バイオロギングが明らかにしたマユグロアホウドリの捕食戦略

掲載日:2009年10月8日

 国立極地研究所(所長:藤井理行)は、北海道大学、英国南極調査所との国際共同研究により、亜南極サウスジョージア諸島で繁殖するマユグロアホウドリの背中に小型のカメラデータロガーを装着する野外調査を行い、マユグロアホウドリがシャチを追跡し餌をとっている様子を初めて明らかにしました。これは、広い南極の海で効率よく餌を探し出すために、時としてアホウドリがシャチの食べ残しを利用する戦略をとっているのだと推定されます。

研究の背景と研究手法

 アホウドリの仲間は、繁殖を行っている陸地から数百キロ以上も海上を飛翔し、餌となる魚やイカを探していることが知られている。しかし、アホウドリが実際どのように餌となる魚やイカを見つけ出しているのか、その現場が観察されたことはほとんどなかった。また、餌の魚種の中には、アホウドリの潜水能力では届かない深海に生息している種類も含まれており、どうやってこのような餌をとっているのか不明であった。今回の研究では、国立極地研究所が開発してきた小型のカメラデータロガーを、亜南極サウスジョージア諸島で繁殖するマユグロアホウドリ(Thalassarche melanophrys)(図1)に装着し(バイオロギング※)、海上を自由に動き回るアホウドリの周辺環境の画像記録を得ることで彼らの捕食戦略を調査した。

※バイオロギング:動物に小型の記録計を取り付け、動物の行動や周囲の環境を測定・記録する技術。バイオ(生物)とロギング(記録をとる)を合わせた、日本人研究者による造語だが、現在では国際的な学術用語として定着している。

研究成果

 カメラデータロガーの記録を3羽のマユグロアホウドリから得た。うち1羽において、海面に現れたシャチを、他のアホウドリと一緒に追いかけている画像が撮影された(図2、図3)。画像と潜水深度、環境水温の記録から、アホウドリは30分程度シャチを追跡しながら海面への着水と浅い潜水を繰り返す事で、効率よく餌をとっていたと推定される。また、マユグロアホウドリが繁殖地に持ち帰る餌のうち、深海に生息する魚種の一部は、シャチのような深く潜水して魚を捕る鯨類の食べ残しから得ているものと推定される。本研究の成果は、シャチとアホウドリといったこれまで無関係と思われてきた南大洋生態系の高次捕食者同士に相互関係があることを示す新しい知見である。

発表論文

 本研究成果は平成21年10月7日付けの米国のオンライン科学雑誌PLoS ONE に掲載される予定です。

論文タイトル

From the Eye of the Albatrosses: a Bird-Borne Camera Shows an Association Between Albatrosses and a Killer Whale in the Southern Ocean.  (アホウドリの目線から:動物装着型カメラが明らかにした南大洋におけるアホウドリとシャチの関係)

著者

Kentaro Q. Sakamoto1, Akinori Takahashi2*, Takashi Iwata2 and Philip N. Trathan3

1Graduate School of Veterinary Medicine, Hokkaido University, Sapporo 060-0818, Japan.

2 Department of Polar Science, The Graduate University for Advanced Studies, National Institute of Polar Research, Tachikawa, Tokyo 190-8518, Japan.

3 British Antarctic Survey, Natural Environment Research Council, High Cross, Madingley Road, Cambridge CB3 0ET, United Kingdom.

*Author for correspondence (atak@nipr.ac.jp).

 

図1:飛翔中のマユグロアホウドリ

 

図2:海面に現れたシャチを追いかけるマユグロアホウドリ
(アホウドリに装着したカメラで撮影された画像)

 

図3:飛翔中のマユグロアホウドリ
(アホウドリに装着したカメラで撮影された画像)