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北極海氷分布予報

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2021年第三報

2021.07.30 北極海氷情報室、木村詞明(東京大学大気海洋研究所)

2021年9月10日の海氷分布予測図。
図1:2021年9月10日の海氷分布予測図。
  1. 北極海の海氷域面積は9月の最小期に約428万平方キロメートルまで縮小する見込みです。これは一昨年とほぼ同じ大きさで、昨年より大きい値です。
  2. ロシア側の北東航路では8月2日頃、多島海を除くカナダ側の沿岸では7月15日頃に海氷が岸から離れ航路が開通する見込みです。
  3. ボーフォート海のアラスカ沖に古い氷が融け残る見込みです。
2003年以降の最小海氷域面積の年変化
図2:2003年以降の最小海氷域面積(9月10日の海氷域面積)の年変化。2021年の値(黄色点)は今回の予測値。昨年までの海氷域面積は気象庁による集計値
7月1日から9月20日までの海氷分布予測値のアニメーション。
図3:7月1日から9月20日までの海氷分布予測値(白い場所が海氷)のアニメーション。
黄色実線は2019年、緑実線は2020年の同じ日(画像左上に表示)の氷縁(密接度30%の位置)を示す。
予測された海氷密接度の平年値からの偏差
図4:予測された海氷密接度の平年値(2003-2020年の平均値)からの偏差。
赤が例年より早く海氷がなくなる場所、青は遅くまで海氷の残る場所を示す。

第三報では、第一報、第二報と同様に12月以降の海氷の移動を追跡する方法を用い、追跡期間を6月末まで延長して計算しました。しかし今回は、第二報補足で解説した方法で6月末から過去4年間に亘って遡り求めた海氷年齢分布も考慮しております。すなわち、これまでは海氷密接度と海氷移動を模擬した粒子分布の相関を求めることにより7月以降の海氷衰退期の海氷分布を予測していたのですが、第三報では、海氷年齢分布を加えた重回帰分析を行うことにより、予測しております。詳しくは「北極海氷分布予報2021年第三報補足:単回帰及び重回帰分析を用いた海氷予測の比較」をご覧ください。

海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約428万平方キロメートルと予想されます。これは2019年とほぼ同じで、2020年よりも大きい値です。また、第一報の予測値418万平方キロメートル、第二報の予測値408万平方キロメートルより、大きくなっています。

夏季の北極海氷域面積は最近数十年の間に急速に減少しています。2013年から2019年にかけてその減少傾向が顕著では無くなっていましたが、2020年にはふたたび大きく減少し、9月10日の北極海氷域面積は、約377万平方キロメートルと2012年に次いで二番目に小さい値となりました。今年の海氷域面積は2020年より大きいものの、過去三番目程度に小さい値まで縮小する見込みです。

ロシア側海域

海氷域の後退は、2020年より遅く、2019年より早くなる見込みです。海氷が大陸から離れロシア側の開放水面域がつながるのは、2020年と同じ8月2日頃と予想されます。

カナダ側海域

チュクチ海からボーフォート海にかけてのアラスカ沖海域でも、2019年と同時期に海氷域が後退します。北アメリカ大陸沿岸は、7月15日頃に開水面域がつながり、航路が開通する見込みです。また、海氷年齢を考慮した本解析では、多年氷の影響によりボーフォート海に海氷が残ることを示唆しています。



この予測には人工衛星搭載の国産マイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2による観測データを用いました。
おおまかな予測の手法については、2018年の第一報をご参照ください。
今年は昨年に引き続き、冬季の海氷の動きに加えて、2003年以降の海氷密接度の長期変化傾向も考慮に入れて予測を行なっています。

毎日の予測図は国立極地研究所の北極域データアーカイブでも見ることができます。