第49次南極地域観測隊が世界で初めて南極地域において
無人航空機を用いた長距離気象観測に成功

掲載日:2008年12月25日

 昭和基地で越冬中の第49次南極地域観測隊(越冬隊長:牛尾収輝/国立極地研究所・准教授)が、世界で初めて、南極地域において無人航空機を用いた長距離気象観測に成功しましたので、お知らせします。

概要

 平成20年12月18日午後(日本時間同日)、昭和基地で越冬中の第49次南極地域観測隊は、世界初となる南極での無人航空機による長距離気象観測に成功した。この無人航空機には気象観測装置を搭載し、地上から高度1,000mまでの気象データを取得した。運航は、離着陸時は無線による手動操作により行い、その間は機体に搭載したマイクロコンピュータによる自動操縦により行った。観測に要した総飛行時間は60分、総飛行距離は110 kmであった(図1飛行経路図 図2飛行高度図)。

南極地域における無人航空機観測の現状

 南極地域における無人航空機による観測は、イギリスやドイツ等が進めているが、いずれも試験飛行の段階であり、航続距離が100kmを越すような長距離飛行には成功していない。また、これまでに開発されている数多くの無人航空機は、いずれも高価でオペレーションも複雑であることから、予算及びオペレーション上の制約が大きく、南極地域で観測に利用することは困難であった。

国立極地研究所における無人航空機開発の経緯

 昭和基地では過去にセスナ、ピラタスポーターといった小型航空機が越冬し、様々な観測に使用されてきた。しかし、航空機の安全飛行や海氷上の滑走路の維持、厳しい屋外環境における機体整備に多大な労力を要してきたため、2005年1月末には両機とも撤収され、以後航空機の無い越冬となっている。
しかし、航空機による科学観測の需要は多方面に広がり、また海氷上行動ルート設定のための空からの氷状偵察への期待も極めて大きいことから、国立極地研究所は、船木實 准教授を中心に、無人航空機による南極観測研究を「Ant-Plane計画」として2002年より開始した。この計画では模型航空機の技術を応用し、翼長3 m前後の小型無人航空機を開発し、連続飛行距離 1,000 kmまでの機体と、搭載する小型軽量観測装置の開発を行ってきた。その結果、海外の無人飛行機よりはるかに安価で、少人数によるオペレーションが可能な小型無人航空機の開発に成功した。そして、2006年3月には磁力計を搭載した無人航空機(今回南極で飛行に成功したものと同型機)が西オーストラリア州で 500 kmの連続飛行に成功し、南極における無人航空機による科学観測への道が開かれた。

今後の観測活動への期待

 今後の南極観測において、空中磁場観測、無人観測網のデータ回収、気象観測、生物センサス、海氷調査等が計画されている。今回の成功により、無人航空機が南極観測の新たなプラットフォームとして、安全で効率的な南極観測に貢献するものとして期待される。

担当隊員談話

浅野 比 隊員(無人航空機観測の現地責任者/山口東京理科大)
 これまで機体や測器の不具合、天候不良によってフライトが出来ない日が続いたが、ようやく飛行までたどり着くことが出来た。南極という厳しい環境の中,無人航空機による観測が十分可能であることを実証でき,今後の南極での無人航空機観測の発展にとって非常に有意義であったと感じる。国内から支援いただいた方々、越冬隊員に感謝する。

熊谷 英明 隊員(無人航空機の整備・運航担当/国立極地研究所)
 国内でラジコン飛行機の操縦実績があることから、今回のプロジェクトに参加させて頂いたことに感謝し、知識と技術が南極観測に活かせたことを光栄に思う。南極という過酷な自然環境の中で、観測の為に無人航空機を運用する難しさを実感したが、成功に至ったのは、南極・国内全ての関係者の努力の賜物である。

図1 無人航空機の飛行経路図(国土地理院発行の地図を元に作成)

図2 無人航空機の飛行高度図(手動飛行時は地上のオペレーターが手元のリモコンで手動操作している。)

写真1 観測に使用した無人航空機

写真2 離陸直後の無人航空機

写真3 無人航空機観測の成功を喜ぶ浅野隊員(左)と熊谷隊員(右)