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研究成果

[プレスリリース]2015年夏季の北極海海氷分布予報を公開 ~海氷面積は昨年より縮小の見込み

2015年5月28日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

情報・システム研究機構国立極地研究所(所長:白石和行)が代表機関を務めるGRENE北極気候変動研究事業()の山口 一 東京大学教授らの研究グループが、5月28日、2015年夏季の北極海の海氷分布予報を公開しました。
海氷分布予報によると、今夏の北極海の海氷面積は昨年よりも縮小し、過去4番目の小ささとなることが予想されます。また、ロシア側の北東航路では8月24日頃、多島海を除くカナダ側の北極海沿岸では7月22日頃に航路が開通すると見込まれます。

今夏の予報

GRENE北極気候変動研究事業の山口一東京大学教授らの研究グループは、2015年7月1日から9月11日までの北極海の夏季海氷分布について、WEB上で予報を公開しました。

予報によると、今夏の北極海の海氷面積は昨年より減少し、最小期となる9月11日には450万平方キロメートル程度まで縮小する見込みです()。これは、2012年、2007年、2011年に次ぐ過去4番目の小ささです。また、ロシア側の北東航路では8月24日頃、多島海を除くカナダ側の北極海沿岸では7月22日頃に開水面域がつながり航路が開通すると見込まれます。

昨年(2014年)の冬から今年の春にかけて、北極海のロシア側では、ラプテフ海で多くの海氷が流出し、東シベリア海には海氷が集まる傾向がありました。このためラプテフ海では春季の海氷が薄く、海氷域の後退が早く進行する見込みですが、東シベリア海の海氷後退は周辺海域よりも遅れることが予想されます。

一方、カナダ側海域では冬季に海氷が沿岸から離れていたことから、沿岸付近は比較的薄い海氷に覆われていると考えられます。そのため6月から7月にかけて海氷域が急速に後退し、7月中に開水面域がつながる見込みです。

本予報は、GRENE北極気候変動研究事業の戦略研究目標④「北極海航路の利用可能性評価につながる海氷分布の将来予測」(研究代表者:島田浩二 東京海洋大学准教授)の研究サブ課題「北極航路利用のための海氷予測および航行支援システムの構築」(研究サブ課題代表者:山口一 東京大学教授)の研究チームによるものです。予報は、6月末、7月末に最新の予報に更新される予定です。

予測手法

北極海では、冬季に海氷が発散する(流出する)海域では薄い海氷の割合が増えて5月以降に海氷が融解しやすく(例年よりも早く海氷が無く)なり、逆に海氷が収束する(集まる)場所では海氷が厚くなるため海氷の融解が遅くなると考えられていました。

本研究チームは、過去12年間(2003年~2015年、衛星観測の途切れた2012年を除く)のJAXAの衛星搭載マイクロ波放射計AMSR-E(地球観測衛星「Aqua」に搭載)およびAMSR2(第一期水循環変動観測衛星「しずく」に搭載)のデータから、独自の計算により北極海全域での毎日の海氷の動きを計算しています。

その計算結果をもとに、冬季の海氷の収束と発散を解析することにより、冬季(12月から4月にかけて)の海氷の収束・発散が夏の海氷分布と関係していることをデータから明らかにしました(文献1)。

本予測では、昨年までのデータをもとにしたこの関係と、この冬(2014~15年シーズン)の北極海の海氷の収束・発散を解析した結果から、今夏の海氷分布を予測しました。

なお、同チームは、2010年より上記手法に改良を加えながら毎夏の北極海の海氷分布予報を公開・検証しています。

今後の展望

海氷域の後退に伴い北極海を貨物船の航路として利用することが現実味を帯びてきています。北極海を航路として利用することが可能になれば、日本をはじめとする東アジアから欧州までの航路を大幅に短縮できます。この予報は北極航路の航行支援を想定したものであり、夏季の海氷分布を春の時点で予測することにより、安全で効率的な航行に寄与することを目指しています。

※GRENE北極気候変動研究事業

「グリーン・ネットワーク・オブ・エクセレンス」(GRENE)事業は、環境エネルギーに関する重要研究分野毎に、大学や研究機関が戦略的に連携し、世界最高水準の研究と人材育成を総合的に推進するため、文部科学省が平成23年度に開始した事業です。北極気候変動、環境情報、植物科学、先進環境材料の4分野で、平成27年度までの5年間の事業が進められています。

GRENE北極気候変動研究事業は、「急変する北極気候システム及びその全球的な影響の総合的解明」を目指し、国立極地研究所が代表機関、海洋研究開発機構が参画機関をつとめ、国内39機関、約300名の研究者が参加しています。なお、平成27年度においては、文部科学省の北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の一環として実施されています。

詳細はホームページをご参照下さい。http://www.nipr.ac.jp/grene/

図表

図:今夏の最小期(9月11日)の予測海氷分布図。色が海氷密接度(被覆率)を示す。単位は%。

文献

文献1:Kimura, N., A. Nishimura, Y. Tanaka and H. Yamaguchi, Influence of winter sea ice motion on summer ice cover in the Arctic, Polar Research, 32, 20193, 2013.

お問い合わせ先

国立極地研究所 広報室
TEL:042-512-0655

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