研究課題(6)

北極海環境変動研究:海氷減少と海洋生態系の変化

研究代表者:菊地 隆(海洋研究開発機構)

計画概要

近年急激に進む北極海の海氷減少は、 さまざまな環境変化を引き起こします。例えば、夏に海氷がなくなった海域では直接太陽の熱を受けることで表面の海水温が上昇します。それは、海洋の生物にとって好ましいことで、プランクトンが多く繁殖し、 魚などが増えるかもしれません。しかし、 海氷の融解が進むと溶け水(淡水)の割合が増えて表面の塩分が低くなり、 表層と下の層の密度の差が大きくなって海水が混ざりにくくなります。生物に必要な栄養分は下層に多くあるため、 表層の栄養分が減少し、 生物にとって好ましくない環境を生むこともあります。別の視点で見れば、 北極海にすんでいた生物にとって海氷の減少は好ましくないことですが、 太平洋など南にすんでいた生物にとってはこれからの北極海は生活しやすい環境になるかもしれません。このように海氷の減少が生態系に及ぼす影響を理解するためには、生物のみならず、物理的・化学的な環境の変化を理解する必要があるのです。

そこで私たちは、 海氷減少に伴うさまざまな変化が現れ始めている北極海の太平洋側、チャクチ海に注目して調査を行います。海洋地球研究船「みらい」、 北海道大学水産学部付属練習船「おしょろ丸」、 国際連携による砕氷船などで船舶観測を行うとともに、 係留系を設置して通年データを取得します。また、 高次捕食者の捕食行動を明らかにするためのバイオロギングや、 人工衛星による通年の広域モニタリングによる調査も行います。さらに、海洋生態系モデルをつくって現在そして将来の状況を調べます。

それらにより、戦略研究目標③b「北極域における環境変動が水産資源等に及ぼす影響の評価」の達成に貢献します。