大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

[プレスリリース]予想外に巨大化した磁気嵐の原因は太陽風の「玉突き事故」

2015年7月2日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立大学法人名古屋大学

国立極地研究所(所長:白石和行)の片岡龍峰准教授を中心とする研究グループは、磁気嵐の規模が巨大化する原因を解明しました。北海道で11年ぶりにオーロラが撮影された2015年3月17日の磁気嵐の規模は、世界中の専門家の予想をはるかに超えるレベル(過去10年で最大)であり、その原因解明が緊急の課題となっていました。片岡准教授らは、磁気嵐の2日前に太陽から噴き出したコロナ質量放出(強い磁場を帯びたプラズマの塊)が地球へ到達するまでの2日間に、後方から高速太陽風の追い風を受けるかたちで、さらに前方に渋滞していた低速太陽風を巻き込むことによって、最終的に「玉突き事故」のような状況になったため、磁気嵐の規模が非常に大きいものになったことを明らかにしました。この研究により、今後の巨大磁気嵐を逃さずに予測するためには、磁気流体力学シミュレーションによって、高速風、低速風、コロナ質量放出の全体像を把握し、それらのダイナミックな変化を正確に追跡する必要があることも明らかになりました。

研究の背景

世界中で地磁気が一時的に弱まる現象は、磁気嵐と呼ばれています。大きな磁気嵐を起こす原因は、太陽フレアと呼ばれる爆発現象に伴って、大量のプラズマが太陽磁場を引き連れて一気に宇宙空間へ噴き出す「コロナ質量放出」です。太陽からの光は約8分で地球に届きますが、コロナ質量放出が地球に届くまでには数日かかります。コロナ質量放出が地球に到達し、その強い南向きの磁場に地球が長時間包まれることによって磁気嵐が発生します。磁気嵐の規模が大きくなると、極域で見られるオーロラも活発になりますが、普段オーロラが見られない緯度の低い地域でもオーロラが見られることがあります。

2015年3月17日、世界中の専門家の予想をはるかに超えた、過去10年で最大規模の磁気嵐が発生し、北海道ではオーロラが11年ぶりに観測されました(図1)。太陽フレアの規模は小さいものだったため(注1)、この磁気嵐の規模が、なぜこれほど巨大化したのか、という原因の解明が緊急の課題となっていました。

研究の内容

探査機によって直接観測されたコロナ質量放出の磁場、速度、密度、温度について調べた結果、このコロナ質量放出は、平均的なものと比べて密度が濃く、温度が高いという特徴があることがわかりました。これは、コロナ質量放出の後ろ側から追い風のように吹き付けていた高速太陽風(注2)によって、コロナ質量放出の膨張が妨げられていたためだと考えられます。また、この日のコロナ質量放出の前方も、非常に密度が濃かったという特徴があることがわかりました。これは、あらかじめ渋滞していた低速太陽風(注3)が、追突によりさらに圧縮されていたためだと考えられます。

次に、磁気流体力学シミュレーションを用いて、このコロナ質量放出が太陽から地球まで伝搬する様子を再現する実験を行いました(図2に動画)。その結果、高速と低速の太陽風に挟まれたコロナ質量放出の立体的な全体像が明らかになりました(図3)。

さらに、観測された太陽風の磁場、速度、密度を入力値として、磁気嵐の規模を再現するモデル計算を行いました。その結果、強い南向き磁場の影響だけでは、磁気嵐は今回観測された規模にまで十分に発達せず、玉突き事故のようにして全体的に太陽風の密度が濃くなったために磁気嵐の規模が約5割増強されたことを明らかにしました。

今後の展望

小さな太陽フレアでも、大きな磁気嵐が起こる、という今回の教訓は非常に重要です。本研究によって実際に磁気嵐が巨大化する具体的な仕組みも明らかになりました。将棋に例えれば、歩の突き捨てからの飛車角銀桂の攻めを繋げて寄せきったような(注4)磁気嵐でした。これまでのように、大きな太陽フレアが起こったときに、太陽面の観測からコロナ質量放出の磁場のねじれを計算するだけでは磁気嵐の規模の予測には不十分です。今後は、それに加えて、磁気流体力学シミュレーションによって、高速風、低速風、コロナ質量放出の全体像を把握し、それらのダイナミックな変化を正確に追跡することで、大規模な磁気嵐を逃さずに予測することが可能になると期待されます。大規模な磁気嵐は地上の送電設備や人工衛星へ障害を起こすなど我々の生活とも密接に関連する事象であり、本研究はそのメカニズムの解明や予報の改善に一歩迫った、有益な成果であるといえます。

注釈

注1) 太陽フレアは、太陽面でプラズマが爆発して光る現象です。フレアによって放たれるX線の強さは常に人工衛星によって監視されており、フレア発生後すぐにフレア規模の速報値が出てくるようになっています。ほかにデータがない速報段階では、まずは大きなフレアが起こるほど、大きな磁気嵐になることが警戒されます。

注2) 太陽風は常に高速ではなく、特にコロナホールと呼ばれる場所から吹き出す太陽風が、高速になることが知られています。今回も、コロナホールから吹き出した太陽風が、追い風となった高速太陽風の正体でした。この高速太陽風によってコロナ質量放出の膨張が妨げられていたことが、今回の磁気嵐巨大化の第一の要因です。

注3) あらかじめ渋滞していた低速太陽風とは、専門用語では「共回転相互作用領域」と呼ばれるもので、速度の異なる太陽風がぶつかっている状態が何ヵ月もキープされている状況で発生する、密度の非常に高い太陽風構造です。この共回転相互作用領域が、あとから来たコロナ質量放出に追突されて圧縮されたことが、今回の磁気嵐巨大化の第二の要因です。

注4) 「歩の突き捨て」とは静かな開戦の合図のこと、「飛車角銀桂の攻め」とは、それぞれの駒が最も良く働いている状態で攻撃を一点集中していくような理想的な局面ということ、「攻めを繋げて寄せきる」とは、駒の協力を連携させて終局へと一気に向かうこと、です。今回の磁気嵐では、複数の要因がすべて磁気嵐の規模を巨大化する方向へと絡みあっていました。

発表論文

掲載誌: Geophysical Research Letters
タイトル: Pileup accident hypothesis of magnetic storm on 2015 March 17
著者:
片岡 龍峰(国立極地研究所宙空圏研究グループ准教授/(併)総合研究大学院大学 准教授)
塩田 大幸(名古屋大学太陽地球環境研究所 特任助教)
エミリア・キルプア(ヘルシンキ大学)
桂華 邦裕(名古屋大学太陽地球環境研究所 特任助教)
URL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2015GL064816/full
DOI: 10.1002/2015GL064816
オンライン公開日: 平成27年6月25日

研究サポート

本研究の共著者は以下の研究費支援を受けています。
塩田: 科研費 若手研究B(26800255)
キルプア: Academy of Finland projects 1218152 and 1267087
桂華: 科研費 若手研究B(26800257)

図表

図1:3月18日未明に北海道名寄市で観測されたオーロラ。白い線のように映っているのは国際宇宙ステーション。(撮影:なよろ市立天文台「きたすばる」中島克仁氏。撮影日時2015年3月18日4:07:37~4:11:23、7枚比較明合成)

図2:磁気流体シミュレーションによる太陽風スピードの赤道断面図と、南北断面図。色はスピードを、矢印は磁場の向きを表している。右図で南のほうへ広く噴き出す高速風(赤い部分)の追い風を受けながら、地球(X=1.0AUの白い点)のまわりの低速風(青と水色の接触面)を押し潰していく様子。

図3:太陽風の「玉突き事故」(2015年3月17日、右)の模式図。玉突きにならなかった場合(2006年12月13日、左)と比べて、後方から高速風の追い風を受け、前方の渋滞した低速風を巻き込んでいる。

お問い合わせ先

国立極地研究所 広報室
TEL:042-512-0655

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