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グリーンランドで海洋の潮汐によって発生する氷河地震を発見

2016年3月17日

北海道大学
国立極地研究所

研究成果のポイント
  • グリーンランドから海洋へ流入する氷河で、海との境界から250メートルまで近寄って氷河地震を観測。
  • 海洋の潮汐と連動して発生する氷河地震をグリーンランドで初めて発見。
  • 氷河の流動が潮汐によって変化し、氷の破壊を促進して氷河地震が発生することを確認。

グリーンランド氷床は地球上の氷河の約10パーセントを占めます。近年、そのグリーンランド氷床が急速に縮小しており、海水準の上昇や、海洋循環、生態系への影響が懸念されています。そこで、氷床縮小のメカニズムの解明が急務となっています。北海道大学低温科学研究所、同大北極域研究センター、国立極地研究所、スイス連邦工科大学、フィレンツェ大学の共同研究グループは、グリーンランド北西部のボードイン氷河が海に流入する末端部で観測を行いました。グリーンランド氷床は海の近くで急速に氷が失われており、その原因を明らかにすることが本研究の目的です。観測が非常に困難な氷河と海洋の境界で過去に例のない集中的な観測を実施した結果、氷河末端部で発生する氷河地震の数が潮汐と連動しており、その原因が潮汐に起因する氷河の流動変化であることを見出しました(図1)。この発見は、わずかな海水面の変化が氷河に大きな影響を与えることを示し、氷床変動に重要な役割を果たす氷床・海洋相互作用の理解を推し進めるものです。

この研究成果は、2016年3月8日(水)付で米国の科学誌『Geophysical Research Letters』にオンライン公開されました。
なお、本研究は、GRENE北極気候変動研究事業、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)、及びスイス科学財団の助成を受けて実施されました。

背景

北極圏に位置するグリーンランドは、その面積の80パーセントが平均厚さ1,700メートルの氷で覆われています。この氷体はグリーンランド氷床と呼ばれ、地球に存在する氷河・氷床の10パーセントにあたる氷を蓄えています。近年この氷床が急激に縮小して融解水の流出が増え、海水準の上昇に寄与するほか、海洋循環や海洋生態系など、地球規模の環境への影響が懸念されています。融解や氷山流出の増加が氷損失の原因とされていますが、沿岸部での氷の損失は特に激しく、海洋性カービング氷河(海に流入する氷河、図1a)と海洋の相互作用が重要な役割を果たしていると考えられています。しかしながら、氷が崩壊する氷河の末端部や、氷山と海氷に覆われる海の観測は非常に困難で、なぜ氷河が急速に氷を失っているのか理解は進んでいません。そこで、世界各地で氷河観測の経験を持つ北海道大学を中心とした研究グループは、グリーンランド北西部のボードイン氷河の末端部で、過去に例のないほど氷河の末端に近づいて観測を行いました。本研究は、文部科学省の補助事業であるGRENE北極気候変動研究事業及び北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の助成を受け、北海道大学が中心となってグリーンランド北西部で実施する総合的な研究の一部です。

研究手法

グリーンランド北西部、北緯77度に位置するカナック村周辺は、過去に冒険家の植村直巳さんも滞在した日本にゆかりのある地域です。本研究グループは、この村を拠点として過去5年間にわたって総合的な研究活動を行ってきました。ボードイン氷河は村から20キロメートル北に位置するカービング氷河で、幅3キロメートルの氷河末端から年間500メートルの速さで氷山が海に排出しています(図2)。これまでの研究によって、2008年以降の急激な氷河後退が明らかになっています。本研究では、氷河と海洋の境界(カービング端)から250メートルまで近づいて、地震波観測、GPSによる流動測定、潮汐や気象観測など集中的な観測活動を行いました(図23)。カービング氷河の末端付近で起きる氷河地震は、氷河の流動や変動、底面状態を示すシグナルとして近年注目を集めています。しかしながら、カービング端にここまで近づいて地震計を設置する試みは、過去に例がありませんでした。

研究成果

今回の観測による重要な発見は以下の3点です。
(1) 氷河の動きに起因する地震(氷河地震)の頻度が半日周期で変動していること(図4a)。
(2) 氷河地震が引き潮に連動して増加すること(図4a)。
(3) 潮汐によって氷河の流動が変化し、氷河地震の原因である氷の破壊を促進していること(図1a)。

今回、地震波の発生源である氷河末端に地震計を設置したことにより、地震発生頻度の詳細が明らかになりました。また、海洋のごく近くで観測したことによって、潮汐と氷河地震に相関があることがグリーンランドで初めて見出されました。さらに、氷の動きを高精度で測定した結果、氷河の流動が引き潮と同時に加速することを確認しました。すなわち、氷河の加速によって生じる氷の破壊が氷河地震の原因であり、潮汐が氷河の流動を介して間接的に氷河地震の頻度をコントロールしていることが示されました。

ボードイン氷河付近では、潮汐による海水面変動は1~2メートル程度です。このように小さな海水面変動が氷河の流動や氷河地震をコントロールしている事実は、海洋が氷河に与えうる影響の大きさを示唆しています。すなわち、海洋や氷河のわずかな変化が海と氷の微妙なバランスを崩し、より大きな変動を駆動する可能性があります。そのような氷河と海洋の相互作用の重要性が認識されつつありますが、観測が困難でデータが不足しています。ボードイン氷河での観測データによって、海洋が氷河に大きな影響を与えていることが直接的に確認され、氷河地震の観測が氷河と海洋の相互作用の理解につながる可能性が示されました。

今後への期待

本研究によって、カービング氷河の末端で発生する氷河地震が、潮汐や氷河の流動と密接に関係していることが明らかになりました。この知見は、グリーンランド氷床はもちろん、世界最大の氷を抱える南極氷床や、近年大きな変動を示しているパタゴニアのカービング氷河の変動理解に役立ちます。また、直接観測が難しい氷河と海洋との境界プロセスを、地震波測定という確立された技術で観測するための基礎データになります。さらには、山岳地域での氷河崩壊や地滑りなど、予測が困難な災害をモニタリングする技術にもつながると考えられます。今後は、ボードイン氷河での研究を継続するとともに、得られた知見を南極やパタゴニアでの氷河・氷床研究に展開する計画です。

発表論文

研究論文名:Tide-modulated ice flow variations drive seismicity near the calving front of Bowdoin Glacier, Greenland(潮汐に起因する氷流動変化が、グリーンランド・ボードイン氷河のカービング端で発生する氷河地震を駆動する)
著者:Evgeny Podolskiy (北海道大学)、杉山 慎 (北海道大学)、Martin Funk(スイス連邦工科大学)、 Riccardo Genco(フィレンツェ大学), 津滝 俊(国立極地研究所/北海道大学)、Fabian Walter(スイス連邦工科大学)、 箕輪昌紘 (北海道大学)、 Maurizio Ripepe(フィレンツェ大学)
公表雑誌: Geophysical Research Letters (米国地球物理学会レター誌) オンライン出版
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2016GL067743/abstract
公表日:米国東部時間 2016年3月8日(水)

図1. (a) 海に流れ込むカービング氷河の末端部を示す模式図。(b) 本研究で明らかになったボードイン氷河末端部での氷河地震発生メカニズム。引き潮で海水位が下がると氷河が加速し、引っ張られた氷の破壊によって氷河地震が増加する。

図2. (a) グリーンランドにおける研究対象地(カナック近郊)。(b) ボードイン氷河が海に流入する末端付近の人工衛星写真。(c) 氷河末端部に設置した地震計の位置。

図3. (左)ボードイン氷河のカービング端(写真中央上の赤い点はヘリコプター)。海水面より上にある氷の厚さは約30メートル。海水面の下には厚さ200メートル以上の氷が隠れている。(右)カービング端すぐ近くに形成されたクレバス。氷河の流動によってこのようなクレバスが生まれ、その際に氷が破壊することで氷河地震が発生する。

図4. (a) 観測された氷河地震の頻度。青い線が示すように、1日に2回、地震の頻度が増加する。(b) 氷河地震の頻度と潮汐による海水位の比較。水位(黒線)が下がるときに氷河地震の頻度(青線)が上昇する。

お問い合わせ先

国立極地研究所 広報室
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