東南極の塩水湖においてカイアシ類を発見掲載日:2008年8月29日 国立極地研究所の工藤栄准教授らの研究グループは、東南極の塩水湖の湖底において、今まで湖内で生活していると考えられていなかった動物プランクトンであるカイアシ類が大量に存在していることを、初めて明らかにしました。 研究の背景 南極大陸上の湖沼には動物プランクトンがほとんど存在しないことが、南極の生態系の特徴のひとつと考えられて来ました。南極以外の地球上の湖沼でごく普通に生活するミジンコ類やカイアシ類ですら、南極半島などのごくわずかな湖沼で存在が確認されているのみで、しかも、それらは海から侵入して来たものが一時的に存在しているのみと考えられ、その存在量すらいまだ確固としたものがありませんでした。それは、これら動物プランクトンの存在が、海水が一時的に大陸上に侵入した潮溜まりや海水が定期的に侵入する湖でのみ報告されていたからです。 研究対象・手法 東南極域のリュツオホルム湾に面する露岩域の「ぬるめ池」(図1)の湖内6カ所(図2)において、今回特別に開発した採取装置(図3)を用いて、湖底付近の水をそれぞれ2m³、合計12m³採取しました。今回湖底の水に着目したのは、以前偶然に採取されたカイアシ類が通常湖底等に生息するソコミジンコの仲間と形態的に判別できたからです。
図2 ぬるめ池内採取地点 図3 使用した採取装置 ※注1 部分循環湖 湖内部の水が上部と下部とで混じり合わない等、湖全体で循環せずに、一部分のみで循環する湖のこと。 研究成果 「ぬるめ池」 の湖底付近から、動物プランクトン・カイアシ類のソコミジンコの仲間と思われるもの少なくとも2種類を発見しました。湖水1m³あたりに換算すると、7〜120個体が見つかっており(表1)、量としても豊富に存在していることが明らかとなりました。また、卵を抱いた雌の個体(図4)や交尾するために雌を捕まえている雄の個体(図5)など、成長過程の各段階を示す個体も発見しました。 表1 各採取地点における1m³あたりの採取個体数
図4 卵を抱えた雌の個体 図5 交尾するために雌を捕まえている雄の個体 今後の展開現在、より詳細な分類・系統学的分析を、形態および遺伝子解析手法から進めており、また個体群組成の解析から生態学的な検討を加えることにより、今後、これらカイアシ類が数百年間にわたってどのような進化過程を経て、極限環境ともいえる南極の湖沼の環境へ適応していったのかを明らかにすべく取り組んでいます。 発表論文論文タイトル:Abundance of benthic copepods in a saline lake in East Antarctica |