大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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[プレスリリース]南極のクマムシ、30年を超える凍結保存から目覚め、繁殖に成功

2016年1月14日

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国立極地研究所(所長:白石和行)の辻本 惠 特任研究員を中心とする研究グループは、南極昭和基地周辺で1983年11月に採取され、30年と半年の間凍結保存されていたコケ試料からクマムシを取り出し、その蘇生直後の回復と繁殖(注1)の様子を記録することに成功しました。クリプトビオシス(注2)能力を持ち、「最強動物」とも呼ばれるクマムシの、これまでの最長生存記録は乾眠(注3)状態の室温保存で9年でしたが、今回の研究ではその記録を大幅に更新しました。また、クリプトビオシス能力で知られる動物の長期生存記録の中で、30年以上の保存からの蘇生だけではなく、蘇生直後の回復状態やその後の繁殖までを詳細に報告したのは本研究が初めてになります。

本研究によるクマムシのクリプトビオシス状態における長期生存期間の大幅な更新は、細胞やDNAの酸化的障害が凍結保存によって最小限に抑えられた結果と考えられます。しかしながら、蘇生後に通常状態に戻るまでの回復や、蘇生直後に産卵した卵の孵化に長期間を要したこと、完全に回復せずに死亡した個体もいたことから、30年以上にもわたる長期保存によって損傷が蓄積されていたものと考えられます。本研究は、クリプトビオシス動物の長期生存メカニズムの解明に貢献することが期待されます。

研究の背景

クリプトビオシス能力を持つ微小動物については、センチュウの乾眠状態による長期生存の古い報告がありました。その最長記録は39年間で、乾燥保存から蘇生したと1946年に報告されています(文献1)。同様に、クリプトビオシス能力で知られるワムシやクマムシの乾眠状態での最長生存記録は9年でした(文献2)。凍結保存による長期生存記録は、南極のセンチュウで25.5年の報告があり、蘇生後に繁殖して個体を増やすこともできました(文献3)。他にも、南極のセンチュウ、ワムシ、クマムシが−80℃で6年間保存されていた後に蘇生したという報告(文献4)や、本研究と同じ南極のクマムシAcutuncus antarcticusという種類が−70℃で5年間保存されていた後に蘇生して、その後繁殖を行ったという報告(文献5)があります。

このように、クリプトビオシス能力を持つ微小動物の長期生存については、これまでにも報告があったものの、蘇生後の回復状態や繁殖状況を詳細に調べた研究はほとんどありませんでした。そこで本研究グループは、クリプトビオシス動物の驚異的な長期生存メカニズムの解明に貢献することを目的に、30年以上凍結保存されていたコケ試料を用いて、そこからクマムシを抽出し、蘇生直後の回復状態と繁殖状況を調べました。

研究の内容

本研究に用いたコケ試料は、第24次日本南極地域観測隊越冬活動中の1983年11月にコケの分類学研究用の試料として採取され、−20℃で保存されていました。2014年5月にコケ試料を解凍して給水し、蘇生した2個体のクマムシ(SB-1、SB-2)と、クマムシの卵1つ(SB-3)を取り出して培養を行いました。SB-2は十分に回復せずに死亡しましたが、SB-1と孵化したSB-3はその後、複数の繁殖を行いました。SB-1は蘇生直後にはほとんど動かず、歩き回って餌を食べるなどの通常状態に戻るまでには2週間かかりました。また、SB-1が1回目に産んだ卵が孵化するまでには19日と、2回目以降に産んだ卵が孵化にかかった日数に比べて2倍近くの期間を要しました(1回目の産卵を含めた全体の中央値は9.5日)。繁殖に成功したSB-1とSB-3は、各1個体から殖えた2つの培養系統を確立し、それらの形態的特徴から、南極に広く分布する固有種のAcutuncus antarcticusと同定されました(写真1)。

まとめと今後の展望

本研究により、30年以上にわたるクリプトビオシス状態での長期保存直後にも、動物が繁殖を行えることを明らかにすることができました。また、今回蘇生したクマムシの1個体では、蘇生直後の回復状態や繁殖状況から、長期保存による損傷が蓄積していた可能性が示唆されました。一方で、蘇生した卵から孵化したクマムシでは、動きや繁殖状況からは明らかな損傷は観察されませんでした。

今後は本研究をより発展させ、長期保存後のDNA損傷の状況や、回復期における修復機構を調べることで、クリプトビオシス動物の長期生存メカニズムの解明への貢献が期待されます。

注1 繁殖
クマムシの繁殖方法として、両性生殖(オスとメスによる繁殖)、雌雄同体、または単為生殖(メスのみによる繁殖)が知られている。本研究のAcutuncus antarcticusは単為生殖によって殖える。

注2 クリプトビオシス
「隠れた生命」の意味で、蘇生可能な無代謝状態を示す用語。1959年に英国のケイリンによって提唱された。

注3 乾眠
極度の乾燥によって誘発されるクリプトビオシス状態。

発表論文

掲載誌: Cryobiology
タイトル: Recovery and reproduction of an Antarctic tardigrade retrieved from a moss sample frozen for over 30 years
著者:
辻本 惠(国立極地研究所 生物圏研究グループ 特任研究員)
伊村 智(国立極地研究所 生物圏研究グループ 教授)
神田 啓史(国立極地研究所 名誉教授)
URL:http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0011224015300134
DOI:10.1016/j.cryobiol.2015.12.003
論文公開日: 現地時間 平成27年12月25日(オンライン版)

文献

文献1: Steiner & Albin (1946) J. Wash. Acad. Sci. 36: 97-99.
文献2: Guidetti & Jönsson (2002) J. Zool. 257: 181-187.
文献3: Kagoshima et al. (2012) CryoLetters 33: 280-288.
文献4: Newsham et al. (2006) CryoLetters 27: 269-280.
文献5: Tsujimoto et al. (2014) Polar Biol. 37: 1361-1367.

研究サポート

本研究はJSPS科研費(挑戦的萌芽研究:26650168、及び基盤研究A:23247012)の助成を受けて実施されました。

図表

写真1: 蘇生した南極クマムシAcutuncus antarcticusのSB-3系統の個体。腹部の緑色は餌のクロレラ。右の線は0.1ミリメートル。 Tsujimoto M. et al. Cryobiology, 2015

動画1:培養したSB-3系統。横から見たところ。

動画2:培養したSB-3系統。前から見たところ。

参考資料

蘇生したSB-1の映像(スケールバーがない映像については、キャプションにクマムシの体長を記載しました)

動画3: 24時間給水後の1日目。後ろ肢のみ動かしている。

動画4: 24時間給水後の6日目。歩こうともがいている。この日の体長は202.9マイクロメートル。

動画5: 24時間給水後の13日目。えさのクロレラを食べ始める。この日の体長は247.8マイクロメートル。

動画6: 24時間給水後の22日目。蘇生後初めての卵を抱えている。この日の体長297.1マイクロメートル。

動画7: 24時間給水後の29日目。通常と思われる状態に回復している。

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