今回ご紹介するのは昭和基地の水瓶「130キロリットル(㎘)水槽」です。昭和基地に限らず、他国の基地でも、雪や氷で覆われた南極で、飲料水や生活用水を確保することは簡単ではありません。内陸の基地であれば、雪を溶かすよりほかに方法はありません。しかし、南極の多くの基地は沿岸部にあり、基地の近くには必ずと言ってよいほど池などの水源があります。水源の近くに基地を建設した、と言ってもよいかもしれません。
昭和基地では、第7次隊において、基地付近のくぼんだ地形を利用して、通称「荒金ダム」と呼ばれる水源を確保しました。12月〜1月の夏季には荒金ダムの水を直接利用できますが、冬季はダム表面が凍結するため、基地中心部の10㎘の貯水槽に、雪あるいは近くの氷山から砕いて取り出した氷を入れて溶かして利用していました。
第11次隊では130㎘の開放型貯水槽ができ、発電機の廃棄熱を利用して貯水槽内の水温を+10℃以上に保つことができるようになりました。そして、第25次隊では、大型発電機の導入に伴い、100㎘の断熱密閉型水槽を設置しました。100㎘水槽内は、130㎘水槽と同じく発電機の廃熱で保温された水が循環し、ここから造水装置へ水を供給して、不足分は130㎘水槽から自動的に補われ、常に満水の状態に保つ仕組みです。現在でも、基本的に冬季は、130㎘水槽に雪入れを行い、荒金ダムの水は予備として確保しています。実際に私たちが口にする水は、100㎘水槽の水を塩分や、細かいほこり、殺菌などの造水・前処理装置を通しています。発電機、水槽そして造水・前処理装置は、1年間24時間動いていますから、毎日の点検や定期的な保守作業は欠かせません。突発的な故障が発生する時もあり、機械部門の隊員がそれらの作業に心血を注いでいます。
130㎘水槽は、ブリザードの時に自然に雪が入るよう、また、周辺に積もった雪を投入できるように開放型となっています。このような雪には、砂やほこりなどが含まれているため、それらを沈殿させる役割もあるのです。さらに、万一火災が発生した時には、130㎘水槽の水を消火用水として利用しますので(5月21日エントリーをご覧下さい)、“命の水”なのです。
130㎘水槽への雪入れ作業は、水槽を壊さないようにショベルカーなどの重機は使わずに手作業で行います。昭和基地では、雪が降ると言っても、上からしんしんと降ってくることはほとんどなく、ブリザード時に強風で飛ばされた雪(飛雪と呼びます)が、建物の風下側に吹き溜まる「ドリフト」として積もるのが特徴です。発電棟のドリフトを利用できるように、130㎘水槽は発電棟の風下側に配置されています。しかし、強いブリザード後にできるドリフトは、水槽に比べると大きすぎるのです。こうなると、雪の重みで水槽が壊れたり、水槽の水が溢れないように、雪入れではなく除雪を行う必要があります。飲料水・生活用水の確保は、生きるために必要なことですので、業務の都合を付けて、ほぼ全員が参加して除雪を行います。
|