大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

[プレスリリース]脈動オーロラの衛星・地上同時観測に成功 〜明滅を繰り返すしくみの解明〜

2015年9月7日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所(所長:白石和行)の佐藤夏雄 名誉教授・特任教授、門倉昭 教授、田中良昌 特任准教授らは、脈動オーロラが明滅を起こす原因が電場の振動であることを、地上と衛星の同時観測により明らかにしました。

脈動オーロラは10秒前後の周期で明滅を繰り返すオーロラであり、オーロラ爆発(注1)の直後にはいつでも現れる普遍的な現象です。しかし、この明滅がどうして起こるのかは謎のままでした。また、脈動オーロラの発生機構を理解するためには、全天カメラによる地上からの観測と、衛星による磁気圏・電離圏(注2)での電場、磁場などの同時観測が必要だとされていました。しかし、とくに発生頻度の少ないオメガバンド型脈動オーロラ(図1)については、衛星・地上同時観測のデータを得ることができていませんでした。

2011年3月1日、幸運にも、観測衛星がオメガバンド型脈動オーロラの領域内を通過し、衛星・地上同時観測の非常に研究価値の高いデータを取得しました。佐藤名誉教授らは、衛星の観測データを詳しく比較し、直流電場と静電波動(注3)が、他の成分よりも大きく周期的な変動をしており、その周期は地上で観測されたオーロラの脈動の周期と同じであったことを見出しました。

これにより、直流電場と静電波動が脈動オーロラの強度変化に直接関与していることが、観測事実から初めて明らかになりました。この成果はまた、磁気圏に過剰に流入した高エネルギー電子が電離圏に降り注ぐ過程の研究や、磁気圏と電離圏の相互作用の研究など、太陽と地球の関係を理解するための鍵となる事象の研究にも役立つと期待されます。

なお、この研究は、文部科学省の大学間連携事業「超高層大気長期変動の全球地上ネットワーク観測・研究」(IUGONET:Inter-university Upper atmosphere Global Observation NETwork)で整備されたデータベースと解析ツールを主に使用した研究成果です。

研究の背景

オーロラは、太陽から運ばれてくる荷電粒子が地球の磁場で極域に誘導され、極域の超高層大気と衝突することにより光る現象です。オーロラはその形状によって、形のはっきりしたディスクリート(離散)オーロラと、形がはっきりしないディフューズ(拡散)オーロラに大別できます。ぼんやりしたディフューズオーロラのなかには、オーロラの明るさが準周期的に明滅を繰り返す脈動オーロラ(パルセイティングオーロラ)と呼ばれるタイプのオーロラがあります。脈動オーロラは真夜中から朝方に出現し、10秒前後の周期で明滅を繰り返します。さらに、その微細構造が1秒間に数回以上変化している場合も多くあります(文献1〜3)。

脈動オーロラはオーロラ爆発の直後に必ず出現する普遍的な現象であることから、オーロラ爆発に伴い磁気圏に過剰に流入した高エネルギーの電子が、脈動的に降下するために発生すると考えられています。しかし、なぜ「脈動的に」降下が起こるのかは、いくつかの仮説が提唱されているものの(文献1、4〜6)、本質解明につながる観測事実は得られておらず、謎のままでした。また、変化を起こす領域や、脈動オーロラに特有な形状、動きの原因も分かっていませんでした。

この脈動オーロラの発生機構を理解するためには、地上での全天カメラによるオーロラ観測と、衛星による磁気圏・電離圏の電場、磁場や粒子、波動などの同時観測が必要だとされていました。しかし、観測衛星は地球を周回しているため、必ずしもオーロラの発生時にその上空にいるとは限らず、さらに、地上の天候や月の影響などの様々な要因により、衛星・地上同時観測のデータを得ることができていませんでした。

2007年に打ち上げられたテミス(THEMIS:Time History of Events and Macroscale Interactions during Substorms)衛星は、テミス-A〜-Eの5基からなり、地球の磁気圏で電場や磁場などを測定しています(注4)。同時に、北米大陸の約20箇所に配備された全天カメラでの観測が行われており、地上と衛星の同時観測に挑戦しています。本研究は、このテミスプロジェクトで得られた観測データを用いて実施されました。

研究の内容

佐藤名誉教授らは2011年3月1日の早朝にカナダ上空で発生したオメガバンド型脈動オーロラについて、カナダのサニキルアク観測所の全天カメラでの観測、および、テミス-D、-E衛星との同時観測データを比較しました。テミス-D、-E衛星は地球半径の約8倍の高度で、オーロラを通る磁力線に沿って、磁気圏の赤道面付近に位置していました。発生頻度の少ないオメガバンド型脈動オーロラの領域内を衛星が通過するのは極めて希なことであり、この貴重な同時観測データからオーロラ内のプラズマ波動、電子や陽子などの粒子、そして電磁場、などの振る舞いを世界に先駆けて得ることができました。加えて、地上からの観測では、オメガバンド型オーロラの成長の初期から、最大期、そして減衰期までの一連の様子を全天カメラ画像から得ることができました(図12動画12)。脈動オーロラのそれぞれのパッチ(オーロラを構成する小領域の構造)は、9〜12秒の周期で極方向に動きながら明滅を繰り返していました(図34)。

テミス-D衛星のデータから、衛星がオメガバンド型脈動オーロラの領域を横切る際、直流電場が、地上から観測した脈動オーロラと同じ周期で変化していることが分かりました。さらに、30ヘルツ以下の低周波数の静電電波の強度が電場の変調周期と同じように変化していることも明らかになりました(図5)。

これらのことから、直流電場と静電電波が、オメガバンド型脈動オーロラの発生に重要な役割を演じていることが観測事実として明らかになりました。これは、2000年9月30日にFAST(Fast Auroral Snapshot Explorer)衛星と昭和基地との同時観測を実施し、その結果から提案した「磁力線に沿った電場変調が脈動オーロラの発生に重要な役割を演じている」という仮説(文献1、6)を実証したものと言えます。

今後の展望

今回の成果は、脈動オーロラの発生機構の解明だけでなく、磁気圏に過剰に流入した高エネルギーの電子が電離圏内に降り込む過程の研究や、磁気圏と電離圏との相互作用の研究にも役立つものと思われます。また、本研究は、テミスプロジェクト計画の目的を達成できた一つの成果とも言えます。

今後は、電場と低周波静電波の変化が一般的に起こっているのかを他の脈動オーロラについても確かめる必要があります。特に、パッチ状や東西バンド状などのオメガ型以外のタイプの脈動オーロラについても、衛星と地上との同時観測データを用いて確認する必要があります。そうすることで、いままで謎であった脈動オーロラが明滅する機構や形状、動きなどの発生機構の解明が期待されます。

注1
オーロラ爆発: 地球の磁気圏内に蓄積された太陽風エネルギーが爆発的に解放される現象は、極域の地上からはオーロラ爆発現象となって現れる。オーロラの明るさが急激に増加し、形状が激しく変化する現象である。

注2
磁気圏: 地球には磁石があるが、太陽風により地球の磁場が押し込められた領域全体を地球「磁気圏」と呼んでいる。磁気圏の大きさは非常に大きく、地球の中心から太陽方向までは地球半径の11倍程度であり、反対の夜側に延びた尾の長さは、少なくとも地球半径の数千倍まで延びていると考えられている。
電離圏: 地球の大気は高さとともにその密度が指数関数的に下がる。高度が80km以上の上空では太陽紫外線により大気中の原子や分子が電離(電子と陽イオンに分離すること)しており、電離圏と呼ばれている。オーロラは電離圏内の高度90kmから500kmで光る現象である。脈動オーロラを起こす電子のエネルギーは高いことから、高度が90kmから110kmの低い高度で光っている。

注3
静電波動: プラズマ波動の一種で、電場成分が卓越した波動を静電波動と呼ぶ。一方、脈動オーロラにも関連したプラズマ波動にコーラス波動と呼ばれる波動があり、磁場と電場の両成分が卓越した電磁波動である。

注4
5基のテミス衛星のうち、テミス-Bと-Cは、2010年よりARTEMIS探査機として月周回軌道に投入されている。

文献

文献1: Sato, N., D. M. Wright, Y. Ebihara, M. Sato, Y. Murata, H. Doi, T. Saemundsson, S. E. Milan, M. Lester, and C. W. Carlson (2002), Direct comparison of pulsating aurora observed simultaneously by the FAST satellite and from the ground at Syowa, Geophys. Res. Lett., 29(21), 2041, doi:10.1029/2002GL015615.
文献2: Kataoka, R., Y. Miyoshi, D. Hampton, T. Ishii, and H. Kozako (2012), Pulsating aurora beyond the ultra-low frequency range, J. Geophys. Res., 117, A08336, doi:10.1029/2012JA017987.
文献3: Nishiyama, T., T. Sakanoi, Y. Miyoshi, D. L. Hampton, Y. Katoh, R. Kataoka, and S. Okano (2014), Multiscale temporal variations of pulsating auroras: On-off pulsation and a few Hz modulation, J. Geophys. Res. Space Physics, 119, 3514?3527, doi:10.1002/2014JA019818.
文献4: Coroniti, F. V., and C. F. Kennel (1970), Electron precipitation pulsations, J. Geophys. Res., 75(7), 1279?1289.
文献5: Nishimura, Y., et al. (2010), Identifying the driver of pulsating aurora, Science, 330, 81?84, doi:10.1126/science.1193186.
文献6: Sato, N., D.M. Wright, C. W. Carlson, Y. Ebihara, M. Sato, T. Saemundsson, S. E. Milan, and M. Lester (2004), Generation region of pulsating aurora obtained simultaneously by the FAST satellite and a Syowa-Iceland conjugate pair of observatories, J. Geophys. Res., 109, A10201, doi:10.1029/2004JA010419.

発表論文

掲載誌: Journal of Geophysical Research: Space Physics
タイトル: Omega band pulsating auroras observed onboard THEMIS spacecraft and on the ground
著者:
佐藤夏雄(国立極地研究所 名誉教授・特任教授)
門倉 昭(国立極地研究所 宙空圏研究グループ 教授)
田中良昌(国立極地研究所 宙空圏研究グループ 特任准教授)
西山尚典(国立極地研究所 宙空圏研究グループ 助教)
堀 智昭 (名古屋大学 太陽地球環境研究所 特任准教授)
行松 彰(国立極地研究所 宙空圏研究グループ 准教授)
論文掲載日:2015年8月24日(初出:2015年7月21日)
URL: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2015JA021382/full
DOI: 10.1002/2015JA021382

研究サポート

本研究は文部科学省の大学間連携研究経費「超高層大気長期変動の全球地上ネットワーク観測・研究」(IUGONET:Inter-university Upper atmosphere Global Observation NETwork)プロジェクトにより得られた成果です。また、JSPS科研費の基盤研究A(26247082, 15H02628) 及び基盤B (25287129)の助成も受けて実施されました。

図1:2011年3月1日にカナダ・サニキルアク観測所で撮影されたオメガバンド型脈動オーロラ。形がギリシア文字のオメガ(Ω)に似ているためにそう呼ばれている。上段の3枚の写真はオメガバンドオーロラの生成期、拡大・最大期、減衰期での典型を示す。下段の写真はおよそ4分間隔毎のスナップショット写真であり、弱い「種」から次第に成長してゆき、形状が拡大して最大期を迎え、やがては衰退してゆく時間変動の様子がわかる。最大期では南北方向に約500キロメートル、東西方向に約200キロメートルの大きさとなった。

図2:生成期におけるオーロラ画像をおよそ2分間隔で示した。西側に弱い「種」が現れ次第に高緯度側に形状を成長させながら東側に移動してゆく様子が良く解る。この成長に伴って、オーロラの右側に暗いオーロラが出現している。この暗い部分には強い下向きの電流が流れていると考えられている.また、オメガバンドオーロラの領域に上向きの電流が流れており、両者がペアーとなってオメガバンドオーロラが成長してゆくものと思われる。

図3:上段はオーロラ・ケオグラムで、全天カメラ画像の天頂を横切ってスリットをかけた方向におけるオーロラの輝度変化(右側に凡例)を示す。ライン番号(縦軸・左)の125が天頂で、0が南側の地平線、250が北側の地平線である。オーロラ・ケオグラムは特定の方向のオーロラ強度の時間的・空間的な変動を直感的に理解するのに役立つため、オーロラのダイナミカルな特性を表すために用いることが多い。
下段はそれぞれのライン番号におけるオーロラ強度を示す。活発な脈動オーロラがほとんどの時間帯で観測されていることが分かる。水色の帯は、図4のグラフ範囲。

図4:図3の時間スケールを引き延ばし、7時33分00秒〜7時34分20秒の1分20秒間(図3の水色で表示した部分)のみを表示した。オーロラのON-OFFの周期がおよそ9〜12秒であり、極方向に繰り返し動いていることが分かる。

図5:テミス-D衛星とテミス-E衛星で観測された直流電場の3成分の強度変動と静電波動の周波数-時間スペクトル図。テミス-D衛星がオメガバンド領域を通過した時間帯を実線の四角で、また、テミス-E衛星がオメガバンド領域を通過した時間帯を点線の四角で示した。電場の強度変化から、Z成分の振動が他の成分よりも大きいことと、その変動の周期が地上から観測された脈動オーロラの周期と一致することが分かる。また、下段に示した静電波動にも30ヘルツ以下の低周波数の成分の強度が同様の周期的な振動をしていることが見つかった。このような特性はテミス-E衛星にも観測されている。

補足資料

動画1:オメガバンド型脈動オーロラの生成から消滅まで。(世界時間2011年3月1日7時10分〜50分、カナダ・サニキルアク観測所)

動画2:動画1のうち、拡大・最大期のみを示す。

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