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利尻山ヤムナイ沢雪渓で観測を実施

執筆者:日下 稜(北海道大学)

ArCS IIの沿岸環境課題では、グリーンランド北西部の氷河にて長期にわたって観測を続けています。新型コロナウィルスの影響で海外渡航が困難な2021年夏、新規に導入する氷河観測機器のテストと観測手法の訓練を目的に、北海道最北端に位置する利尻島での観測を行いました。

写真1:ヤムナイ沢雪渓。周辺からの落石や土砂崩れで雪渓表面は非常に汚れている

利尻山の南東斜面に存在するヤムナイ沢雪渓は、日本で最も低標高に位置する越年雪渓のひとつであり、ヤム・ナイがアイヌ語で冷たい・川(沢)を意味することからも分かるように古くからその存在が知られていました。また、モレーン (氷河の流動によって運ばれた岩屑が堆積して出来た地形)の存在から、最終氷期にはこの場所に氷河が形成されていたと考えられており、過去に何度かボーリング調査も行われてきました。雪渓の全長は約800m、幅は40m程度あり、その厚さは、かつては45mにもなっていたという報告もあります。また、冬期には山スキーを楽しむ人たちにも、ヤムナイ沢にやってきます。

写真2:GNSS測量の様子
写真3:集合写真。長い塩ビパイプは流動と表面質量収支観測の目印に使用する
写真4:GPR(地中レーダー)による測定の様子

沿岸環境課題・サブ課題2「氷河氷床変動」では、このヤムナイ沢雪渓にて、2021年7月29、30日、9月19、20日の2回、計4日間にわたり、グリーンランド、カナック氷帽の氷厚を測定するためのGPR(地中レーダー)と、流動速度を計測するためのGNSS(全地球航法衛星システム)、それにドローンによる空撮の試験を行いました。GPRに関しては、3種類のアンテナで試験を実施し、氷河での測定に適した周波数のアンテナを選定しました。また、GNSSによる測量を行い、谷地形での測定誤差に関する知見を得ました。雪渓上部は傾斜が急で、かつ落石の危険性もありましたが、ドローンが活躍し無事に調査を終えました。次年度以降のグリーンランドでの活動に生かしたいと考えています。

図1:GPRによる雪渓断面の反射波像

グリーンランド北西部にあるカナック氷帽は、比較的低標高に存在するため気候変動に敏感に反応する指標として重要です。私たち北海道大学低温科学研究所のグループではGRENE、ArCS、ArCS IIの取り組みとして、2012年より、氷帽から流れ出るカナック氷河において、氷河の表面質量収支や流動速度の計測を行っています。2020年と2021年は現地に赴くことができなかったため、グリーンランド地質研究所のKirsty Langley氏、デンマーク気象研究所のAndrea Gierisch氏、カナック村の住民であるMikael、Masiathiaq両氏などの協力によりこの測定を継続することができました。来年度こそは新型コロナウィルスも収まり、現地での観測ができることを期待しています。