大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

南極域の海氷面積が観測史上最小を記録

2017年3月23日
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

南極域の海氷面積(注12)が2017年(平成29年)3月1日、1978年の衛星観測開始以来の最小値を更新したことが明らかになりました。

国立極地研究所(所長:白石和行)は北極域研究推進プロジェクト(ArCS、注3)の一環として、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA、理事長:奥村直樹)の水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)の観測データをもとに、南極・北極の海氷面積の時間的・空間的な変化を可視化し、北極域データアーカイブシステム(ADS、注4)のウェブサイトで公開しています。

この衛星観測データにより、昨年以降、南極大陸周辺の海氷面積データに特徴的な変化が現れていることが分かりました。2016年10月中旬に海氷面積が1767.6万km2となり、同月としては観測史上(1978年以降)最小の海氷面積を記録しました。この縮小傾向は継続し、2017年3月1日に海氷面積が214.7万km2となり、年間を通じての観測史上最小値を更新しました(図1)。なお、2000年代(2000~09年)の年間最小面積の平均は303.2万km2でした。つまり、2017年の年間最小面積は、2000年代の平均値の70.8%であったことになります。

また、海域別には、アムンゼン海(西経110度付近)から西経160度にかけての沿岸で、過去の平均的な変化と比べ2017年の海氷後退が顕著であることが分かりました(図2)。

図1: 1978~2017年の各年の南極海における海氷域面積の変動。2016年は水色、2017年は赤色のグラフで示されている。「しずく」に搭載されたAMSR2や、他のマイクロ波放射計データから作成した、1978年以降の海氷長期データより作成した。2016年11月(緑丸部分)に、同月における海氷面積が衛星観測史上最小になり、さらに2017年2月末(赤丸部分)には、年間を通じても最少になった。数値データはウェブサイト(https://ads.nipr.ac.jp/vishop/#/extent)でダウンロードが可能。

図2:水循環変動観測衛星「しずく」がとらえた南極域での海氷の分布(2017年3月1日時点。白色部分)。橙色の線は2000年代の同時期の平均的な海氷縁の分布を示す。

海氷は大気-海洋間の熱交換量で成長や融解する量が決まるほか、海氷は風や海流によって漂流し、ときには板状の海氷が互いに重なり合うような激しい変化が起こることもあります。また、海氷が地球環境の中で果たす役割は面積のみならず、厚さや表面状態によっても変わってきます。したがって、衛星データから得られる海氷面積の増減の情報と合わせて、海氷の厚さ変化や表面状態、さらには海氷の漂流の様子などを総合的に解析して、変化の特徴やその要因を明らかにすることが重要です。

図3:水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)

また、「しずく」に搭載されている観測センサ(高性能マイクロ波放射計AMSR2)は、昼夜・天候に関わらず極域の海氷状態を毎日観測可能という利点をもっている一方、空間分解能は約15kmとやや粗く、このような衛星観測データの解釈をより良くするためにも、地球環境科学研究では衛星データを蓄積すると共に、多岐にわたる現地観測も今後さらに大切になっています。

注1 海氷:
海水が凍結して形成された氷。なお、氷山は大陸上に降り積もった雪から形成されたもので、海氷とは異なる。

注2 海氷面積(Sea Ice Extent):
海氷の密接度が15%以上の領域。密接度(sea ice concentration)とは、ある面積に占める海氷の割合を示す用語で、海氷の時間変動や地域特性を調べるとき、研究上の基本的な情報となる。海氷域には厚い海氷が密集しているところや薄い氷が疎らにしか存在しないところなど、様々な状態の海氷が存在している。

注3 北極域研究推進プロジェクト(ArCS: Arctic Challenge for Sustainability):
国立極地研究所、海洋研究開発機構及び北海道大学の3機関が中心となり実施している文部科学省の補助事業。実施期間は2015年9月から2020年3月まで。https://www.nipr.ac.jp/arcs/

注4 北極域データアーカイブシステム(ADS):
GRENE北極気候変動研究事業(2011年~2016年)やArCSにおいて、南極・北極で取得された観測データやモデルシミュレーション等のプロダクトを保全・管理するためのデータアーカイブシステム。https://ads.nipr.ac.jp/

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