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北極海氷分布予報

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2022年第二報

2022.06.30 北極海氷情報室、木村詞明(東京大学大気海洋研究所)

2022年9月10日の海氷分布予測図。
図1:2022年9月10日の海氷分布予測図。
  1. 北極海の海氷域面積は9月の最小期に約444万平方キロメートルまで縮小する見込みです。 これは2020年より大きく、2021年より小さい値です。
  2. ロシア側の北東航路では8月12日頃、多島海を除くカナダ側の沿岸では7月30日頃に海氷が岸から離れ航路が開通する見込みです。
  3. ボーフォート海のカナダ多島海側に氷が解け残る見込みです。
2003年以降の最小海氷域面積の年変化
図2:2003年以降の最小海氷域面積(9月10日の海氷域面積)の年変化。 2022年の値(黄色点)は今回の予測値。昨年までの海氷域面積は 気象庁による集計値
7月1日から9月20日までの海氷分布予測値のアニメーション。
図3:7月1日から9月20日までの海氷分布予測値(白い場所が海氷)のアニメーション。
白線は今年の予測の密接度15%の位置、色のついた線は過去二年分の密接度15%の位置を示す。
予測された海氷密接度の平年値からの偏差
図4:予測された海氷密接度の平年値(2003-2021年の平均値)からの偏差。
赤が例年より早く海氷がなくなる場所、青は遅くまで海氷の残る場所を示す。
2003年以降の最小海氷域面積の年変化
図5:2022年5月31日の海氷年齢分布。水色、青、緑、黄色、赤は、それぞれ1年氷、2年氷、3年氷、4年氷、5年氷以上の海氷である。

今回の予報では「冬季から春季までの海氷の移動」および「海氷の収束・発散の絶対値の積算値」の二つの値を予報に用いました。 海氷の移動は12月から5月末までの海氷の動きから、収束・発散の絶対値の積算値は5月末から90日間遡った期間の値から計算しています。 「海氷の収束・発散の絶対値の積算値」は、先月発表した 第一報 で用いた「海氷年齢」と「平均発散値」に代えて新たに導入したもので、海氷の動きやすさの指標となる値です。 この値の大きい場所では海氷が自由に動きやすいことから、薄く解けやすい海氷が多いと予想されます。 一方、この値の小さい場所はしっかりした厚い海氷に覆われていて解けにくいと考えられます。 今回この値を予報に用いたのは、過去のデータの解析から、多年氷の解けやすさの違いを海氷年齢よりも正確に考慮できると判断したためです。

海氷最小期にあたる9月10日の北極海氷域面積は、約444万平方キロメートルと予想されます。 これは2020年よりも大きく、2021年よりも小さい値です。また、第一報の予報値(約446万平方キロメートル)とほぼ同じ値です。

夏季の北極海氷域面積は最近数十年の間に急速に減少しています。 2013年から2019年にかけてその減少傾向が顕著では無くなっていましたが、2020年にはふたたび大きく減少し、 9月10日の北極海氷域面積は、約377万平方キロメートルと2012年に次いで二番目に小さい値となりました。 しかし、2021年はボーフォート海からチュクチ海にかけて海氷が解け残り、9月10日の海氷域面積は約472万平方キロメートルと2020年から大幅に増加しました。 今年の予想海氷域面積は2021年よりやや小さいものの2020年よりかなり大きく、2020年の急激な減少が一過性のものであったことを示しています。

図4の海氷密接度の平年値からの偏差を見るとロシア側は例年よりも早く海氷がなくなります。 カナダ側では7月はカラ海からボーフォート海にかけての海域で海氷の融解が例年より遅く、8、9月に入ってもカラ海では例年よりも多くの海氷が残ります。 これは、図5に見られるボーフォート海からチュクチ海にかけて広がっている4年氷以上の海氷が、厚くしっかりしたものであるためと考えられます。

ロシア側海域

海氷域の後退は、その時期と海域分布ともに2021年とほぼ同様になる見込みです。 海氷が大陸から離れてロシア側の開放水面域がつながり航路が開通するのは、8月12日頃と予想されます。 航路開通日は、やや余裕を持って決定しており、実際にはこれより少し早い可能性があります。

カナダ側海域

チュクチ海からボーフォート海にかけてのアラスカ沖海域では、2020年、2021年とほぼ同時期に海氷域が後退します。 北アメリカ大陸沿岸は、7月30日頃に開水面域がつながり、航路が開通する見込みです。 また、2020年、2021年と同様に、ボーフォート海のカナダ多島海側に海氷が解け残る見込みです。 これは、生成から3年以上経過した古い氷が2020, 2021年に引き続いてこの海域に広がっているためです(図4)。 そのため、解け残る海氷も厚いものが多い可能性があり、注意が必要です。

毎日の予測図 は国立極地研究所の北極域データアーカイブシステムでも見ることができます。 また、海氷齢(日齢、年齢)に関しても北極域データアーカイブシステムで公開を始めました。