GRENE北極気候変動研究事業・北極域研究推進プロジェクト公開講演会「北極温暖化の実態と影響 -何がわかったか、これから何をするのか―」開催報告

2016年3月10日掲載
国立極地研究所

講演の様子(写真:小俣友輝/北海道大学)

GRENE北極気候変動研究事業(以下「GRENE北極」という)と北極域研究推進プロジェクト(以下「ArCS」という)の共同公開講演会を2016年3月5日(土)に品川のコクヨホールで開催しました。本講演会では、GRENE北極で「何がわかったか」、ArCSで「これから何をするのか」について、講演とパネルディスカッションを通じて研究者と参加者が意見を取り交わし、日本の北極研究を考えるまたとない機会となりました。

2016年3月末に終了を迎えるGRENE北極では、山内恭プロジェクトマネージャ(国立極地研究所)が「北極気候変動研究の歩み」と題した講演でGRENE北極が始まった背景について紹介を行ったあと、二つの代表的な研究成果の発表が行われました。吉森正和氏(北海道大学准教授)による「北極温暖化増幅の正体」の講演では、世界中の32の気候モデルの将来予測シミュレーションを丁寧に解析した結果、北極の温暖化を増幅させる要因について、支配的なプロセスが季節毎に大きく違うことや、海と陸で違ってくることがわかったと説明がありました。気候の将来予測に向け不確実性を減らし、気候システムの詳しいしくみの理解が今後ますます進むものと期待されます。山口一氏(東京大学教授)による「北極海航路の持続的利用の可能性」では、中期(1~3か月程度)の海氷分布予測では世界でもトップを誇る予測精度に達した点について紹介がありました。また、北極海の環境維持のためにも、海氷分布予測を始め、より一層安全性を高める航行支援システムの基盤作成が必要であることを伝えていました。パネルディスカッション「何がわかったか」のコーナーでは、研究の第一線で活躍してきた4人の研究者がその観測現場の様子や研究成果を紹介しました。周極域森林の温暖化応答、融解が進むグリーンランドの氷河流出、太平洋北部から北極海にかけての環境変化と海洋生態系の動向、そして北極の海氷減少と日本の厳冬の関係など、改めて観測研究活動が広域で多岐にわたったことが印象付けらました。

一方、2015年9月に始まったArCSでは、深澤理郎プロジェクトディレクター(国立極地研究所/海洋研究開発機構)が「日本の北極研究の今後のかたち」と題した講演で新プロジェクトの概要を説明したあと、科学ジャーナリストの瀧澤美奈子氏、講演者の山口氏とともに、ArCSのプロジェクトのプロジェクトディレクター及びサブプロジェクトディレクターらが「これから何をするのか」のパネルディスカッションを展開しました。北極研究を含め科学はどのように社会と関わっていくべきなのか、政策重視の中で研究を続ける真の意味は何か、その中で日本のプレゼンスはどのように発揮できるのかなど興味深い話の展開となりました。

研究者から会社員、学生といった幅広い層から231名の参加があり、北極研究の新たな展開とともに積極的な情報発信への期待などが寄せられました。

GRENE北極パネルディスカッション

ArCSパネルディスカッション