大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

横に傾いて泳ぐ奇妙なサメを発見し、理由を解明

2016年7月29日

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

国立極地研究所(所長:白石和行)の渡辺佑基 准教授を中心とする研究グループは、小型の記録計やビデオカメラを動物に装着するバイオロギング手法を用いて、ヒラシュモクザメが体を横に60度ほど倒した姿勢で海の中を泳いでいることを発見しました。サメは5〜10分おきに、右に傾いた姿勢と左に傾いた姿勢を入れ替えていました。なぜ、このような奇妙な泳ぎ方をするのでしょうか。ヒラシュモクザメがとりわけ長い背びれを持っていることに注目し、研究グループはサメの精巧な模型を作製し、流体力学実験を行いました。その結果、サメが体を横に傾けたときに、背びれがまるで飛行機の翼のようにはたらいて、効率よく揚力が発生することがわかりました。つまりサメにしてみれば、体を横に傾けることで、沈むことなく最小限のエネルギーで泳ぎ続けられるということです。ヒラシュモクザメは遊泳エネルギーを節約するために、他のどんな魚とも違う奇妙な形態と奇妙な泳ぎ方を進化させたことが明らかになりました。

研究の背景

科学技術が高度に発達した現代においても、海の中はいまだ未知の世界であり、稀にしか網にかかったり釣り上げられたりしない魚がたくさんいます。2015年2月、研究グループがオーストラリアの東海岸でイタチザメの調査をしていた際、偶然にもヒラシュモクザメが針にかかりました。ヒラシュモクザメは世界的に見ても非常に珍しく、生態がほとんどわかっていないことから、すぐに行動記録計とビデオカメラを背びれに取り付けて放流しました(図1)。翌日にサメの体から自動的に切り離された機器を回収し、データを読み込んだところ、驚きの遊泳パターンが明らかになりました。

図1:ヒラシュモクザメに機器を取り付ける渡辺(左から四人目の黄色い服)。とりわけ長いサメの背びれに注目。

研究の内容

ヒラシュモクザメは体を右に60度ほど倒した姿勢で5〜10分間ほど泳ぎ、くるりと反転して、今度は左に60度ほど倒した姿勢で5〜10分間泳ぐというパターンを繰り返していました(図2)。この結果の信憑性を確かめるために、ベリーズ(カリブ海に面した中米の国)で別のヒラシュモクザメ1匹に記録計を取り付け、またバハマ(大西洋の島国)で別のヒラシュモクザメ3匹にビデオカメラを取り付けたところ、いずれも同じような遊泳パターンを示しました(図3)。さらに、水族館で飼育されているヒラシュモクザメを観察したところ、やはり体を横に傾ける遊泳様式は同じでした(図4)。

図2:遊泳中に記録されたヒラシュモクザメの体の横方向の傾き。

図3:ヒラシュモクザメの背びれに取り付けたビデオカメラの映像(頭が映っている)。
サメは右に傾いたり左に傾いたりしている。

図4:水族館で横に傾いて泳ぐヒラシュモクザメ。

なぜ、このような奇妙な泳ぎ方をするのでしょうか。ヒラシュモクザメが他のサメと違う点は、異常ともいえるくらいに背びれが長く発達していることです(図1)。この点に注目し、研究チームはヒラシュモクザメの精巧な模型を製作し、流体力学実験を行いました(図56)。任意の強さの風を発生させることのできる実験装置にサメの模型を据え、徐々に横に傾かせながら、模型にはたらく物理的な力を測定しました。

図5: ヒラシュモクザメの模型のデザイン。

図6: 流体力学実験の様子。左方向からサメの模型に向かって風が吹き付け、模型にはたらく力が測定される。

実験によると、サメの体が60度ほど傾いた時、背びれがあたかも飛行機の翼のようにはたらいて、揚力が最も効率よく発生し、抵抗が最小限に抑えられていました。一般にサメは、硬骨魚類(いわゆる普通の魚の仲間)と違って浮き袋を持たないため、放っておくと体が沈んでしまいます。そこで多くのサメは、左右の胸びれを使って揚力を発生させ、体の沈下を防いでいます。ヒラシュモクザメの場合、特別に長く発達した背びれを横に倒し、背びれをあたかも「第三の胸びれ」のように使うことで、遊泳エネルギーを節約していることが明らかになりました(図7)。

図7: 結果の概念図(ヒラシュモクザメを正面から見ている)。(左)体をまっすぐにして泳いでいるときは、左右の胸びれから揚力が発生し、沈下を防いでいる。(右)体を横に傾けると、背びれの効果により、揚力発生部位のスパン(b)が長くなり、効率よく揚力を発生できるようになる。つまりサメは遊泳エネルギーを節約することができる。

本研究の意義

ほとんどのサメにおいて、背びれの主な機能は、ターンをするときに横向きの力を発生させることです。ところがヒラシュモクザメは、その「常識」にとらわれず、独特の方法で背びれを使い、遊泳エネルギーを節約していることがわかりました。本研究は、遊泳エネルギーの節約が海洋生物にとっていかに重要であるかを示し、またその目的を達成するために、海洋生物はいかに奇妙な進化を遂げるのかを実証しました。

体長3メートルにもなる大きなサメの泳ぎ方について、今まで誰も知らなかったという事実は、海の中にはいまだに壮大な未知の世界が広がっていることを示しています。そして本研究は、珍しい生物にバイオロギング機器を取り付けるという探査的なアプローチによって、予想もしなかった驚きの結果が得られることがあることを示しました。さらに、バイオミメティクス(生物模倣)の観点からいえば、ヒラシュモクザメの一見奇妙だが理にかなった泳ぎ方は、人間のスイミングスタイルの改良や燃費のよい水中ロボットの作成などに役立つ可能性を秘めています。

発表論文

掲載誌: Nature Communications
タイトル: Great hammerhead sharks swim on their side to reduce transport costs.
著者:
Nicholas L. Payne(JSPS外国人特別研究員(受入:国立極地研究所)/ローハンプトン大学(英国))
Gil Iosilevskii(テクニオン(イスラエル))
Adam Barnett(ジェームズクック大学(豪州))
Chris Fischer(オーサーチ(米国))
Rachel T. Graham(マーアライアンス(ベリーズ))
Adrian C. Gleiss(マードック大学(豪州))
渡辺佑基(国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授/総合研究大学院大学 併任准教授)
DOI: 10.1038/NCOMMS12289
論文公開日: 英国時間2016年7月26日
論文URL: http://www.nature.com/ncomms/2016/160726/ncomms12289/full/ncomms12289.html

研究サポート

本研究はJSPS科研費(若手研究B、25850138および基盤研究B、16H04973)の助成を受けて実施されました。

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研究内容について

国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授 渡辺佑基

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