南極氷床下に千四百万年間凍結保存された氷床形成初期の氷河地形掲載日:2009年6月2日 国立極地研究所(所長:藤井理行)は、中国極地研究所、英国エジンバラ大学との国際共同研究により、南極氷床の最頂部である「ドームA」地域の氷床下の大陸岩盤地形を明らかにしました。この地域の氷床下地形は、山岳地帯に温暖期に形成された河川渓谷がその後に谷氷河によって浸食されたことを示す景観をもつことがわかりました。この地形は、約三千四百万年前に起こった南極の寒冷化の過程で形成されて、その後の氷床の発達により、過去約千四百万年前間、南極の氷の下に凍結保存されてきたと推定されています。 研究の背景 南極大陸は、約三千四百万年前に起こった気候変動により寒冷化し氷床に覆れ、それ以来氷の大陸となった。氷床変動モデルや気候モデルを用いた研究により、大気中の二酸化炭素の減少と大陸をとりまく南極周極流と呼ばれる海流の発達によって氷河が発達し、天文学的な太陽と地球との位置関係が氷床発達のペースを決めてきたと考えられている。 研究対象・手法中国極地研究所を中心とした中国の南極観測隊は、気候変動史を探るための氷床コア掘削等の科学探査を主目的として、「ドームA」地域での掘削候補地点の探査をおこなってきた。その際、中国隊は、日本の国立極地研究所の技術協力のもとに、氷厚探査用のレーダを用いて「ドームA」地域の氷下地形の探査を2004/5年、2007/8年の2度にわたり実施した。レーダ機器を搭載した雪上車で「ドームA」地域の30km×30kmの範囲を5km間隔の格子を組んで探査をしたほか、格子内を補間する探査も多数実施した。こうして計測をした氷の厚さのデータから地形図を作成し、探査後のデータ処理を日中共同でおこなった。さらに、氷河地形の研究を専門とするエジンバラ大学のグループを加え、氷食地形の考察を実施した。 研究成果現在の「ドームA」地域の氷床は、最高点の標高が4090mのなだらかな高原地域となっている。しかし、その下にあるガンバーツェフ山地は、標高約1000mから約2400mの範囲の急峻な地形であることが判明した(図2)。さらに、山地中央部の地形は、温暖な気候で形成された河川渓谷がその後の谷氷河の流動によりに浸食された山岳地形をもち、山あいの谷地形は支流が合流する多数の箇所で氷河により深くえぐられた景観をもつことが明らかになった。研究チームは、南極形成史のなかで、こうした地形や景観が発生しうるタイミングは、気温が現在よりも少なくとも15℃温暖であった南極が氷に覆われる初期であったと推定した。海底堆積物の従来の研究からは、南極が寒冷化をはじめた約三千四百万年には、ガンバーツェフ山地がすでに存在しており、山地が南極氷床形成の主要な起源であったと提案されている。研究チームは、寒冷化以降に山地の渓谷に刻まれた氷河流動の痕跡の景観が、山地が氷床の下に完全に埋没した過去約千四百万年の間それ以上の浸食をうけずに凍結保存されてきたと推定している。 発表論文本研究成果は、平成21年6月4日付けの英科学雑誌「Nature」に掲載される予定です。
図1:南極大陸とドームA地域 図2:(a)ドームA頂部地域の30km×30kmについて、氷床の表面高度の等高線(黒色)と、氷下地形(高度別に色分けした地図)。ドームA地域は南極氷床としては最も高く約4090mに達する。この氷床の頂部の下に、標高1000-2400mの山岳地形と樹形状の谷地形が見いだされた。黒い点線は氷の厚さの計測のために雪上車が走行をした測線。(b)谷地形は、現在とは異なる氷河の浸食によって支流の合流地点で周囲と比較して100~300m程度の深さの窪地(黄色の領域)を形成している。赤点は局地的な最低点。 |