宙空圏研究グループ 冨川喜弘助教が2010年気象集誌論文賞を受賞しました

掲載日:2011年2月1日

論文の和文タイトル

プリミティブ方程式系における3次元残差循環と波活動度フラックスについて

著者

木下武也(東京大学)、冨川喜弘(国立極地研究所)、佐藤薫(東京大学)

和文概要

 変形オイラー平均(TEM)系は、子午面断面における物質循環(残差循環)と波活動を議論するのに有用である。TEM 系を3次元に拡張する研究はいくつか行われてきたが、準地衡流近似を仮定するなど、限界があった。最近Miyaharaは、TEM 系を3次元に拡張し、重力波にも適用可能な波活動度フラックスと残差循環の導出を行った。しかし、東西方向の運動方程式の移流項に残差循環とオイラー平均流が混在すること、3次元残差循環が質量保存を満たさないことの2つの問題を含んでいた。本研究では、これらの問題を解決し、より物質輸送の評価に適した定式化をプリミティブ方程式系に対して行った。本研究で求めた3次元残差循環はオイラー平均流とストークスドリフトの和に一致すること、また、本研究で求めた3次元波活動度フラックスが、TEM 系の2次元波活動度(Eliassen-Palm)フラックスと同様に、形状抵抗に対応することも確認できた。この波活動度フラックスには平均場のシアを含む項が存在する。その物理的意味を考察したところ、シア流中のシアによって生じる風速偏差に起因する運動量フラックスであることがわかった。最後に、3次元残差循環を用いたトレーサーの輸送方程式を導出した。これらを用いて、化学気候モデルデータからオゾンの3次元輸送に関する簡単な事例解析を行ったところ、コリオリパラメータとストークスドリフトの南北成分の積が波活動度フラックスの収束発散とバランスしているなど新たな知見が得られた。