大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

[プレスリリース]「宇宙のさえずり」が脈動オーロラの明滅と瞬きを引き起こす
~小型科学衛星「れいめい」の観測とシミュレーションの結果から

2015年9月28日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立大学法人名古屋大学
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所

オーロラは、宇宙から降ってくる電子が、高度100km付近の超高層大気と衝突することによって起こる現象です。オーロラには、様々な形態のものがありますが、脈動オーロラ(注1)と呼ばれるオーロラは、ぼんやりとした形状で、図1のように数秒間ごとに点滅するという不思議な性質があります(主脈動)。また、 主脈動が光っている間には、1秒間に数回の速さで瞬く(明るさが変化する)ことも知られています(内部変調)。この明るさが変化するメカニズムについてはいろいろな説がだされているものの、主脈動と内部変調を統一的に説明できるアイデアはなく、どのような仕組みでオーロラの明滅や瞬きが起こるのかわかっていませんでした。

名古屋大学太陽地球環境研究所の三好由純 准教授、および、国立極地研究所(所長:白石和行)の西山尚典 助教、片岡龍峰 准教授らのグループは、世界で最も短い時間分解能でオーロラを光らせる電子を観測できる 小型高機能科学衛星「れいめい」(注2)のデータの詳細な分析と、コンピューターシミュレーションを用いた研究によって、脈動するオーロラの明滅と瞬きが、コーラス(注3)と呼ばれる電磁波と、電子との相互作用によって引き起こされていることを明らかにしました。このコーラスは、音声に変換すると小鳥のような音として聞こえることから「宇宙のさえずり」とも呼ばれています。本研究によって、宇宙のさえずりが、オーロラの明滅や瞬きを作っていることが初めて実証されました。このコーラスの発生機構は、 2016年度に打ち上げられるジオスペース探査衛星(ERG)(注4)によって解明されることが期待されており、本研究の成果は、ERG衛星の科学へとつながる意義も持っています。

この成果は、米国地球物理学連合の発行する論文誌「ジャーナルオブジオフィジカルリサーチ」に、9月29日に掲載されます。

背景

オーロラは、宇宙から降ってくる電子が、高度100km付近の超高層大気と衝突することによって起こる現象です。オーロラには、様々な形態のものがありますが、脈動オーロラと呼ばれるオーロラは、ぼんやりとした形状で、図1のように数秒間ごとに点滅するという不思議な性質があります(主脈動)。また、その脈動オーロラが光っている間には、1秒間に数回の速さで瞬く(明るさが変化する)ことも知られています(内部変調)。主脈動の起源については理解が進んできているものの(文献1)、主脈動と内部変調を統一的に説明できるアイデアはなく、どのような仕組みでオーロラの明滅や瞬きが起こるのかわかっていませんでした。

文献1: Nishimura et al., Identifying the driver of pulsating aurora, Science, 330, 81-84, 2010.

研究の内容

名古屋大学太陽地球環境研究所の三好由純准教授、国立極地研究所の西山尚典助教、片岡龍峰准教授、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の浅村和史助教らの研究グループは、「れいめい」のデータ解析とコンピューターシミュレーションによって、この脈動するオーロラの主脈動と内部変調のメカニズムを明らかにしました。「れいめい」は、世界で最も短い時間分解能で電子を計測することができます。さらに、世界で唯一、オーロラと、そのオーロラを輝かせる電子の同時観測が可能な科学衛星です。

本研究では、この「れいめい」の観測データを詳細に分析し、脈動オーロラを光らせている電子に速いエネルギー変化を示す構造があることを発見しました。この構造は、コーラスと呼ばれる、宇宙で自然に発生している電磁波との相互作用によるものと考えられました。さらに、研究グループが開発したコンピューターシミュレーションと観測データの比較を行った結果(図3)、コーラスが、脈動オーロラを引き起こす電子を変調させることで、明滅や瞬きを作りだしている統一的な仕組みを明らかにしました(図4)。

成果の意義

コーラスという電磁波は、音声に変換すると小鳥の声のように聞こえることから、宇宙のさえずりとも呼ばれます。本研究では、この宇宙のさえずりがオーロラの明滅や瞬きを引き起こしていることを解明したものです。コーラスが発生するのは、高度数万km上空の磁気圏赤道面と呼ばれる宇宙空間であると考えられています。2016年度に打ち上げられる予定のJAXAのジオスペース探査衛星(ERG)には、コーラスが発生する様子を世界で初めて直接観測するための新型の装置が搭載され、磁気圏赤道面での観測が行われます。この観測から、脈動オーロラの起源である宇宙のさえずりの性質が解明されることが期待されています。

注1 脈動オーロラ
オーロラの一形態。ぼんやりとしたパッチ的な形状で、数秒間に1回明滅している。また、光っている間に、1秒間に数回瞬く(明るさが変化する)という性質がある(図1)。

注2 小型高機能科学衛星「れいめい」
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所が2005年に打ち上げた小型科学衛星(62x62x72cm, 72kg)。世界で唯一、オーロラの画像とオーロラを光らせる電子の同時観測が可能な衛星。また、世界で最も高い時間分解能で電子を計測することが可能(図2)。

注3 コーラス
宇宙空間に存在する電磁波の一種。周波数が数kHzの可聴帯の電磁波で、音声に変換すると、“小鳥のさえずり”のように聞こえる。

注4 ジオスペース探査衛星(ERG)
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所が進めている人工衛星計画。2016年度にイプシロンロケットで打ち上げ予定。放射線帯の電子の数が変化する仕組みの詳細が解明されることが期待されている。

発表論文

題目: Relation between energy spectra of pulsating aurora electrons and frequency spectra of whistler-mode chorus waves
著者:三好由純(名古屋大学)、齋藤慎司(名古屋大学)、関華奈子(名古屋大学)、西山尚典(国立極地研究所)、片岡龍峰(国立極地研究所)、浅村和史(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、加藤雄人(東北大学)、海老原祐輔(京都大学)、坂野井健(東北大学)、平原聖文(名古屋大学)、大山伸一郎(名古屋大学)、栗田怜(名古屋大学)、O. Santolik(チェコ科学アカデミー)
掲載誌:米国地球物理学連合速報誌:Journal of Geophysical Research(オンライン)に2015年9月29日に掲載。

研究チーム

三好 由純​名 古屋大学太陽地球環境研究所 准教授
齋藤 慎司 ​名古屋大学理学部 特任准教授
関 華奈子 ​名古屋大学太陽地球環境研究所 准教授
西山 尚典​ 国立極地研究所 助教
片岡 龍峰 ​国立極地研究所 准教授
浅村 和史​ 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 助教
加藤 雄人​ 東北大学大学院理学研究科 准教授
海老原 祐輔 ​京都大学生存圏研究所 准教授
坂野井 健​ 東北大学大学院理学研究科 准教授
平原 聖文​ 名古屋大学太陽地球環境研究所 教授
大山 伸一郎 ​名古屋大学太陽地球環境研究所 講師
栗田 玲​ 名古屋大学太陽地球環境研究所 日本学術振興会特別研究員(PD)
O. Santolik チェコ科学アカデミー(チェコ共和国)部門長

研究サポート

本研究は、主に以下の科学研究費補助金の助成を受けています。
15H05815: 新学術領域研究「地球電磁気擾乱現象の変動と予測」
15H05747: 基盤研究S「極限時間分解能観測によるオーロラ最高速変動現象の解明」



図1:脈動オーロラ:数秒に1回、明滅するオーロラ。オーロラが明るく光っている時間に、さらに1秒間に数回の瞬き(明るさの変化)があることが知られている。上は、2007年10月18日に「れいめい」によって観測された脈動オーロラ 。(左) 11:35:21秒、(右) 11:35:24秒。

図2:「れいめい」による観測の模式図。高度620kmから、高度100km付近で光っているオーロラを連続観測するとともに、そのオーロラを光らせている電子を40ミリ秒ごとに観測する。

図3:「れいめい」衛星が観測した明滅オーロラを起こす電子の分布と、コンピューターシミュレーション。脈動オーロラの電子の性質を、コンピューターシミュレーションで再現することに成功した。

図4:本研究によって明らかになった、脈動オーロラの明滅と瞬きの仕組み

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国立極地研究所 広報室
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