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北極海氷分布予報

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2018年第一報

2018.05.17 東京大学大気海洋研究所 木村詞明, 羽角博康

今年9月11日の海氷分布予測図
図1:図1:今年9月11日の海氷分布予測図。色は海氷密接度、単位は%。
  1. 北極海の海氷面積は9月の最小期に約466万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは昨年の最小時とほぼ同じ面積です。
  2. 全体的に昨年と同程度の速さで海氷が後退し、最小時の海氷域も昨年と似た分布となる見込みです。
  3. ロシア側の北東航路では8月15日頃、多島海を除くカナダ側の沿岸では7月15日頃に海氷が岸から離れ、両側ともに航路が開通するでしょう。
2003年以降の最小海氷域面積の年変化
図2:2003年以降の最小海氷域面積(9月11日の海氷面積)の年変化。2018年の値は今回の予測値
7月1日から9月20日までの海氷分布予測値
図3:7月1日から9月20日までの海氷分布予測値(白い場所が海氷)のアニメーション。実線は過去二年分の氷縁(密接度30%の位置)を示す。
2003年から2016年までの海氷分布と今年の海氷分布
図4:2003年から2016年までの海氷分布(黄線)と今年の海氷分布(予測値:赤線)の7月1日から9月20日までの変化。線は密接度30%の位置。

最小期にあたる9月11日の海氷域面積は、約466万平方キロメートルと予想されます。これは昨年とほぼ同じ(1.7パーセント小さい)値です。最小時の海氷域は昨年とよく似た分布になります。

・ロシア側海域の特徴
ラプテフ海での海氷域の後退は、昨年並みかやや速く進行します。東シベリア海では8月中旬までは昨年よりもゆっくりと、それ以降は昨年と似た分布を保ちながら海氷域が後退すると予想されます。また、海氷が遅くまで残りやすいラプテフ海西のセヴェルナヤ・ゼムリャ諸島付近の海氷後退が昨年よりも速いことから、海氷が大陸から離れロシア側の開水面域がつながるのは、昨年より少し早い8月15日頃と予想されます。

・カナダ側海域の特徴
チャクチ海からボーフォート海のカナダ沿岸にかけて、昨年とほぼ同じ速さで海氷域が後退します。北アメリカ大陸沿岸は、昨年とほぼ同じ7月15日頃に開水面域がつながり、航路が開通する見込みです。

毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。

予測の方法について

2016年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2017年4月30日までの動きのアニメーション
図5:2016年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2017年4月30日までの動きのアニメーション。色は12月1日時点での海氷の厚さを示す。
2017年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2018年4月30日の分布
図6:2017年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2018年4月30日の分布。色は12月1日時点での海氷の厚さを示す。
2016年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2017年4月30日の分布
図7:2016年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2017年4月30日の分布。色は12月1日時点での海氷の厚さを示す。
2015年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2016年4月30日の分布
図8:2015年12月1日の海氷域上に等間隔に配置した粒子の2016年4月30日の分布。色は12月1日時点での海氷の厚さを示す。

夏の北極海の海氷分布は何によって決まるのでしょうか?

それを左右する要因はいくつかあります。春から夏にかけての気象条件(風、気温、雲量など)もそのひとつです。一般に海氷や気象の予測は、将来の海氷や大気、海洋の状態を現在の状態からコンピュータで数値計算することによって行われます。しかし、数ヶ月先の海氷や大気の状態を数値計算で予測することはほとんど不可能です。一般的なやり方では、春に夏の海氷分布を予測することはできません。

そこで、私たちは春(4月末)の海氷の厚さに注目しました。春の海氷の厚さが分かれば、過去の経験をもとにして、それが融けるまでの日数が予測可能だと考えたのです。

しかし、残念ながら現在のところ海氷の厚さ分布を正確に観測することは困難です。そこで、冬から春にかけての海氷の動きから、春の海氷の厚さ分布を間接的に推測し、それをもとに予測を行いました。

この解析には、衛星搭載の日本のマイクロ波放射計によるデータを利用しました。2002/03年から2010/11年まではAMSR-E、2012/13年から今春まではAMSR2によるものです。データは国立極地研究所の北極域データアーカイブ(https://ads.nipr.ac.jp)を通じて取得しました。

解析の手法は、冬季の海氷の動きと夏季の海氷分布との関係を示した私たちの研究(Kimura et al., 2013 [論文を見る])をもとにしています。冬から春にかけて例年より海氷が集まる場所では海氷が厚くなり、遅くまで海氷が残る(逆に海氷がまばらになる場所では早く海氷がなくなる)という関係をもとに夏の海氷分布を予測します。

この計算のために、まず毎日の海氷の動きを算出しデータセットを作成します。次に、12月1日の海氷域上に等間隔に粒子を配置し、計算した漂流速度を用いてこの粒子の4月30日までの動きを追跡します(図7)。このときの粒子の分布をもとに夏の海氷分布を予測します。

さらに、それぞれの粒子に追跡をはじめる12月1日の海氷の厚さを持たせました。ここでの海氷の厚さは、マイクロ波放射計による観測データを用いたKrishfield et al. (2014)による手法で計算したものを用いました。ただし、厚さの精度が十分でないことから、1.5mより厚い海氷についてのみ粒子に厚さ与えました。つまり、もともととても厚かった海氷が春季にどのように分布しているかを予測の際に考慮したことになります。


今年の冬から春にかけての海氷の動き(図5, 図6)を見ると、昨年(図7)と一昨年(図8)の間くらい特徴であったことがわかります。そのため、7月以降の海氷域は昨年と一昨年の中間くらいの速さで後退していく見込みです。

引用文献

Kimura, N., A. Nishimura, Y. Tanaka and H. Yamaguchi, Influence of winter sea ice motion on summer ice cover in the Arctic, Polar Research, 32, 20193, 2013.

Krishfield, R. A., Proshutinsky, A., Tateyama, K., Williams, W. J., Carmack, E. C., McLaughlin, F. A., and Timmermans, M. L., Deterioration of perennial sea ice in the Beaufort Gyre from 2003 to 2012 and its impact on the oceanic freshwater cycle, J. Geophys. Res., 119, 1271-1305, doi:10.1002/2013JC008999, 2014.