第1回のレスキュー訓練では、ロープワークや器具の基本的な取り扱い方法を室内で練習しました(2013年4月25日〜27日エントリー)。次に、屋外の非常階段を利用して、10m程度の高さからロープ伝いに昇降する第2回レスキュー訓練を5月下旬に行いました。そして、今回の第3回訓練は、総仕上げとして、氷の割れ目などに転落して負傷したメンバーを救出する、という想定での訓練を7月16日と19日に行いました。
救助作業を行う自分が転落しないように安全を確保したり、負傷者を引き上げるために、雪面に支点を確保する方法。負傷者が転落した地点まで、救助者を安全に降ろす方法。滑車などの器具を用いて、少人数でも負傷者と救助者を引き上げるためのロープの結索法。負傷者を搬送する簡易型担架の取り扱い方法。これらは、これまでのレスキュー訓練や医療講習などで個別に練習してきましたが、今回はより実践的で総合的な訓練です。
この時期、昭和基地の大きな建物の周辺には雪の吹きだまりができます。基地主要部の周りににも、訓練にちょうど良い高低差およそ5mの雪の壁ができていましたので、これを利用しました。
この日、最低気温が-37.6℃を記録するほど気温が低く、全身に防寒装備を着用しても、次第に手先足先は悴(かじか)んできます。手袋を着用していると、ロープや器具の取り扱いは思うにまかせませんが、素手で扱うと凍傷を負う危険がありますので、手袋での作業に慣れることも必要です。一連の訓練は、野外観測支援担当隊員の指導のもと、野外活動経験のある隊員の補助を受けながら、およそ1時間で、誰も怪我することなく終えることができました。
現在の観測隊員の殆どは、極地での野外行動の技術や経験を持っていません。もちろん、観測隊員候補者となってから、南極に出発するまでのおよそ8か月の間に、冬期訓練、夏期訓練などにおいて、野外活動に関わる実習や講習プログラムが組まれていますが、実際に南極に来てから、継続して訓練することは極めて重要です。また、それ以上に、このようなレスキューが必要となる事態に陥らないようにするため、入念に計画し、周囲の危険に気を配りながら、余裕を持って行動することが求められるのです。
観測隊に参加して、初めて野外活動に臨む時は、だれしもが不安です。私たち観測隊の先輩は、次のような言葉を残してくれています。『南極での経験は必ずしも重要ではない。しかし未経験のものはその自覚もまた必要である。十年の経験も真摯な一ヶ月の経験に及ばないことがあるのは歴史が示すところである。』
|