大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所ホーム>ニュースとお知らせ

ニュースとお知らせ

リアムコンパクト数値風況診断モデルにより南極昭和基地の気流を20cm空間解像度で計算

2014年4月24日

概要

九州大学応用力学研究所 内田 孝紀 准教授は、「RIAM-COMPACT®(リアムコンパクト)」数値風況診断モデルを用いて、南極昭和基地を対象に大規模な数値風況シミュレーションに成功しました。

本研究では、最初に地理情報システム(GIS)を用い、現在の南極昭和基地・管理棟建物群の3次元形状データおよび周辺の地形の凹凸をコンピュータ上に忠実に再現しました。得られた3次元形状データに対して、20cmの空間解像度で数値風況診断を実施し、南極昭和基地・管理棟建物群の周辺に発生している複雑な気流の変化を再現することに成功しました。今回の数値風況診断の総計算格子数は、全体で約9,000万点にも及びます。計算資源として、応用力学研究所が所有するスーパーコンピュータSX-9Fの8CPUを用い、50万ステップの並列計算を実施しました。今後、得られた計算結果を詳細に分析していく予定です。

背景と内容

昭和基地は、南極圏内の東オングル島にある日本の観測基地であり、第1次日本南極地域観測隊によって開設されました。2014年現在は管理棟建物群を中心に68棟の建物から構成されており、国立極地研究所が所轄しています(図1)。

図1 南極昭和基地・管理棟建物群の位置と形状

南極昭和基地では、特に1992年から2001年にかけて整備された管理棟建物群の周囲に大量の雪の吹き溜り(スノウドリフト)が発生し、基地運営上の大きな問題となりました。そこで、第43次南極地域観測隊は、高橋弘樹 越冬隊員を中心にスノウドリフト性状を把握するための観測を実施しました(図2)。また、模型風洞実験によるスノウドリフト性状予測手法も構築されてきましたが、その実施には多大な時間と労力を必要とします(図3)。現地観測と風洞実験の経験から、スノウドリフトは建物や地形の急激な変化によって、気流の剝離が生じて風速が低下する領域、または乱流強度が増加する領域に発生することが分かっています。しかしながら、これらは経験則に終始し、定量的な評価には至っていませんでした。

上記の問題点、課題点を踏まえ、本研究では今後の効率的な南極設営計画を実施することを最大の目的とし、「RIAM-COMPACT®(リアムコンパクト)」数値風況診断モデルにより、南極昭和基地全体を対象とした気流場の高解像度・大規模計算を実施しました。

九州大学・内田准教授は、国立極地研究所と株式会社環境GIS研究所と「数値風況解析による極地設営に関する共同研究」に関する契約を締結し、三者で協力して本研究を実施してきました。株式会社環境GIS研究所は最新の地理情報システム(GIS)の技術を用いて、南極昭和基地・管理棟建物群および周辺の地形の凹凸をコンピュータ上へ忠実に再現しました(図4)。得られた3次元立体形状デー タに対して、内田准教授は「RIAM-COMPACT®(リアムコンパクト)」数値風況診断モデルを適用し、北東の風を対象に南極昭和基地・管理棟建物群の周辺に形成される気流を20cmの空間解像度で計算しました(図5、図6)。本研究の計算資源として、応用力学研究所が所有するスーパーコンピ ュータSX-9F(図7)の8CPUを用い、50万ステップの並列計算(時間積分)を実施しました。今回の数値風況診断に要した総計算格子数は、全体で約9,000万点にも及びます。数値風況診断によって得られた膨大な数値データの見える化を施し、南極昭和基地・管理棟建物群の周辺に発生する気流が時間的・空間的に複雑に変化している様子を再現することに成功しました(図8、図9)。

図2 第43次越冬隊によって観測されたスノウドリフト分布(高橋 学位論文より)

図3 風洞実験によって再現されたスノウドリフト分布(高橋 学位論文より)

図4 地理情報システム(GIS)を用いて再現した南極昭和基地・管理棟建物群および周辺の地形の凹凸

図5 計算領域と諸条件など

図6 水平断面内の計算格子、1セルが20cm四方

図7 本研究で使用した計算資源、NEC製SX-9F

図8 水平断面内の風速分布、地面付近、瞬間場

図9 鉛直断面内の風速分布、瞬間場

まとめと今後の展開

国立極地研究所 金 高義 助教を中心に、南極昭和基地の管理棟建物群におけるスノウドリフト性状の現地観測データ、風洞実験結果、および今回得られた計算結果を詳細に比較し、検証していく予定です。

“風を制するものが南極を制する”と長年言われてきました。本共同研究によって構築され「RIAM-COMPACT®(リアムコンパクト)」による数値風況診断技術およびそこから得られた研究成果は、今後の効率的な南極設営計画に大いに貢献するものであると言えます。

謝辞

本研究は、九州大学応用力学研究所、国立極地研究所、株式会社環境GIS研究所による「数値風況解析による極地設営に関する共同研究:研究代表者 内田 孝紀」により実施されました。

南極昭和基地における現地観測では、第43次南極地域観測隊隊員の皆様に協力を得ました。風洞実験の実施は、日本大学理工学部建築学科 半貫研究室(現・石鍋研究室)と防災科学技術研究所 雪氷防災研究センター 新庄雪氷環境実験所の皆様にご尽力いただきました。

本研究で使用した建物モデルは国立極地研究所所蔵の設計図書を利用して作成しました。また、地形モデルは国土地理院の技術資料(C1-No.415)「平成24年度南極地形図データ」(1/2,500スケール地形図ベクトルデータ、Shapeファイル形式)および(B1-No.32)「南極地域基準点・重力・地磁気、空中写真及び地図成果集録(2)」(1/500スケール地図画像)を利用し作成したものです。(国土地理院技術資料等の利用承認申請中)

ここに記して、感謝の意を表します。

参考

※本成果に関連する研究内容については、下記Webサイトにも掲載しています。
応用力学研究所 新エネルギー力学部門 風工学部分野Webサイト
http://www.riam.kyushu-u.ac.jp/windeng/aboutus_detail03.html

問い合わせ先

研究全体に関するお問い合わせ

九州大学応用力学研究所 准教授 内田 孝紀(うちだ たかのり)
TEL:092-583-7776 FAX:092-583-7779
E-mail:takanori@riam.kyushu-u.ac.jp

国立極地研究所のお問い合わせ

極地工学研究グループ助教 金 高義(キム コゥイ)
TEL:042-512-0757 FAX:042-528-3209
E-mail:kim.koui@nipr.ac.jp

株式会社環境GIS研究所のお問い合わせ

代表取締役 荒屋 亮(あらや りょう)
TEL:092-847-0105 FAX:092-631-6407
E-mail: araya@engisinc.com

ページの先頭へ