲得時に堆積物圧密以外の重要なプロセスがあることを示した。

菅沼会員の研究の中で今回選考の対象となった主な成果は、堆積物の残留磁化と宇宙線生成核種10Beの堆積物中濃度という異なる種類のデータを比較し、堆積残留磁化の固着深度を正確に推定したこと、堆積残留磁化獲得の確率過程を詳細にモデル化し、短周期地磁気変動が従来の考えよりも忠実に記録されうることを示したこと、約35億年前の堆積岩に対する残留磁化精密測定から当時の極移動曲線を詳細に復元したことである。

最初の研究では、海底堆積物に記録されたブルン・松山地磁気逆転時について、古地磁気学的手法で測定した残留磁化強度と、同位体元素測定による10Beフラックスを比較した。宇宙線生成核種の一つである10Beフラックスは地磁気強度に支配され、堆積時に地磁気強度変動を記録する。典型的な例として、磁場強度が著しく弱くなる地磁気逆転の時には10Beフラックスが極大になる。菅沼会員はこのことを念頭に置き、ブルン・松山地磁気逆転時の同一の堆積物試料に対して、残留磁化と10Beフラックスの両方を測定した。その結果、10Beフラックス変動と比較して、堆積残留磁化強度変動には堆積物深度で約15 cm分の時間差があることを明らかにした。この結果は、最近の有力モデルとは異なり、堆積後に磁化が獲得されたことを示している。菅沼会員はこの固着深度に対応する時間差を考慮し、ブルン・松山地磁気逆転の年代は従来の説より1万年程度若い約77万年前と推定した。

次の研究では、菅沼会員は堆積後の残留磁化固着プロセスを実測データに基づいてより詳細に検討した。堆積後に残留磁化を獲得する場合、従来のモデルでは堆積物の圧密過程を重視し、深さとともに磁化獲得効率は指数関数的に減少すると考えていた。菅沼会員は、測定した堆積物の磁化獲得効率が指数関数型ではなく、約17cmの固着幅を持つガウス関数で近似できることを明らかにし、堆積後の磁化獲得に圧密以外の重要なプロセスが作用していることを指摘した。また、従来の指数関数型固着では短周期地磁気変動が大きく減衰する磁化記録となり、実測で短周期成分も比較的よく記録されている事実と矛盾していた。菅沼会員が提示したガウス関数型固着では、短周期成分が従来のモデルよりも忠実に記録される。このことから、堆積物の磁化固着モデルと実測との整合性、及び、堆積残留磁化による地磁気変動記録の特徴を明確に示した。

さらなる研究は堆積残留磁化の精密測定である。菅沼会員は、北西オーストラリアのピルバラ地塊で掘削された太古代チャート層のボーリング試料を用いて、約35億年前のテクトニクスを詳細に検討した。本研究では、通常用いられる表層の堆積岩ではなく、風化・変質の影響を受けにくいボーリング試料を用いたことで、初生的と考えられる磁化方位の抽出に成功した。従来のデータと合わせピルバラ地塊の太古代極移動曲線を構築した結果、当時の大陸移動速度は年間12~112cmと推定され、太古代の大陸プレートは現在よりかなり速い移動が可能であったことを示唆した。

これら3つの研究成果は新しい手法に挑戦してきた結果であり、堆積物を利用した古地磁気学を新たに進展させるものである。また、菅沼会員は古地磁気学の範疇にとどまらず、年代層序学やテクトニクスへの応用、古気候・古環境研究への応用などの学際的研究も積極的に行っており、今後の幅広い活躍がいっそう期待されている。

以上の理由により、菅沼会員に大林奨励賞を授与する。