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2023年度北極海氷中期予報総評

2023年は前年までと同様、5月に第一報、6月に第二報、7月に第三報を公開しました。 海氷予測には「冬季から春季までの海氷の移動」、「海氷年齢」と「平均発散値」の三つのパラメータを使用しました。主に太平洋側の海氷分布の予測精度の向上を目指し、新たに
(1) 予測時から予測対象日までの海氷の動きの考慮
(2) AMSR-E観測終了からAMSR2観測開始までの欠測の他データによる補間
を実施しました。(1)には過去4年間の5月以降の海氷漂流速度の年次平均値を用いました。 また、(2)は海氷密接度はWINDSATを、海氷漂流速度はTOPAZ4を用いて第三報から実施しました。ここではそれらの予測結果を実際の観測値と比較しその精度を検証します。

観測値と予測値の比較


7月1日から9月30までの海氷分布の観測値と予測値のアニメーション。
図1: 7月1日から9月30までの海氷分布の観測値と予測値のアニメーション。 白い部分が観測された海氷密接度、赤、青、緑色の線がそれぞれ第一、二、三報の密接度15%線を表す。
2003年以降の最小海氷域面積の年変化
図2: 2003年以降の最小海氷域面積(9月10日の海氷域面積)の年変化。海氷域面積は 気象庁による集計値
A1からA5の領域(b)での4種類の手法による観測値と予測値との差のグラフ(a)。
(a) 密接度15%以上の海氷域面積の差分をとった結果            (b) A1からA5の解析領域の内訳

図3: A1からA5の領域(b)での4種類の手法による観測値と予測値との差のグラフ(a)。 赤色は予測値-観測値が正の値、
青色は負の値を示し、合計が小さいほど予測精度が高い。

図3aは解析領域の海氷域の観測値と予測値との差の絶対値を8月1日から9月10日まで積算したものです。A1~A5は図3bに示す解析領域です。 海氷域の定義は観測値、予測値ともに海氷密接度が15%以上の領域としています。 赤色が観測よりも面積を多く予測した量、青色が少なく予測した量を表しています。 グラフ中の「Trend」は2003年から2022年までの長期傾向のみから予測した場合の結果です。

図1の観測値の海氷密接度の時間変化を見てみると、ボーフォート海では7月から8月にかけて大きく海氷が後退し、 東シベリア海、チュクチ海では8月から9月にかけて大きく海氷が後退しているのが分かります。 平年よりも海氷の後退の時間変化が激しく、太平洋側では例年よりも大きく海氷域が後退しているのがわかります。 図2に示す通り2023年は425万平方キロメートルで過去5番目に小さい海氷域面積になっています。


図1より第一報から第三報までの氷縁の時間変化を見てみると、太平洋側の東シベリア海、チュクチ海、ボーフォート海以外はほとんど予測に差がありません。 太平洋側の領域を詳しく見てみると、ボーフォート海では第一報、第二報では海氷域内に開放水面域ができているのに対し第三報ではできていません。 また、東シベリア海、チュクチ海では第三報の方がわずかに第一報、第二報よりも過大予測しています。 太平洋側では全体を通して過大予測をしていることがわかります。 図2の海氷域の積算のグラフではA1、A2の領域で第一報、第二報、第三報の順に誤差の蓄積が多くなっていることが見て取れます。 また、A2に関してはトレンドのみから予測した方が精度が良くなっています。


最小域面積の比較:

第一報 第二報 第三報
図4: 第一報から第三報の9月10日における観測値と予測値。 白い部分が観測された海氷密接度、緑色の線が予測値の密接度15%線を表す。
予報では9月10日の海氷域面積を最小面積として第一報では約451万平方キロメートル、第二報では約452万平方キロメートル、第三報では約453万平方キロメートルと発表しました。 気象庁の再解析 によると今年は9月16日に海氷域面積が最小になり、その大きさは425万平方キロメートルでした。 最小域面積の予測誤差は第一報で+26万平方キロメートル、第二報で+27万平方キロメートル、第三報で+28万平方キロメートルです。 第一報が一番良い結果となっていますが、その差は小さくすべての予測が過大予測でした。この原因は、面積最小期の海氷分布(図4)を見ると、 いずれの予測も東シベリア海からボーフォート海にかけて過大予測しているためであることがわかります。


総合評価:

今年は太平洋側が平年に比べて解けた年となり、ボーフォート海では7月から8月にかけて大きく海氷が後退し、東シベリア海、チュクチ海では8月から9月にかけて大きく海氷が後退しました。 予測ではこれらの海氷の後退を正確に予測することはできませんでした。太平洋側の領域の積算面積誤差が一番小さいのは第一報で、続いて第二報、第三報の順になりました。 これは予測パラメータの配置が第三報になるにつれ正確になり、その配置は海氷が残りやすい配置であったと考えられます。 使用しているパラメータは海氷を多く残す傾向があり、特に海氷年齢については年齢を高く見積もる計算手法になっています。 また、東シベリア海、チュクチ海では8月中旬以降、海氷が例年に比べて急速に減少しました。これを予測するためにはこの時期の大気の影響も考慮する必要があると考えられます。
2024年は、より高精度の海氷年齢データを予測に用いること、いくつかのパターン(大きく後退する場合、さほど後退しない場合、 残りやすい場合の3パターンなど)の予測を公表することなどを通して、予測の信頼性の向上に取り組む予定です。

航路開通日予測


7月1日から8月31日までの海氷密接度の変化のアニメーション カナダ側開通 ロシア側開通
図5:7月1日から8月31日までの海氷密接度の変化のアニメーション。中央及び右図はそれぞれカナダ側及びロシア側が開通したと
断定した日付の画像。

今年の航路開通日はカナダ側を7月21日、ロシア側を8月26日と推定しました。 今年の7月1日から8月31日までの海氷密接度分布の時間変化と開通日の海氷密接度分布は図5の通りです。 第一報時点での予測ではカナダ側を7月26日、ロシア側を8月15日としていたので誤差はそれぞれ日-5日、-11日と開通日を早めに評価する結果となりました。


中期予報精度の数値目標を先行プロジェクトで「航路開通日の誤差1週間以内」と定めました。 今年の第一報ではカナダ側の開通日予測のみ目標を達成しています。 1週間というのは、氷に邪魔されることなく北極海航路を横断航海する日数に相当します。 航路開通日は、「海氷密接度15%以上の海域に進入することなく通過航行できる」を基準に、目視により決定しています。 観測データはAMSR2の海氷密接度を使用しています。 実際には同じ海氷密接度でも航行の容易性は海氷の厚さ等の氷況によって異なるため、あくまでも目安の日付となることにご留意ください。