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北極海氷分布予報

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2016年第三報

2016.07.29 東京大学大気海洋研究所 木村詞明, 羽角博康

今年9月11日の海氷分布予測図
図1:今年9月11日の海氷分布予測図。色は海氷密接度、単位は%
  1. 北極海の海氷面積は、9月の最小期に約460万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは昨年より若干大きく、2013, 2014年より小さい面積です。
  2. ロシア側の北東航路は9月上旬に海氷が岸から離れ、航路が開通するでしょう。
2003年以降の最小海氷域面積の年変化
図2:2003年以降の最小海氷域面積(9月11日の海氷面積)の年変化。2016年の値は今回の予測値
8月1日から11月1日まで予測海氷分布のアニメーション
図3:8月1日から11月1日までの予測海氷分布のアニメーション。実線は過去二年分の氷縁(密接度30%の位置)を示す。

海氷域は今後も後退をつづけ、最小期にあたる9月11日の海氷域面積は、約460万平方キロメートルになると予想されます。これは昨年よりわずかに大きく、2013, 2014年より約10パーセント小さい面積です。

ロシア側海域に注目すると、ラプテフ海では海氷域の後退が早く進行する一方で、東シベリア海ではそれに比べて後退が遅れることが予想されます。とくに東シベリア海は、例年よりも厚い海氷に覆われていると考えられ、海氷の後退は第一報、第二報での予測よりもさらに遅れます。もっとも遅くまで海氷が残るのはカラ海とラプテフ海の間のセヴェルナヤ・ゼムリャ諸島付近で、ロシア側の開水面域がつながるのは、9月上旬と予想されます。また、航路が閉じるのは9月20日頃の見込みです。

多島海を除くカナダ側海域での海氷域の後退は昨年より早く進行し、7月中に航路はほぼ開通しました。航路が閉じるのは10月20日頃の見込みです。

毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。

2014年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2015年4月30日の分布
図4:2014年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2015年4月30日の分布。色は12月1日時点での海氷の厚さを示す。
2015年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2016年4月30日の分布
図5:2015年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2016年4月30日の分布。色は12月1日時点での海氷の厚さを示す。

ロシア側海域の大きな特徴は、ラプテフ海での後退が早く東シベリア海の氷が残りやすい点です。これは、冬季にラプテフ海の海氷が多く流出して薄い海氷の割合が大きくなっており、逆に東シベリア海には海氷が集まり厚い海氷に覆われていると予想されるためです(図5)。この特徴は昨年も同様にみられましたが、今年は昨年よりもさらに厚い海氷が東シベリア海に蓄積しており、そのぶん海氷域の後退も遅れると考えられます(図4, 5)。

カナダ側海域では冬から春にかけて海氷が岸からはなれ、厚い海氷はほとんど残っていません。そのため海氷の融解がすすみやすい状況にあり、昨年よりも早く海氷域が後退するでしょう。


予測手法(第一報からの変更点): 7月の海氷密接度の考慮

2016年7月20日から25日までの平均海氷密接度分布
図7:2016年7月20日から25日までの平均海氷密接度分布
2015年7月20日から25日までの平均海氷密接度分布
図8:2015年7月20日から25日までの平均海氷密接度分布
2014年7月20日から25日までの平均海氷密接度分布"
図9:2014年7月20日から25日までの平均海氷密接度分布

基本的な予測手法については第一報をご参照ください。

第一報からの変更点は、7月20日から25日までの平均海氷密接度の情報を予測に加えたことです。

一般に北極海の海氷は、5月以降急速に後退をはじめ、6月には沿岸付近に開水面域が見られるようになります。この6月以降の海氷分布を考慮することにより、夏季の海氷分布の予測精度は大幅に向上します。海氷が例年より早く後退しはじめた海域では、そのまま早い海氷後退が続く傾向があるためです。このことは「夏季の海氷後退のしやすさは春の時点である程度決まっている」という、私たちの予測の基本的な考え方とも一致します。

今回の第二報では、12月の厚さを考慮した4月までの海氷の動きに7月20日から25日の海氷密接度を加えた夏季の海氷密接度の重回帰分析により、8月1日以降の毎日の海氷密接度を予測しました。


今年の7月時点での海氷密接度分布を見ると、過去2年に比べて、カナダ・アラスカ側および大西洋側での後退が早いことがわかります。一方、東シベリア海周辺での海氷後退は昨年より遅れ気味です。 これらはほぼ第一報での予測の通りです。

今回の第三報では、東シベリア海の海氷が第二報での予測よりさらに残りやすいという結果になっています。最小面積は第一報第二報と同様に昨年よりやや大きい見込みです。

引用文献

Kimura, N., A. Nishimura, Y. Tanaka and H. Yamaguchi, Influence of winter sea ice motion on summer ice cover in the Arctic, Polar Research, 32, 20193, 2013.

Krishfield, R. A., Proshutinsky, A., Tateyama, K., Williams, W. J., Carmack, E. C., McLaughlin, F. A., and Timmermans, M. L., Deterioration of perennial sea ice in the Beaufort Gyre from 2003 to 2012 and its impact on the oceanic freshwater cycle, J. Geophys. Res., 119, 1271-1305, doi:10.1002/2013JC008999, 2014.