最新の昭和基地情報をお届けする「昭和基地NOW!!」野外調査隊はどこ?進め!しらせトピックス
















第2章 推進・支援体制に関する評価

2 支援体制に関する評価

(1)基地等の施設設備

1. 観測拠点
 日本の南極地域観測の拠点は、1957年に第1次観測隊により東オングル島に開設された昭和基地をはじめとし、みずほ基地、あすか観測拠点、ドームふじ観測拠点があるが、特に昭和基地は他の3ヶ所の基地のベースキャンプとしての役割が大きい。昭和基地は、年1回、南極観測船で運ばれてくる物資により、毎年少しずつ規模を拡大し、現在では第1次観測隊当時の30倍規模の基地となった。各国の越冬基地の中でも量・質ともに最も充実した基地の一つとして発展し、成果を挙げてきた。また、第44次隊(2002年)から再開されたドームふじ観測拠点は、第26次隊(1984年)が調査を始めてから越冬を開始するまでに10年間の歳月を費やすほどの過酷な自然条件下で、日本の技術の粋を結集して開設した基地であることは評価に値する。しかし、みずほ基地及びあすか観測拠点については現在閉鎖状態となっており、廃止も含め今後の在り方について検討することが望まれる。

2. エネルギーの確保
 基地の運営にとって最も重要となるエネルギーの確保については、年1回「しらせ」で運ばれてくる燃料に依存している。燃料の補給こそが南極で基地を維持していく上での重要な鍵となっており、その量は「しらせ」の総物資輸送量の50〜60%を占めている。近年の地球環境問題をはじめとする様々な課題に対応し、南極域での研究・観測業務が増大するに従い、燃料の消費量も増大する傾向にある。「しらせ」の物資輸送量に限界がある中で、エネルギーの確保をどのように考えるかが今後の大きな課題となる。日本の観測隊は、太陽電池パネルによる太陽光発電、風力発電といった南極特有の自然条件を利用することに世界に先駆けて対応してきているが、南極の環境保全という観点からも、今後さらにその改良を進め、また新たな自然エネルギーを活用する電力供給システムの構築に向けた研究開発が引き続き行われることが期待される。

3. 情報通信システムの整備
 物理的にアクセスが容易ではない南極地域において、いつでも確実に使用可能な情報通信手段の確保は重要課題である。現在、昭和基地及びドームふじ観測拠点ではインマルサット衛星回線による電話、FAX、データ通信(64kbps)の利用が行われている。特に、先端的な観測設備の導入が進む昭和基地では、外国基地に先駆けて構内ネットワーク網(LAN)が敷設され、国内外への観測データ伝送をはじめ、電子メールの送受信、基地内の情報共有等に活用されている。しかしながら、観測設備の高性能化に伴いデータ量も急増し、通信回線の高速化並びに常時接続が焦眉の課題となっていた。来年2月に開設予定の「昭和基地インテルサット地球局設備」導入によりこれが実現の運びとなったことは高く評価される。今後の南極観測に不可欠の情報通信基盤として、本設備の安定運用を図るとともに、テレサイエンスの促進、遠隔医療システムの導入、基地設備の遠隔監視、社会への南極ライブ映像の提供など、新たな分野への利用の展開が期待される。

4. 環境保全
 地球規模での環境問題が取り上げられている中で、南極の環境保全については、平成10年1月、「環境保護に関する南極条約議定書」が発効し、それに対応した国内法である「南極地域の環境保護に関する法律」も施行された。日本の観測隊は、議定書と国内法に従い、南極観測船(砕氷船)「しらせ」による大型廃棄物の持ち帰り、焼却炉、汚水浄化設備の整備、コンテナ化による梱包用廃材の削減を進めてきた。また、氷海への油の流出を防ぐため、燃料備蓄タンクの周囲に防油堤を築き対応してきた。これらの活動は、南極が人類共通の財産であるという認識の下に、我が国がいかに南極地域の環境保全に真剣に取り組んでいるかを示す上で重要な活動であり、後に続く人々のためにも継承していく必要がある。

(2)輸送体制

1. 「しらせ」の現状と後継船の必要性
 南極観測船(砕氷船)「しらせ」は就役してから21年を迎える。これまで「しらせ」の果たしてきた役割は大きく、日本の南極地域観測にとって必要不可欠な存在である。先代の「ふじ」においては、昭和基地に接岸できなかった年が度々あったにもかかわらず、「しらせ」においては、接岸できなかったのは過去1回だけとなっており、これを除けば毎年接岸に成功し、昭和基地に確実に隊員、物資を輸送してきた。近年では、他国の南極観測船を救助するなど、その砕氷航行能力や機動性が十分評価されている。
 しかしながら、このような「しらせ」にあっても、平成15年現在で船齢21年目を迎えており、老朽化は否めない。毎年帰国後ドック入りし、検査及び修理が行われているが、年々より多くの修理を必要とするようになってきている。また、「しらせ」内の観測装置や通信機器についても陳腐化が進み、更新の必要性が高くなっている。このため南極地域観測統合推進本部に設けられている南極輸送問題調査会議からも後継船の措置の必要性が提言されている。最近の検査においては、船体内部の重要部分について劣化が進行していることが指摘され、早急な対応が必要となっている。
 昭和基地に到達するためには南極大陸を取り巻く暴風圏を必ず越えなければならず、南極観測船(砕氷船)は暴風圏の航行を余儀なくされる。また、氷海を航行する上で、繰り返し厚い定着氷に体当たりして氷を割りながら前進する航法(チャージング)を行うことから、南極観測船(砕氷船)はこれに十分耐え得る砕氷航行能力を有していなければならない。さらに、氷海に閉じ込められても氷の圧力に押しつぶされることのない頑丈な船体構造が必要で、かつ長期間他の艦船の援助なしに自力で隊員及び乗組員の生命の安全を保障する行動体制(単艦行動)が求められる。このように、通常の船では考えられない厳しい条件が求められる中で、「しらせ」については、このまま老朽化が進行し船齢25年を超えた場合、暴風圏の航行とチャージングに対応できないと考えられる。また、救援を期待できない南極海の氷の中で航行不能となる危険性も考えられる。今後の南極地域観測を円滑に実施していくためには、何よりも安全を第一に考えることが重要であり、後継船の建造に着手することが必要との主張には十分な理由があると思われる。
 南極地域における環境保護の観点から見ると、「環境保護に関する南極条約議定書」やこれに基づき定められた国内法の整備が進む中で、「しらせ」はそのような動き以前に建造されたものであることから、環境問題に十分な対応がなされていない。南極は人類共通の財産であり、日本の南極観測船が環境汚染源になっては問題である。今後、後継船の建造を行うに際しては、有害船体塗料の使用中止、燃料タンク部の二重船殻化、廃棄物・排出物処理・貯留装置等の設備の整備が必要である。

2. 南極輸送支援機(ヘリコプター)の現状と後継機の必要性
 南極地域で輸送支援を行うヘリコプターは、「しらせ」から昭和基地までの物資輸送に用いられ、その果たす役割は極めて大きい。「しらせ」に積載した物資の約7割がヘリコプターによって輸送されており、輸送の現場では最大の功労者ともいえる。また、物資輸送のほかに、野外観測支援として行われる沿岸調査のための観測隊員の輸送、緊急時の対応、氷海の偵察などを行っており、南極地域での観測隊の活動に不可欠である。さらに、ヘリポートが整備されていない南極地域の氷上においても、ある程度は着陸可能であるという利点も大きい。ヘリコプターの運航に当たっては、予め決められた総飛行時間数の中で、観測計画に基づき南極での飛行時間数が配分される。このため、現在のヘリコプターについては、総時間数の不足から既に今後における各年の飛行時間数を節約しつつ運行する必要が生じている。現在のヘリコプターは5年後には総飛行時間数を満了することになっている。
 ヘリコプターは、修理等により運航年数をある程度延長できる船とは異なり、飛行時間数を満了すれば自ずと除籍になる。このため、後継機の措置は不可欠である。また、近年、南極地域における研究・観測の規模等の増大に比例して物資輸送量も増え、ヘリコプターの飛行時間数も増える傾向がある。今後も南極地域観測を継続して実施していく上で、ヘリコプターの需要が減少することは考え難く、むしろ輸送量の増加が見込まれることから、後継機の措置は喫緊の課題であると認められる。

3. 雪上車の現状
 南極大陸は広大な観測フィールドであり、大陸内部の観測の成否は、その足である雪上車が鍵を握っていると言っても過言ではない。雪上車は内陸調査旅行において、まさに観測隊員の家であり、観測隊員の生死をも左右する大切な存在である。これまで国立極地研究所を中心として、-60度の自然環境にも耐え得る雪上車、牽引能力23tの能力を有する雪上車、海氷上を安全に走行できる浮上型の雪上車等が開発されている。これらの雪上車の開発によって、南極地域の研究・観測が大きく前進したことは高く評価できる。

4. 中型航空機による広域観測
 広大な南極大陸にあっては、基地間あるいは基地と観測拠点を結ぶ輸送手段として、航空機の活用が不可欠である。とりわけ中型航空機は、大型航空機用の滑走路の整備が困難な南極において、滑走路の整備が比較的容易であり、航続距離が長いため、広範囲・立体的かつ多目的の観測を可能とする。中型航空機の利用は、これまでの南極地域観測を「点」から「面」へと拡大するものであり、今後、研究観測の一層の充実が期待される。なお、航空機による観測を実施する際には、日本の観測隊がこれまで築き上げてきた「安全」ということを念頭に置いて、安全を確保するための対策について事前に十分検討することが必要である。

5. 南極大陸近海における専用観測船の利用の促進
 観測事業全体の成否は輸送に左右されることから、これまでは、輸送業務を優先し海洋観測業務が短縮または中止されることがあった。一方、地球環境問題や国際共同観測への対応等、南極海における海洋観測の重要性はますます高まっている。しかしながら、現行の「しらせ」の航路上での海洋観測だけでは、これら観測需要に十分に応えていくことは困難である。このため、「しらせ」とは行動を別にする専用観測船の利用を促進することにより、海洋観測や沿岸観測の充実を図る必要がある。

 
top△

前ページ 目次に戻る 次ページ
 
昭和基地NOW!! | 野外調査隊はどこ? | 進め!しらせ | トピックス

Copyright(C)1997-2014 National Institute of Polar Research