大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

[プレスリリース]1950~80年代の太陽活動の活発化がグリーンランドの寒冷化を引き起こしていた ~現在の太陽活動低下で、今後の氷床融解が進行する可能性を示唆~

2015年7月30日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所(所長:白石和行)の小端拓郎 元・特任助教(現・ベルン大学)を中心とする研究グループは、グリーンランドで掘削された氷床コアの分析から、1980年代から1990年代中盤まで見られたグリーンランドおよび亜寒帯北大西洋(図1に黄色の丸で示した部分)の特異的な低温が、1950年代から80年代にかけて起こった太陽活動の活発化(数十年から百年スケールの変動)によるものであることを突き止めました。また、太陽活動の変化がグリーンランドの気温へ影響を及ぼすまでに数十年の遅れがあることが明らかになりました。

太陽活動は1990年代以降に大きく低下しており、その影響が2025年頃以降にグリーンランドの気温上昇として顕在化してくる可能性があります。つまり、将来、人為起源の気温上昇と、太陽活動の影響が重なることでグリーンランドの気温が大きく上昇し、これまで考えられていたより早く氷床の融解が進む可能性があります。

研究の背景

グリーンランドには、海水準にして7m近くの氷(すべて解けると海水面が7m近く上昇する量の氷)が氷床として蓄えられています。将来、地球温暖化が進むと、この氷床の融解が加速し、世界の海水面が上昇する可能性があるため、グリーンランドの気温をコントロールするメカニズムを理解することが重要です。

グリーンランドを含めた北大西洋の数十年規模の気温変化の要因については、エアロゾルの影響や人為起源の温暖化が影響しているとの仮説が出されていました。しかし、過去150年近くの限られた観測データでは、数十年規模の気温変化を理解することは難しく、詳しいメカニズムについては理解が進んでいない状況でした。

これまで、小端研究員らは、グリーンランドの氷床コアを使って過去の気温変動を高精度で復元する手法を開発してきました(文献1~3)。その中で、グリーンランド・サミット(グリーンランド氷床の頂上)の氷床コア(Greenland Ice Sheet Project 2; GISP2)を使った過去4000年のグリーンランドの気温復元を行い、その変動の原因の解析を行いました。その変動の原因として地球軌道の変動や温室効果ガス、火山、太陽活動が示唆されました(文献4、5)。本研究では、グリーンランドのもうひとつの氷床コア(North Greenland Ice Core Project; NGRIP)を使って2100年前までの気温を復元し、その気温データを用いて気温変動のメカニズムの解明を試みました。

研究の内容

研究チームは、グリーンランド氷床コア(NGRIP)を使って過去2100年の気温復元を行い、以前の研究で復元を行ったグリーランド・サミット(GISP2)の気温とほぼ同様の変動を示していることを確認しました。

過去2000年の北半球平均気温と、氷床コアから復元したグリーンランドの気温を比較すると、グリーンランドは、太陽活動が活発な時期には、北半球全体の平均的傾向からずれて低温になり、太陽活動が不活発な時期には、北半球の平均的傾向よりも高温になることがわかりました(図2)。このことにより、1950~80年代の太陽活動の活発化が1980~90年代におけるグリーンランドおよび亜寒帯北大西洋の特異的な低温(図1)を説明できることがわかりました。

原因として、太陽活動の増加に伴って、海水の温度が通常より高くなること、降水量の増加などによる河川水流入(氷河や氷床の融解によるものも含む)の増加で北大西洋の海水の塩分が薄くなることで、北大西洋子午面循環が弱まり(注1)、大西洋の南から北への熱輸送が弱まったことにより、グリーンランドを含む亜寒帯北大西洋が寒冷化したことが考えられます。

また、太陽活動の変化がグリーンランドの気温へ影響を及ぼすまでに数十年の遅れがあることも明らかになりました(図13)。この傾向によると、1990年代以降太陽活動が弱くなってきている影響が、大西洋の南から北への熱輸送を強めることにより2025年頃以降にグリーンランドの気温上昇として顕在化してくる可能性があります(図3)。つまり、将来、人為起源の気温上昇と、太陽活動低下の影響が重なることでグリーンランドの気温が大きく上昇し、これまで考えられていたより早く氷床の融解が進む可能性があります。

この成果は、アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union; AGU)の発行する学術雑誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました。また、特に注目すべき研究成果としてAGUからプレスリリースが発行されました。

今後の展望

今後は、気候モデルを用いて地球全体の熱輸送プロセスの研究を行うとともに、完新世(約1万年継続している現在の間氷期)全体にわたって太陽活動がどのようにグリーンランドの気温変動に影響を与えていたかを調べます。

注1) 北大西洋子午面循環
亜寒帯北大西洋(図1の円で囲った部分)では、表層海水の密度が高い塩分と低い温度のため深層水より重くなり沈み込みが起こる。その表層水を補うため大西洋では南から北への海流が生じ、それと共に熱が南から北へと輸送される。しかし、太陽活動が活発になると、北大西洋に流れ込む河川水(氷河や氷床の融解によるものも含む)の増加と海水温の上昇により、亜寒帯北大西洋に達しても深層水よりも比重が低いままとなり、沈み込みが起こりにくくなることで、北大西洋子午面循環が弱くなると考えられる。また、太陽活動の変動が北大西洋域の大気循環に影響し、北大西洋の海流の変動を起こすことも考えられるが、その影響がここで見られる数十年規模の北大西洋子午面循環の変動とどのように関係するかはわかっていない。

発表論文

掲載誌: Geophysical Research Letters
タイトル:Modern solar maximum forced late twentieth century Greenland cooling
著者:
小端 拓郎(実験データ取得時:国立極地研究所 気水圏研究グループ特任助教、現在:ベルン大学研究員)
Jason E. Box (デンマーク・グリーンランド地質調査所)
Bo M. Vinther (コペンハーゲン大学)
東 久美子(国立極地研究所 気水圏研究グループ教授)
Thomas Blunier (コペンハーゲン大学)
James W. C. White (コロラド大学)
仲江川 敏之(気象庁気象研究所 主任研究官)
Camilla S. Andresen (デンマーク・グリーンランド地質調査所)
URL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2015GL064764/full
DOI: 10.1002/2015GL064764
論文原稿公開日: 平成27年6月25日
論文公開日: 平成27年7月21日
論文誌の発行元であるアメリカ地球物理学連合によるプレスリリース(英語):
http://news.agu.org/press-release/suns-activity-controls-greenland-temperatures/

文献

文献1: Kobashi, T., K. Kawamura, J. P. Severinghaus, J.-M. Barnola, T. Nakaegawa, B. M. Vinther, S. J. Johnsen, and J. E. Box (2011), High variability of Greenland surface temperature over the past 4000 years estimated from trapped air in an ice core, Geophys. Res. Lett., 38(L21501), doi:10.1029/2011GL049444.
文献2: Kobashi, T., J. P. Severinghaus, J. M. Barnola, K. Kawamura, T. Carter, and T. Nakaegawa (2010), Persistent multi-decadal Greenland temperature fluctuation through the last millennium, Climatic Change, 100, 733-756.
文献3: Kobashi, T., J. P. Severinghaus, and K. Kawamura (2008), Argon and nitrogen isotopes of trapped air in the GISP2 ice core during the Holocene epoch (0-11,600 B.P.): Methodology and implications for gas loss processes, Geochim. Cosmochim. Ac., 72, 4675-4686.
文献4: Kobashi, T., K. Goto-Azuma, J. E. Box, C.-C. Gao, and T. Nakaegawa (2013), Causes of Greenland temperature variability over the past 4000 years: Implications for Northern Hemispheric temperature change Clim. Past, 9, 2299-2317.
文献5: Kobashi, T., D. T. Shindell, K. Kodera, J. E. Box, T. Nakaegawa, and K. Kawamura (2013), On the origin of Greenland temperature anomalies over the past 800 years, Clim. Past, 9, 583-596.

研究サポート

本研究はJSPS科研費(23710020、25740007、22221002)の助成を受けて実施されました。

図表

図1:1975-95年の平均気温から1920-40年の平均気温を引いた数値の分布。グリーンランド付近が青く表示されていることから、低温化していることがわかる。赤い部分は、人為起源の温暖化によるものと考えられる。グレーの部分は連続的なデータが不足している部分。黄色の丸は、亜寒帯北大西洋を示す。

図2:過去2100年のグリーンランドの気温とその変動メカニズム。(A)グリーンランドの気温(青)と、北半球平均気温(赤)。(B)グリーンランド気温アノマリー(※)。赤(青)は、グリーンランドが北半球傾向より暖かい(寒い)時期。(C)太陽活動の変動。(D)復元したグリーランド気温と回帰モデル。(E)グリーンランドの気温を、北半球気温と太陽活動の変動の影響の見積もり。
(C)の太陽活動と、(B)のグリーンランドの気温アノマリーを比較すると、太陽活動の変動から数十年遅れでグリーンランドの気温アノマリーが変動していることがわかる。
※アノマリーとは、見積もられる値からどれくらい外れるかを示す。この場合は、北半球気温の平均的傾向からのグリーンランド気温変化の外れを示している。

図3:観測データのある年代(1840年)から2040年までのグリーンランド気温(復元値、観測値および予測値)。(A)復元されたグリーンランド気温と、グリーンランドの気温観測データ。(B)半球気温と太陽活動の変動の影響の見積もり。(C)グリーンランドの復元気温データと、回帰モデル。(D)太陽活動の変化を34年遅れで示したもの(黒)と、北大西洋の風応力カール場(赤。海が風に押されることによって生じる応力)。
(D)から、太陽活動が34年遅れで北大西洋上の大気循環に影響していることがわかる。

お問い合わせ先

国立極地研究所 広報室
TEL:042-512-0655

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