小惑星起源の玄武岩に含まれるジルコンの形成過程が明らかに掲載日:2014年1月10日 国立極地研究所 地圏研究グループ 山口亮 助教、堀江憲路 助教、及び東京大学大学院 理学系研究科附属 地殻化学実験施設の羽場麻希子 研究員(JSPS 特別研究員)らによる国立極地研究所プロジェクト研究「隕石や宇宙塵から太陽系の進化を解明」(研究 代表者:小島秀康教授)において、研究所内の装置(SHRIMPⅡ、および、電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、変成度の異なるユークライト隕石中のジルコンの微小領域分析を行い、ユークライト母天体におけるジルコンの形成過程を明らかにした。日本の探査隊が回収した南極隕石(Yamato-75, -79, -82, Asuka-88)から、得られた成果である。 この研究成果はElsevierが発行する [Earth and Planetary Science Letters] に、2014年2月1日に掲載される。 研究の背景小惑星ベスタ(直径約530km)は、内部に層構造を持ち、もっとも小さな地球型惑星だといわれている。この小惑星ベスタの最外地殻を構成していたと考えられているユークライト隕石(玄武岩)には、ジルコン(ZrSiO4)と呼ばれる鉱物が存在する。ジルコンは、物理化学的に安定な鉱物であり、ウラン・鉛(U–Pb)系やハフニウム・タングステン(Hf–W)系などの放射壊変系で、形成時に親核種を取り込む一方で娘核種を取り込み難い性質を有するため、地球の岩石の年代測定に広く利用されている。ユークライト中のジルコンについても二次イオン質量分析計を用いた年代測定が行われており、小惑星ベスタの形成や原始惑星の進化に関する年代学的情報を引き出すことに成功している。このように、隕石中のジルコンは惑星物質の進化過程を議論する上で年代軸を与える重要な鉱物であるが、隕石中のジルコンの形成過程についての詳細な議論は行われていない。本研究では、変成度の異なる玄武岩質ユークライト中のジルコンの微小領域分析を行い、ユークライト母天体におけるジルコンの形成過程を明らかにした。 研究対象・手法試料の玄武岩質ユークライトは、主に、国立極地研究所(極地研)・南極隕石ラボラトリが所有する南極隕石(Yamato(Y)-75011、Y-82082、Y-792510、Asuka(A)-881467)を用いた。これらの試料から見つかった56粒のジルコンについて、極地研が所有する電子プローブマイクロアナライザを用いて主要元素定量分析を行った。次に、Y-792510、A-881467、Stannern中の粒径10μm以上のジルコンについて、極地研(SHRIMPラボラトリ)および広島大学が所有する2台の高感度高分解能イオンマイクロプローブ(SHRIMPⅡおよびSHRIMPⅡe)を用いて希土類元素定量分析を行った。 研究成果各玄武岩質ユークライトに含まれるジルコンの最大粒径と変成度には、良い相関が見られた。本研究で用いた試料では、変成度の大きな玄武岩質ユークライト中でより大きなジルコンが見つかる傾向が確認された(図1)。このことから、玄武岩質ユークライト中のジルコンの形成過程には、母天体での火成活動だけでなく熱変成作用も関わっていることが示された。 玄武岩質ユークライト中のジルコンのZr/Hf元素比は、全岩のZr/Hf元素比と比較して大きく変動しており、ジルコン粒子内においても不均一なZr/Hf比が確認された。ジルコンは母天体におけるマグマの結晶分化過程において最終残液から晶出したと考えられる鉱物である。したがって、ジルコンのZr/Hf元素比は、ジルコンが晶出した際の非常に局所的な領域の情報を反映していると考えられる。このZr/Hf元素比が大きく変動する理由は、ジルコンと同様に最終残液から晶出し、ZrやHfを多く含むと考えられているイルメナイト(FeTiO3)やバデレアイト(ZrO2)がジルコンと競合しながら晶出したためと考えられる。 玄武岩質ユークライト中のジルコンの希土類元素濃度からは、これらのジルコンが地球表面とは異なる環境下で形成したことが示された。また、ジルコンと溶融液の分配係数と分析から得られた希土類元素濃度を用いてジルコンを形成した溶融液の希土類元素組成を求めた。その結果、変成度の大きな玄武岩質ユークライト中のジルコンは形成後に希土類元素に富む溶融液と反応したことが示唆された。このような希土類元素に富む溶融液は、ユークライト母天体でソリダス温度(約1060℃)程度の熱変成を受けた場合に、メソスタシス(低融点物質の集合体)な領域が選択的に部分溶融を起こすことによって生じることが知られている。玄武岩質ユークライト中のジルコンの多くはメソスタシスな領域を構成する鉱物(イルメナイト、リン酸塩鉱物、シリカ鉱物など)と共存するため、熱変成作用中にメソスタシスな領域の部分溶融の影響を受けながら過成長を起こしたと考えられる。 今後の展望以上の結果から、ユークライトにおけるジルコンの形成過程には、母天体で起こった火成活動だけでなく熱変成作用も大きく関わっていることが示された。ジルコンは物理化学的に安定な鉱物であるため、ユークライト母天体において形成もしくは過成長を起こした時点での情報をそのまま保持している可能性が高い。今後、これらのジルコンについての詳細な研究が、太陽系初期における惑星物質の進化過程の解明に繋がることが期待される。 図1:南極隕石Y-75011とA-881467で見つかったジルコンの電子顕微鏡写真。Y-75011はユークライトの変成度の分類において最も変成を受けていないタイプに属する。図中のY-75011のジルコン(明るい灰色の部分)は、イルメナイト(暗い灰色の部分)やバデレアイト(白い部分)の周辺を取り囲むように脈状に存在している。Y-75011のジルコンは非常に複雑な形状をしており、最大粒径は5μmである。A-881467の変成度は高く、1000℃程度の熱変成作用を受けたことが報告されている。A-881467に存在するジルコンは最大粒径が30μmであり、丸みを帯びた形状で周辺鉱物との境界が明確であることが特徴である。 発表論文この成果は、Elsevierが発行する [Earth and Planetary Science Letters] に、2014年2月1日に掲載される。 論文タイトルMajor and trace elements of zircons from basaltic eucrites: Implications for the formation of zircons on the eucrite parent body(玄武岩質ユークライト中のジルコンの主要および微量元素の研究:ユークライト母天体でのジルコンの形成過程について) 著者Makiko K. Haba1,2, Akira Yamaguchi1, Kenji Horie1, and Hiroshi Hidaka3 1National Institute of Polar Research, Tokyo, Japan 本件問い合わせ先研究成果について国立極地研究所 助教 山口 亮 報道について国立極地研究所 広報室 小濱 広美 |