EN

北極海氷情報

  1. HOME
  2. 北極海氷情報
  3. 週刊海氷情報
  4. 北極海氷分布予報2021年第二報補足:海氷年齢の解析とそれをもとにした予測

北極海氷分布予報2021年第二報補足:海氷年齢の解析とそれをもとにした予測

一般に生成から時間が経った氷ほど厚さが増す(e.g., Tschudi et al., 2016)と考えられることから、海氷年齢の分布は夏季の海氷状態を知るための有用な情報になります(e.g., Kimura et al., 2020)。

海氷年齢の推定方法

海氷年齢の見積りに必要なデータは毎日の海氷漂流速度と海氷密接度です。これらは人工衛星搭載の国産マイクロ波放射計AMSR-EおよびAMSR2による観測データを加工することで得られます。データは国立極地研究所の北極域データアーカイブシステムを通じて取得し、海氷漂流速度は独自に計算したものを(Kimura et al., 2013)、密接度はBootstrap Algorithm(Comiso, 2009)によって計算されたものを用います。

 今回は、海氷の位置を最大4年間遡って計算することで海氷の年齢を見積もりました。以下に示す例では、2016年5月31日の海氷密接度15%以上の場所に粒子を配置し、毎日の海氷の漂流速度データを用いて粒子の位置を時間を遡って計算しています。海氷漂流速度は60km間隔の格子点上に計算されているため(図1)、粒子位置での速度は、その周辺にある格子点の情報から計算します。こうして日を遡っていくと、粒子は海氷のない場所(密接度15%以下)に到達します(図2)。その場所で海が凍って海氷が生まれたと考え、その日から2016年5月31日までの期間をその粒子の年齢とします。

図1:2016年5月31日、ボーフォート海周辺の海氷分布図と海氷速度ベクトル。白い部分は海氷密接度が15%よりも大きい範囲。
図2:海氷分布の変動と粒子の移動。2016年5月31日から2015年5月31日まで遡った場合の図。粒子は赤色で表され、白い部分は海氷密接度が15%よりも大きい範囲。海氷域を外れた粒子は非表示にしている。

過去5年の春季の海氷年齢分布と夏季の海氷分布傾向

図3:2016年から2020年までの海氷の年齢分布。(左:5月31日、右:9月10日)赤色から薄い水色の領域が前年の夏を越えた多年氷、濃い水色の領域が若い一年氷。

各年の春季海氷年齢分布は前年の海氷域面積最小期の海氷年齢分布を大きく反映しています。最小期に残った海氷は、次年の春先にかけてグリーンランド、カナダ多島海、ボーフォート海、チュクチ海に向けて移動しています。この動きは年によって大きく異なります。

 多年氷の融解の傾向をみると、2016年が最も融解し、2017~2020年は同程度の融解となっています。ボーフォート海に注目すると、2016年を例外とすれば、春季に海氷年齢が高ければ高いほど、最小期まで海氷が残りやすくなる傾向があります。一方で、2016年のように年齢の大きな海氷が大幅に融解することもあるため、夏季の分布を予測するためには海氷融解の状況についてさらなる解析が必要です。

予想される2021年夏季の海氷状況

図4:2021年5月31日の海氷の年齢分布。赤色から薄い水色の領域が前年の夏を越えた多年氷、濃い水色の領域が若い一年氷。

5月31日時点ではグリーンランドからカナダ多島海にかけての沿岸と、ボーフォート海からチュクチ海に年齢の大きな海氷が分布しています。これらの海氷は2020年に残ったものであり、状態も似ていると考えられることから、昨年同様にボーフォート海に海氷が残る可能性があります。また、海氷域が大きく融解した場合でも厚いはぐれ氷がこの海域に残るかもしれません。

引用文献

  • Comiso J.C. Enhanced sea ice concentrations and ice extents from AMSR-E data. Journal of Remote Sensing of Japan 29, 199–215, 2009.
  • Kimura N., Nishimura A., Tanaka Y. and Yamaguchi H., Influence of winter sea ice motion on summer ice cover in the Arctic, Polar Research, 32, 20193, 2013.
  • Kimura, N., Tateyama K., Sato K., Krishfield R.A and Yamaguchi H., Unusual drift behaviour of multi-year sea ice in the Beaufort Sea during summer 2018, Polar Research, 39, 3617, 2020.
  • Tschudi M.A., Stroeve J.C. and Stewart J.S. Relating the age of Arctic sea ice to its thickness, as measured during NASA’s ICESat and Ice Bridge campaigns. Remote Sensing 8, 457, 2016.