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第1章 学術研究活動に関する評価

6 定常観測

 地球という大きな対象を研究するためには、国際協力により様々な現象を様々な場所で、長期にわたり継続して観察することが不可欠である。
 このため、地球科学の基礎となる、電離層、気象、測地、潮汐、海洋物理・海洋化学などの観測は、国際地球観測年(1957〜1958年)以来、長期にわたり定常的に実施するものとされている。これらの定常観測は、それぞれ通信総合研究所、気象庁、国土地理院、海上保安庁海洋情報部などの機関が担当し、国内と同じ標準化された基準又は方法によって行われている。定常観測により得られたデータはそれぞれ関連する世界的機構に報告され、広く利用・蓄積されている。また、定常観測は関連するプロジェクト研究観測と連携しつつ、あるいは補完しつつ実施され、学術研究の向上にも寄与している。

(1)電離層観測(総務省、独立行政法人通信総合研究所)
 電離層観測データは、南極地域観測の初期においては南極と日本を結ぶ唯一の通信回線である短波通信の状況を把握する手段であった。今日では昭和基地という宇宙に開かれた窓の地上観測拠点において、宇宙環境情報をリアルタイムで提供し、電波伝搬ばかりでなく、宇宙天気予報活動を通して宇宙活動の安全確保に寄与している。また、昭和基地は南半球のオーロラ帯に属する数少ない観測点であり、観測されたデータは、電離層世界資料センター(WDC)に送られ、世界の様々な電離層観測活動に寄与している。
 電離層観測は、国際的な周波数配分、通信方式策定の基礎資料となることを踏まえ、今後は衛星回線利用の極域への広がりを視野に入れて観測を継続することが必要である。また、オーロラに代表される宇宙環境変動を定常的に観測する地上観測拠点として、地球物理、宇宙環境科学の基礎資料を提供することが重要である。

(2)気象観測(気象庁)
 日本の南極地域における気象観測は、昭和基地を中心として、第1次隊(1956年)から継続して今日まで実施されてきている。1969年には昭和基地が世界気象機関(WMO)の標準観測所に指定され、昭和基地における気象観測の国際的位置付けが明確となった。
 昭和基地での気象観測は、主に地上気象観測、高層気象観測、日射・放射観測、オゾン観測を中心として行っており、観測データの一部は、即時的に各国の気象機関へ通報され、日々の数値予報に利用される一方で、国内外の研究者には極域の大気状態や大気構造を明らかにする最も基幹的なデータとして提供している。特に、1980年初頭から始まったオゾン層の変化について、昭和基地での継続的な観測がオゾンホールの発見につながったことは、地球規模現象の一大関心事となり、国際的な評価を受けた。
 今日の地球温暖化に見られるように、地球規模的な気候変動あるいは気候変化の監視のためには極域の定常的観測は不可欠であり、世界の観測ネットワークにデータを提供し続けることが必要である。

(3)測地観測(国土地理院)
 昭和基地周辺の自然や立地条件を明らかにするため、また各種活動の基礎として地図及び写真図の作成は欠かせない。さらに地図の作成にあたっては、先立って地表の基準点(三角点、水準点)を整備し、基準点の位置を正確に求めることが必要である。基準点測量をはじめとする測地測量の成果は、氷河の流動調査、内陸調査等に広く活用されているほか、極点、内陸移動時の位置決定など、南極観測の推進に大きく寄与している。さらに、GPS連続観測等による地殻変動の検出、(絶対)重力測量等も実施している。それらのデータは学術研究等の基礎資料として世界各国に提供され、広く活用されている。
 近年、宇宙技術等各種の新技術の開発、実用化が進展し、南極地域を含めたグローバルな視点からの測地観測及び地理情報整備が重要となっている。例えば、昭和基地のGPS観測点は、IGS(International GPS Service:国際GPS事業)点として国際共同観測の一翼を担っている。今後も昭和基地及びその周辺域における観測等を通じて測地・地理情報に関する国際的活動に貢献することが期待される。

(4)潮汐、海洋物理・海洋化学観測(海上保安庁)
 南極の潮汐は、大陸の地殻変動や地球温暖化に伴う海面水位変動を把握する上で非常に重要な観測である。南極域では地殻の隆起に起因すると思われる水位の低下傾向が明らかになりつつあり、南極における重要な長期観測データとして、今後も昭和基地での潮汐観測は継続する必要がある。
 また、大陸沿岸域は、南極底層水が形成される場であり、世界の海洋深層循環の駆動の場である。この底層水の分布や形成量の変化などが、地球規模の気候変動に大きな影響を与えている。このメカニズムを解明するため、「しらせ」船上で行われる海洋物理・海洋化学観測においては、海洋構造や水塊形成に寄与する基礎データを蓄積している。これらの観測データは、データの少ない南半球の南極海において国際的なプロジェクトとして推進されている世界海洋観測システム(GOOS)の調査・研究に貢献している。今後さらに、オーストラリア南方の2本の観測線を地球環境変化のモニターラインとして、観測の充実を図ることが必要である。

 
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