大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立極地研究所

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研究成果

ペンギンがクラゲを捕食する行動をビデオによる観測で発見

2017年9月22日
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

図1:コガタペンギンがクラゲを捉えた時のようす。カメラをつけた他の個体によって撮影されたもの。

国立極地研究所(所長:白石和行)のJean-Baptiste Thiebot(ジャン バティスト ティエボ)特任研究員、高橋晃周准教授を中心とする国際共同研究グループは、ペンギンにビデオカメラを取り付ける観測によって、南半球に生息する4種のペンギンが、クラゲなどのゼラチン質動物プランクトン()を頻繁に捕食している事実を初めて明らかにしました(図1動画1)。近年、世界各地の海でクラゲが大量に出現する現象が報告されていますが、従来、クラゲは栄養価が低いため、ペンギンなど比較的大型の海洋動物の餌にはなっていないと考えられてきました。本研究の成果は、クラゲをはじめとするゼラチン質動物プランクトンが、海洋生態系の食物連鎖の中で大型動物の餌として一定の役割を果たしていることを示唆するものです。

動画1:コガタペンギン、アデリーペンギン、キガシラペンギン、マゼランペンギンがクラゲを捕食する様子

研究の背景

クラゲのようなゼラチン質動物プランクトンは、体が壊れやすいため研究が難しい動物群です。近年、日本近海も含む世界各地の海でクラゲが大量に出現する現象が報告されていますが、クラゲが生態系の中で果たす役割や他の海洋動物に与える影響については十分に分かっていません。とくにペンギンのような大型海洋動物がクラゲを餌として食べているかどうかは、クラゲの体が壊れやすいために、動物が吐き戻した餌を調べるといった従来の方法では調べることができませんでした。

研究の内容

図2:ペンギンに取り付けた小型ビデオカメラ。ペンギンが餌を捕食する様子を観察できる。

本研究では、ペンギンの水中での行動・生態を調べるため、最新の小型ビデオカメラ(図2)をペンギンに取り付け、得られた映像を解析する手法をとりました。日本・フランス・オーストラリア・ニュージーランド・アルゼンチンの研究者が、2012年から2016年にかけて、南極の昭和基地を含む南半球の7箇所で4種のペンギンの合計106羽にビデオカメラを取り付け、数日後に回収しました。その結果、延べ350時間以上の水中映像が得られ、すべてを再生して確認したところ、オキアミや魚など、これまでに知られている餌の捕食シーン以外に、クラゲ、クシクラゲといったゼラチン質動物プランクトンを捕食しているシーンが198回観察されました(図13動画1)。クラゲは潜水中に他の餌がいる時でも頻繁に捕食されていました。

これまでにもマンボウやオサガメなどがクラゲを食べていることが知られていましたが、少ないエネルギーで生活できるごく一部の動物での特殊な事例と考えられてきました。体温を保持するために消費エネルギーの大きいペンギンのような大型海洋動物でクラゲの捕食が頻繁に観察されたこと、しかもそれが南極からオーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチンまで南半球の海の広い範囲で見られたことは研究チームを驚かせました。

図3:ビデオカメラの装着を行った4種のペンギンと7箇所の調査地。全ての調査地でクラゲなどのゼラチン質動物プランクトンを捕食する行動が観察された。

今後の展望

本研究の結果は、クラゲなどのゼラチン質動物プランクトンはほとんど食べる生物がおらず、生態系の食物連鎖の中での役割はごく小さい、という従来の見方を覆すものです。一方、栄養価が低いと考えられるクラゲをなぜペンギンが食べるのか、その理由はまだはっきりとしません。クラゲのゼリー状の外套膜の部位は確かに水分が多く栄養価が低いのですが、生殖器官や内臓のある部位は比較的栄養価が高いので、ペンギンは栄養価の高い部位を狙っている可能性があります。今後、栄養素や化学組成についての研究を進め、クラゲなどのゼラチン質動物プランクトンが生態系の中で果たす役割についての正しい理解を深めることが必要です。

ゼラチン質動物プランクトン(gelatinous zooplankton):
クラゲ、クシクラゲ、サルパなど、ゼリー状の組織で体を覆われた動物プランクトンの総称。体組成の95%以上が水分で、一般には栄養価が低いと考えられている。

研究サポート

本研究は南極地域観測事業、JSPS科研費(26840153、24681006、16H06541、17H05983)、JSPS二国間交流事業共同研究の助成を受けて実施されました。

発表論文

掲載誌: Frontiers in Ecology and the Environment (アメリカ生態学会学術誌)
タイトル: Jellyfish and other gelata as food for four penguin species – insights from predator-borne videos.
著者:
Jean-Baptiste Thiebot(国立極地研究所 生物圏研究グループ 特任研究員)
John P.Y. Arnould(オーストラリア・ディーキン大学)
Agustina Gómez-Laich(アルゼンチン海洋生物研究所)
伊藤健太郎(総合研究大学院大学極域科学専攻 博士課程)
加藤明子(フランス・シゼ生物学研究所)
Thomas Mattern(ニュージーランド・オタゴ大学)
三田村啓理(京都大学大学院情報学研究科 准教授)
野田琢嗣(京都大学大学院情報学研究科(現:統計数理研究所 日本学術振興会特別研究員))
Timothée Poupart(オーストラリア・ディーキン大学)
Flavio Quintana(アルゼンチン海洋生物研究所)
Thierry Raclot(フランス・ウベールキュリアン学際研究所)
Yan Ropert-Coudert(フランス・シゼ生物学研究所)
Juan E. Sala(アルゼンチン海洋生物研究所)
Philip J. Seddon(ニュージーランド・オタゴ大学)
Grace J. Sutton(オーストラリア・ディーキン大学)
依田憲(名古屋大学大学院環境学研究科 教授)
高橋晃周(国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授)
URL:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/fee.1529/abstract
DOI:10.1002/fee.1529
論文公開日: 2017年9月5日

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研究内容について

国立極地研究所 生物圏研究グループ 特任研究員 Jean-Baptiste Thiebot
国立極地研究所 生物圏研究グループ 准教授 高橋 晃周

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国立極地研究所 広報室
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