GRENE北極気候変動研究事業における
海洋地球研究船「みらい」北極海航海について

掲載日:2012年8月27日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所(所長:白石和行)は、文部科学省の大学発グリーン・イノベーション創出事業「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス」(GRENE)事業 北極気候変動分野「急変する北極気候システム及びその全球的な影響の総合的解明」(北極気候変動研究事業)において、独立行政法人海洋研究開発機構(理事長:平朝彦)所有の海洋地球研究船「みらい」による北極海の観測・調査航海を実施します。

主旨

国立極地研究所が代表機関となって平成23年に始まったGRENE北極気候変動研究事業は、急変する北極気候システムの変動状況を総合的に把握し、その結果を気候変動予測モデルに反映させ、予測モデルの高度化・精緻化を図るとともに、北極気候システムの変化が我が国や全球にもたらす影響を評価することを目的としています。

GRENE北極気候変動研究事業は、国内の35機関約300人の研究者が連携し、海外の研究者や機関の協力のもと観測・研究を行っており、今般、事業開始以降初めて、北極の陸・海・空を舞台に本格的な観測シーズンに入りました。5年間に及ぶ事業期間中最大規模かつ集中的に研究者が参加する調査として、9月から45日間の海洋地球研究船「みらい」による北極海における観測・調査のための航海が行われます。

北極海では急激に海氷が減少してきております。なかでも今年は、衛星観測データによると過去最小記録を更新しそうな勢いで海氷が減少してきています。そのような海氷状況のなかGRENE北極気候変動研究事業では、年間を通して海氷最小期にあたる時期に季節海氷域(夏期には海氷が無くなる海域)の航海を実施します。

海氷減少は水温や塩分・海の流れなどの海水の物理的性質を変え、栄養分などの化学的性質を変え、そこに棲むプランクトンや魚や動物などの生物にも影響を及ぼします。

北極海の大気から海洋まで観測を行うことで北極域における環境変動を明らかにし、その影響がどのように生態系や気候システムに及んでいるのかを調査します。

航海期間

9月3日(月)青森県関根浜港出港 ~ 北極海 ~ 10月17日(水)関根浜港帰港

45日間にわたる航海中の観測の様子を下記URLのGRENE北極変動研究事業HP「北極から~2012観測便り~」にて公開予定です。
http://www.nipr.ac.jp/grene/kansokudayori/index.html

観測実施海域

海氷減少に伴う変化が現われはじめている太平洋側北極海のチャクチ海陸域棚から陸域斜面域・カナダ海盆での観測データの取得を海氷最小期に実施します。

※上図は現時点での計画であり、気象・海象・海氷その他の状況により変更することもあり得ます。

観測内容

(1)海氷減少と海洋生態系の変化

海洋物理環境(水温・塩分・海流)や化学環境(栄養塩・鉄等の分布と関係する有機物の分解過程、炭素循環、窒素循環など)が海氷の生成や減少によりどのように変化するかを調べ、これらの変化が動植物プランクトンにどのように影響していくのか動態を明らかにしていきます。そしてその影響が底生生物や魚類、大型哺乳類・海鳥の分布や活動に与える影響を調査します。

(2)北極域における温室効果気体の循環とその気候応答の解明

温室効果気体および関連物質の変動に北極海が重要な役割を果たしていると言われていますが、観測データは少なくその実態はほとんど知られていません。

北極でのCO2の大気海洋交換に関する観測を行うとともに、表面海水中の生物生産についても観測し、さらに温室効果気体とその同位体、濃度測定等を行います。

(3)大気プロセス研究

スカイラジオメーターにより雲の生成や放射に係る北極海上の大気中のエアロゾルを観測します。

観測メンバー

海洋物理、海洋化学、海洋生態系、大気観測に係る研究者20名が乗船します。

【観測メンバー所属機関】
海洋研究開発機構、気象研究所、北海道大学、東京大学、東京海洋大学、富山大学、国立極地研究所

海洋地球研究船「みらい」

前身は日本初の原子力船「むつ」。1995年に原子炉を撤去され、再利用しない部分の解体やアスベスト除去が行われたのち、1996年に「みらい」として生まれ変わりました。

優れた耐氷性、航行性を有し、広域かつ長期にわたる観測研究が可能な特徴を生かして、北極海や太平洋、インド洋など亜熱帯・亜寒帯海域での海洋調査を専門に、海洋地球研究の最先端国際洋上基地、多様な海洋地球データ発信基地としての役割が期待されています。

「みらい」についての詳細情報は海洋研究開発機構のホームページをご参照ください。http://www.jamstec.go.jp/j/about/equipment/ships/mirai.html

GRENE北極気候変動研究事業

文部科学省の大学発グリーン・イノベーション創出事業「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス」(GRENE)事業 北極気候変動分野で国立極地研究所が代表機関、海洋研究開発機構が参画機関として採択されたのが「急変する北極気候システム及びその全球的な影響の総合的解明」(北極気候変動研究事業)です。4つの戦略研究目標達成を目指し9つの課題を採択し、平成23年度から平成27年度まで事業を実施します。

本事業についての概要はホームページをご参照ください。
http://www.nipr.ac.jp/grene/