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資料12
研究観測の将来計画
(国立極地研究所)

 
南極周辺海域の大気海洋間の物質循環の解明
−炭素循環、硫黄循環−

 地球システムの中で、南極周辺海域の海洋-海氷-生物-大気間の相互作用システムは、ユニークなサブシステムを形成しているが、この南極サブシステムが地球規模の気候形成に果たしている役割を、炭素及び硫黄循環の視点から解明する。
 これまでの昭和基地での二酸化炭素濃度の観測から、地球大気のバックグランド状態の変動として二酸化炭素の増加が詳細に把握されつつある。また、濃度の変化量および二酸化炭素濃度の炭素同位体の観測から、海洋圏、陸上生物圏それぞれの大気中二酸化炭素濃度の変動への寄与を見積もるべく、昭和基地での精密観測を継続中である。南極観測船しらせ船上では、大気−海洋間の二酸化炭素分圧差の測定を実施しており、その海域が二酸化炭素の大気への放出か吸収かの議論ができるようになってきた。
 しかし、海洋中の二酸化炭素分圧を決めているプロセスについての理解はまだ十分に進んでおらず、特に海洋生物−海洋化学相互作用が地球規模の気候変動にどのように応答するかは、今後の課題として残されている。そのため、現在の観測項目に加えて、海洋中二酸化炭素の炭素同位体比の精密観測を実施することによって、海洋中での炭素循環における海洋生物の役割、いわゆる生物ポンプの寄与、を明らかにしていく必要がある。さらに、南極観測船が毎年ほぼ同じ航路を航行するという特質を生かして、今後10年スケールの変動を明らかにすることが可能である。また南極周辺海域は南極低層水の沈み込み、深層水の湧昇があり、上下方向に物質が輸送される。この領域で海洋中の炭酸水素および炭酸イオンの一部は炭酸カルシウムとして蓄積され、海洋中の全炭酸濃度を減少させる役割が考えられ、長期の炭素循環を考える上でこの過程は重要である。
 これまで昭和基地、南極観測船でエアロゾルの観測、特にエアロゾルの粒径分布の測定を行ってきた。最近はエアロゾルの採取により化学組成の観測をすすめ、昭和基地の観測から夏に硫酸イオンを含むエアロゾルが増加することを見出した。また昭和基地での粒径10nm位のエアロゾルの個数濃度の観測から、夏季に増加することが見出された。これらの結果を考えると、夏季に、南極沿岸域で、大気中の自然起源の硫黄関連ガス(DMS、SO2など)が増えていた可能性がある。このガスが酸化され凝縮し硫酸イオンを含むエアロゾルが形成された可能性がある。これらはいずれも可能性であり、今後ガス成分を含め観測する必要がある。
 一方南極周辺海域は、海氷域の発達後退があり、海洋の生物生産の高い海域である。また人為汚染のほとんどない海域である。海洋中のクロロフィル量は衛星観測から高いと見積もられている。これまでの研究で海洋中のクロロフィル(chl a)量は海洋中のジメチルサルファイド(DMS)と関係が指摘されているがまだ不確かである。また海洋中のDMSは植物プランクトンから生産されるということである。しかしこれまでの研究ではクロロフィル量、DMS量、植物プランクトン量の関係は必ずしも良い相関を示さない。クロロフィル、植物プランクトンの種類の違いなどが影響している可能性が高いが、これからの研究課題である。
 プランクトン、クロロフィルのブルーミングが起きる夏季に海洋中のDMSが増加し、このため大気中のDMSが増加するシナリオが考えられる。大気中のDMSの増加は初めに述べたように硫酸イオンを含むエアロゾルを増加させることとなる。最近の南極観測船の観測で、植物プランクトンが多く、大量にオキアミがいた海域のみで、10nm位のエアロゾルの増加が見られたという結果が報告されている。このエアロゾルは雲粒形成に重要な働きをする。すなわち温暖化に関与する海洋上の低層雲の形成過程の研究と密接に関連する。DMSの酸化過程に極域特有の光化学反応が関与する可能性が考えられるが、そのことは逆に夏季の昭和基地の粒径10nm位のエアロゾルの増加は、別起源の硫黄関連ガスが光化学反応によってエアロゾル化したとも考えられる。このように大気海洋間の硫黄関連循環は海洋中の生物生産から大気中の雲の形成までをコントロールする広範囲の研究課題であるが、いまだ不明な点が多い。
 南極周辺海域は、これまでに述べたように人為起源の汚染がほとんどない海域であり、自然がどのようにこれらの課題をコントロールしているかを研究するには最も優れた海域である。また海洋の上下方向の流れ、混合が起きている重要海域であり、大気から海洋中までの関連する各種化学成分、現象の観測、その結果を用いそれらの関連を調べる研究は、非常に価値の高い研究であり、今後の大きな研究課題として計画している。

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南極から探る地球規模環境変動史

古環境復元統合計画
 近年の人間活動による温室効果気体を初めとする諸物質の放出、森林生態系の破壊などは、地球規模での温暖化、オゾン層減少、酸性雨など深刻な環境問題を引き起こしていると考えられる。特に、地球温暖化は、海面上昇、生態系変化、水循環変化など広範な影響を伴うので、その将来予測は国の枠組みを超えた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」で検討されている。また、こうした社会的背景もあり、その変動メカニズムや変動の実態の解明は地球科学分野の重要な研究課題になっている。
 地球規模の大気及び海洋循環の駆動冷熱機関である南極は、気候変動のトリガーとなる仕組みを探る上で重要な地域であるとともに、地球環境のバックグランド変動を精査する上で理想的な記録媒体を提供する場所でもある。本研究プログラムは、南極の氷床コア、海底コア、湖沼コアを統合的に捉えて環境変遷に取り組む世界初の研究計画で、南極域の大気-海洋-陸域-雪氷環境変化を総合的に解明し、地球環境変動に果たす南極の役割を明らかにする学際的な計画である。

過去の高時間分解能地球温暖化研究
 これまでの南極観測で得られたドームふじ氷床深層コアは、3回の氷期サイクルを含む過去32万年の気候及び環境変動の実態を明らかにするとともに、今後100年の温暖化の予測平均2℃(IPCC第三次報告。予測幅は1.4〜5.8℃)を上回る急激な温暖化がこの間に60回ほど起っていたことを示した。こうした60回もの急激な温暖化事例の高時間分解能解析を進め、今後100年の地球環境の変化を探る上で重要な研究材料を提供する。また、海底コア、湖沼コアと重複する時間軸で、復元された環境変動の比較を行い、南極における変動と地球規模の変動との関係を明らかにする。

過去100万年の気候・環境変動の学際的解明
 第二期ドームふじ氷床深層コア掘削(2003/04から2005/06)で得られる全層コアは、南極では水平流動がない場所での唯一のコアのため、過去100万年の気候・環境変動の基準となるデータを提供できる。また、現在に続く10万年氷期サイクル出現(80-50万年前)のメカニズム、ブリューヌ・松山地球磁場反転(78万年前)に伴う磁場の変化と気候・環境への影響、など地球規模の気候変動の実態解明に重要な手がかりを与えるはずである。また、氷床コア中の微生物のDNA解析による生物進化の研究、宇宙線生成核種による地球磁場・太陽活動の長期変動復元(宇宙気候計画)、大規模火山活動と氷床/気候変動などの研究も推進する。さらに、氷床基盤岩石の採取ができれば、その表面の放射性同位体測定から南極が積雪で覆われはじめた時代が初めて明らかになり、中生代以降の地球寒冷化シナリオ構築に道を開く可能性がある。このように、第二期ドームふじ氷床深層掘削は、さまざまな分野に跨がる研究展開の可能性を秘めた計画で、パラダイムシフトに繋がる研究成果も期待できる。

最終氷期-完新世における氷床-海洋変動の解明
 栄養塩に富んで生物生産性の高い南大洋はCO2のシンクとしての役割をもつ重要な地域である。この生物生産性は、海氷縁の分布や融氷による海洋中・深層循環の変動と密接に関連しており、露岩域の氷床変動史や海底堆積物から得られる植物プランクトン起源の沈降粒子等の解析から得られる情報と、氷床コアから得られる温室効果気体の変動を比較することで、南極氷床・南大洋変動が地球の最終氷期から完新世のダイナミックな気候変動に果たしてきた役割を評価する。
 昭和基地周辺の露岩は、最終氷期中程の3-4万年前に氷床から解放されたことが明らかになっている。氷期における大規模な氷床後退は、他の地域では報告がなく、これまでの定説を覆すものである。また、露岩域の湖沼で発見された柱状コケ群落は、こうした湖沼の6000年前以降の露岩の隆起による海洋環境から淡水環境への変遷を物語っている。本プロジェクトでは、昭和基地周辺海域で海底堆積物や湖沼堆積物を採取し、最終氷期とその後の完新世にいたる氷床変動-海洋変動-露岩域環境変動を明らかにし、昭和基地周辺の特異な変動特性を探る。また、ドームふじ氷床コアとの比較研究により、最終氷期における地域的な気候・海洋変動と地球規模の変動との関係を探る。本プログラムにより、南極に起因する地球規模気候変動シナリオを提案できる可能性がある。

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大型大気レーダーによる極域大気の総合研究
―全地球的な環境変動の解明―

 1980年代に入り、大型大気レーダー(VHFドップラーパルスレーダー)やライダー、気球による高分解能大気観測技術が開発され、また、計算機技術の進歩により全地球的な数値モデルも高分解能化されて、波動や乱流等の大気の微細構造の特徴やその地球気候への役割が詳しく議論できるようになった。その結果、それまでノイズとして無視されることの多かった大気重力波と呼ばれる小規模な波動擾乱が大気大循環、オゾン等大気微量成分の分布、地球温暖化に伴う大気温度の鉛直緯度構造変化に重要な役割を果たすことがわかってきた。大気重力波に関連する中緯度大気の研究は、80年代半ばに天気予報精度の飛躍的向上をもたらし、90年代に入ってから集中的に行なわれた熱帯大気の研究は、中高緯度大気の年々変動に多大な影響をもたらす成層圏準2年周期振動のシナリオを実に約20年ぶりに大きく書き換え、地球大気のエネルギーバランスに対する認識を新たにした。そして、現在、地球気候変動の全体像を把握する上で、圧倒的に未知数の多いのが観測が遅れている極域大気である。
 大気重力波の最も重要な性質は運動量の鉛直輸送能力である。これを定量的に理解するためには、大気の微弱で微細な鉛直運動を高分解能で捉えることのでき、対流圏・成層圏・中間圏・熱圏/電離圏に亘る大気の3次元運動が高精度で観測可能である大型大気レーダーが必須である。したがって、これを極域に設置すれば、大気圏の鉛直結合に関する研究が飛躍的に発展すると考えられる。
 「南極昭和基地大型大気レーダー観測計画」はこのような背景のもと、世界に先駆けて大型大気レーダーを南極へ設置し、これを軸に地球気候の変動の監視とメカニズム解明を目指し極域大気の総合研究を行なうものである。さらに、以下に述べるさまざまな視点から大気研究が可能となる。

太陽風エネルギーの流入域としての極域大気<熱圏・電離圏の研究>
 太陽風起源の磁気圏から地球大気へのエネルギー流入は時間変動、空間変動ともに激しく、従来のレーダー観測は分解能の点から、プラズマ不安定やプラズマ波動などの電離圏現象の素過程の解明に十分ではなかった。プラズマ不安定は磁気圏の対流電場などの大規模な構造から小規模な構造へとエネルギーを受け渡す崩壊過程と考えられ、最終的に熱エネルギーとして電離大気、中性大気に輸送されることとなる。大型大気レーダーの分解能は既存のレーダーに比べ数桁高いためその研究が可能となる。

気候変動のカナリア・極中間圏雲<中間圏の研究>
 極域に固有な大気現象の一つである高さ90km付近の極中間圏雲(夜光雲)は、19世紀終わりに発見され、それ以前は存在しなかったと考えられている。つまり、人間活動に伴い温室効果気体が増えて中間圏の温度が低下し(温室効果気体は成層圏以上の上層大気では寒冷化をもたらす)、水蒸気が凝結し、雲として近年現れたものとされる。大型大気レーダーを用いて、この極中間圏雲からの強いエコーを観測すれば、地球気候の微小変動の監視が可能であり、極中間圏雲の生成消滅メカニズムに迫ることができる。

オゾンホールの将来予測<成層圏の研究>
 もう一つの極域に固有な雲に、極成層圏雲がある。これは冬に成層圏極渦内側の低温下で現れ、春にはオゾン破壊反応の触媒としてオゾンホール形成をもたらす。したがって、オゾンホールの将来予測には極成層圏の低温の正確な再現がポイントとなる。しかし、現在の気候モデルではそれが難しい。極成層圏の温度の理解には大気波動が駆動する大気循環の下降流による断熱圧縮過程を定量的に把握する必要があり、大型大気レーダーによる大気重力波の研究が重要である。

カタバ風と南半球大気大循環<対流圏の研究>
 南極の地上風は1年中殆ど風向が変わらないことが特徴である。これは、放射冷却により重くなった空気が南極大陸を滑り降りるカタバ風が卓越するためである。カタバ風は高度数百m以下の地面付近の現象であるが、その補償流は対流圏全層に広がり、南半球大気大循環の中でもユニークな位置を占める。南極カタバ風は、このようなシンプルな現象であるが、その力学は十分解明されていない。大型大気レーダーによる風の3次元成分の高分解能観測を行なえば、カタバ風の実態と物理の理解が大幅に進むであろう。

全地球的大型大気レーダーネットワーク<地球気候の研究>
 これまでわが国においては、京都大学が中心となって中緯度(滋賀県)及び熱帯(インドネシア)に大型大気レーダーが開発・設置され、優れた研究成果をあげてきた。南極に大型大気レーダーが完成すれば、極域の研究だけにとどまらず、すべての緯度領域をカバーすることになり、地球気候の総合研究を行なう態勢が整う。大気波動の起源は緯度により異なることが予想されるので、波動特性の緯度依存性や全地球的波動伝播の特徴の解明が期待される。EISCAT(欧州非干渉散乱レーダー)科学協会の北極スバールバルの電離圏観測レーダーも合わせれば、南北両極の大気特性の比較研究も可能である。

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南極隕石研究の宇宙・地球科学への貢献と期待

歴史的背景
 1969年、アポロ11号が月面への着陸に成功し、初めて人類は月の石を手に入れることができた。同じ年、南極やまと山脈の地質調査をしていた隊員が、偶然9個の隕石を発見した。1973年、さらに12個の隕石がやまと山脈で見つかり、以後日本の観測隊は隕石探査を南極観測のプロジェクトとして位置づけ組織的な探査を実施した結果、2001年時点で16,728個の隕石を南極大陸から収集した。この数は、南極で発見された隕石の60%を占め、世界最大の隕石コレクションとなった。1969年以前、南極で見つかった隕石はわずか6個に過ぎず、今日南極でこれほど大量の隕石が見つかることは、当時は誰も予想できなかった。また、宇宙塵の採集も合わせて試みられ、試料の解析が現在進められている。隕石の偶然の発見を契機として、過去わずか30年の間に、南極大陸の氷床が隕石や宇宙塵のリザーバーとしても機能していたことを人類は知ることになった。また、この間隕石が主に岩石学、鉱物学、地球化学の研究者によって様々な角度から研究され、これまで光学観測、電波観測が主体であった宇宙科学の中に、宇宙物質科学という新しい学問体系が生まれるにいたったことは特筆すべきであろう。

南極隕石研究
 南極隕石は、
・数と種類が多い、
・冷凍保存されているため、汚染をほとんど受けていない、
・炭素質隕石、月隕石、火星隕石などユニークなタイプが見つかっている、
といった特徴を有し、その学術的重要性は極めて高いことは論を俟たない。こうした特徴を活かして、採集された隕石の分類・カタログ作成が進められ、共同研究者への試料配分が行われてきた。また希少種類の隕石(炭素質隕石、月隕石、火星隕石)については、国際的なコンソーシアムが組織され、様々な手法を用いた研究が行われてきた。以下、これまでの主だった成果について概説する。
・炭素質隕石中からアミノ酸が抽出され、それらの一部が地球には見られない新しいタイプであることが報告された。
・アポロが持ち帰った月試料との対比研究の結果、南極隕石の中から月隕石が同定され、その成因が議論された。
・南極隕石の中から火星起源の隕石が見つかった。火星起源であることの根拠は、1)隕石中にふくまれるガスが、火星探査機バイキングによって観測された火星表面のガスの組成と似ていること、2)放射年代が13億年と、隕石の中では際立って若いこと(ちなみに月試料は若くても30億年前、その他の隕石は45.6億年前がほとんど)である。火星隕石に生物の痕跡が見つかったとするNASAの発表は大きな話題となった。この問題は未だ決着がついておらず、引き続き研究が行われている。
・最近の南極観測隊によって、宇宙塵の採集も試みられ、現在解析が進行中である。
 近年、始原隕石を構成するコンドリュールと呼ばれる物質や、アルミニウム・カルシウムを主体とするCAIと呼ばれる物質の詳細な成因も研究されるようになり、それらの年代測定の結果と合わせて、星間物質・ガスの凝縮過程を明らかにする試みも始まった。また、火星隕石中の粘土鉱物の年代測定によって、火星表面での流体の挙動を明らかにしようとする野心的な研究も始まった。
 これまでは量的な制限もあり、研究成果もある意味断片的な部分にとどまっていたことも否めない。しかし今後、各研究者に配分される試料の数と量が増すことによって、また分析手法の新規開発によって、隕石研究は物質科学的な研究の飛躍的進展が十分に期待できる学問分野の一つである。そのためには、隕石・宇宙塵の供給源である南極での隕石探査は、今後も南極観測の重要プロジェクトとして着実に実行していくことが求められる。

惑星物質科学としての発展を目指して
 隕石は、原始太陽系ガス星雲から現在の太陽系にいたる天体の進化の過程を記録している物質である。天体の始原物質としての隕石や宇宙塵と、その物質が離合集散を繰り返し、ひとつの天体の構成要素として姿・形を変えた地球岩石との関連も重要である。地球上の岩石には、太陽系が生まれたとされる45.6億年前の岩石は発見されておらず、鉱物としては43億年前、岩石としては40億年前が最も古い年代である。一体このミッシングリンクは何だったのか、いくつかの仮説が提唱されているが、その検証のためにも隕石研究は重要な役割を果たすであろう。今後の隕石探査によって、さらに多くの数と種類の隕石が採集されるであろうし、探査機によるサンプル・リターン計画によって、天体物質が直接もたらされるであろう。その結果、天体の進化の断片を記録した隕石と地球岩石の研究は惑星物質科学として融合され、宇宙科学・地球科学の中に、確たる学問領域が構築されることが期待される。

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モニタリング研究観測

 昭和40年度に再開された第7次南極観測隊にて定常観測が導入され、以来連綿と昭和基地および基地への往復航路上にて実施されている定常観測は、南極地域における基本的な観測データの蓄積をベースとしながら、更に地球規模環境変動を解析する上で不可欠となる側面をも発展させてきた。昭和基地における長年にわたる大気中二酸化炭素濃度の観測データは、今では地球規模二酸化炭素濃度の変動を考測する上で極めて重要なデータとなっている。また、地球温暖化現象に対して、南極地域の自然現象は一早く応答すると言われており、定 常的な観測データの重要性は、基本データの蓄積のみならず、更に将来の変動を予測するシグナルを読み取ることが出来ることにあると指摘されている。
 定常的な観測に対する国内外におけるこのような認識に応えるべく、平成8年度を初年度とする日本南極観測第V期5ヵ年計画(第38次〜42次)から、それまでの定常観測に新たなモニタリング研究観測が導入された。気象庁、通信総合研究所、国土地理院、海上保安庁が第7次隊以来担当してきた定常観測は従来通りであるが、国立極地研究所を中心として実施してきた定常観測(極光・夜光、地磁気、自然地震、海洋生物)が見直され、モニタリング研究観測へと発展した。すなわち、研究観測として宙空系、気水圏系、地学系、生物・医学系の大きく4つの研究領域で実施してきた観測の成果を踏まえ、国内外の状況を鑑み、従来の定常観測項目の他に、より長期的な観測が必要な項目を加えた。更に地球観測の国内外の各種人工衛星からの観測データを受信することが位置付けられた。これら各種モニタリング観測は、様々な時空間スケールでの南極地域で見られる自然現象を正確に理解し、地球規模スケールでの環境変動を監視する上で更に重要性が増している。
 第VI期5か年計画(第43次隊の平成13年度を初年度)におけるモニタリング研究観測の研究課題は以下のとおりである。

「極域電磁気環境の太陽活動に伴う長期変動モニタリング」
1.オーロラ粒子エネルギーの極域流入のモニタリング
・オーロラの形態、・オーロラ発光強度観測(全天CCDカメラ)
・電波によるオーロラ粒子の観測(新イメージングリオメータの建設)
2.オーロラ電磁エネルギーの極域流入のモニタリング
・オーロラ電流による地磁気三成分変化と基線観測(フラックスゲート磁力計)
3.電磁波動による磁気圏のモニタリング
・Pc3-5 脈動による磁気圏磁気流体波の観測
・Pc1 脈動による磁気圏プロトンフラックス変動の観測(インダクション磁力計)
・ELF/VLF放射による磁気圏電子フラックス変動の観測(ELF/VLFE波動観測器)
4.磁波動による磁気圏のモニタリング
・ELF帯シューマン共鳴強度の連続観測による地球全球温度変化のモニタリング

「地球環境変動に伴う大気・氷床・海洋のモニタリング」
1.大気微量成分モニタリング
・連続測定と大気サンプリングによる微量気体成分の観測
・粒径別粒子数濃度測定とサンプリングによるエアロゾルの観測
・リモートセンシングや地上測定による雲、放射の観測
2.氷床氷縁監視と氷床表面質量収支のモニタリング
・衛星による高分解能画像データ及びマイクロ波データの取得
・地上トラバースによる雪尺観測
・航空機を利用した氷床氷縁の航空写真撮影及びビデオ撮影
・氷床氷縁部の融解過程と海洋・海氷との相互作用のモニタリング
3.南大洋インド洋区における海洋循環と海氷変動のモニタリング
・中層フロートによる海洋循環の観測
・船上及び衛星観測による海氷分布の把握

「南極プレートにおける地学現象のモニタリング」
1.昭和基地及び沿岸露岩域における地震・地殻変動モニタリング(越冬観測)
・地震計室における短周期・広帯域地震計の連続観測とデータ伝送、及び沿岸露岩域における広帯域地震計観測
・昭和基地 IGS網 GPS点の保守とデータ伝送、及び沿岸露岩域でのGPS相対測による後氷期地殻変動観測
・西の浦・検潮所の保守及び海洋潮汐連続観測
・地電位連続観測
・海氷上および氷床上でのGPS測定
2.南大洋における船上地学観測(夏期観測)

「海氷圏変動に伴う極域生態系長期変動モニタリング」
1.海洋生産モニタリング
・動植物プランクトン(オキアミ類を含む)及び海洋環境パラメータの観測
・人工衛星海色リモートセンシング観測
・沈降フラックス係留観測
2.海洋大型動物モニタリング
・アデリーペンギンなどの個体数調査
・アデリーペンギンなどの繁殖・捕食生態調査
3.陸上生態系長期変動モニタリング
・土壌微生物の変化のモニタリング
・植生変化のモニタリング
・湖沼、水系の水位・水量のモニタリング
・気流生物の変化のモニタリング

「衛星データによる極域地球観測変動のモニタリング」
1.目的衛星データ受信システムによる受信観測
  ・ERS−2、ADEOS−II、ALOS衛星
2.L/Sバンド衛星受信システムによる受信観測
  ・NOAA、DMSP、Orbview-2衛星

 これらの長年にわたる継続的な観測を蓄積することによって初めて明らにすることが出来た成果を以下にまとめた。

「オーロラ全天観測」
 昭和基地は南半球では数少ないオーロラ帯の真下にある観測基地で、オーロラ活動のモニタリングに最適な場所であり、1970年から全天観測を実施している。これまでの全ての波長を含んだパンクロ画像から今後、極域へ入ってくるオーロラエネルギーのより定量的なモニタリングを目指して、モノクロ画像でのオーロラ全天観測へ切り換えて行く計画である。

「地磁気絶対観測」
 昭和基地での地磁気観測は地球上の地磁気観測ネットワークの1観測点であるが、昭和基地がある東南極地域は観測密度が中低緯度地域と比較して非常に小さいので、昭和基地で得られる地磁気観測データは相対的に重要度が増しており、(過去の観測データには測定誤差によるばらつきがやや見られるが)、グローバル地磁気モデルの構築に有用な観測データを提供している。
その結果、全磁力は年々減少傾向にあるが、減少率は近年徐々に小さくなってきていることが明らかにされた。

「大気中CO2観測」
 昭和基地における大気中CO2濃度の長期連続観測からCO2濃度は明瞭な季節変化を示しながら年々増加していることが明瞭に示されている。増加率にエルニーニョ・イベントと同期した変動が見られ、気候変化に対する陸上生物圏の応答が寄与していると考えられる。また、昭和基地での観測結果は全地球的な変動を理解し、将来を予測する上で不可欠なデータである。

「自然地震観測」
 昭和基地での自然地震の観測結果は全世界の地震ネットワークへ毎年報告しているが、これまでの長年の蓄積から、地球内核の差分回転への研究成果が生まれている。観測される地震波速度の系統的時間変化は、内核の自転速度がマントル・地殻の自転速度より少し(1度/year)早いとうまく説明できるらしいことが、Song and Richards(1996)により初めて提唱されたが、彼等の一連の論文では昭和基地やアラスカ等、極域の30年間の地震記録が重要な役割を果たしている。これらの年変動量の小ささから考えて必然的に長期・高精度モニタリングが必要であり、昭和基地における地震・重力・地磁気などの連続観測データがますます重要になる。

「海洋生産観測」
 第7次隊以来の昭和基地往復航路上でに表面海水中のプランクトン現存量の観測は、当初の一日に2ー3回のバケツ採水から始まり、近年は船底からの連続ポンプ採水による自動観測へと発展し、南極海インド洋区のプランクトン現存量の分布を明らかにしてきた。その結果、インド洋区にて少なくても3つの興味深い海域が選ばれてきた。すなわち、昭和基地沖合いの海氷の分布が広い海域、南極周極流が偏流するケルゲレン海台周辺海域、及び、海氷の分布が最も少ないタスマニア南方海域である。これらの海域はその後専用船による観測計画の立案において基礎的な情報となった。船上では採水観測と同時に人工衛星による海色観測も実施されるようになり、さらに大きな時空間スケールでの情報蓄積が行われている。
 また、昭和基地周辺におけるアデリーペンギン個体数調査も長年継続されており、個体数変動に数年から十年程度の増減周期が認めれており、基地周辺の海氷分布の季節的・経年的な変動傾向と関連することが明らかにされてきた。
 プランクトンやペンギンのより長期的な変動傾向は、近年の人工衛星による観測から指摘されてきた南極周極波動現象のい見られる周期性との関連が考えられるが、さらに観測の継続が必要である。

 モニタリング研究観測による観測データの一覧と成果トピックスは極地研のホームページ(http://polaris.isc.nipr.ac.jp/~caem/)に公表されており、また、定常観測を含む情報は、SCAR・COMNAPによる南極データ管理(JCADM)のホームページ(http://www.jcadm.scar.org/)に公表されている。

 
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