東南極内陸部で20世紀後半以降の年間平均積雪量が増大傾向にあることが判明

掲載日:2011年11月16日

国立極地研究所を中心とした研究グループは、スウェーデン国と共同で、南極大陸東南極内陸部広域の氷床環境を、雪上車隊で詳細に調査しました。その結果、ドームふじをはじめとした地域で、20世紀後半以降の年間の平均積雪量が、過去千年規模 のそれと比べて約 15%多かったことが判明しました。さらには、南極大陸広域の多地 点の観測結果とあわせた検討から、この現象は大陸上で広く起こっていることを見い だしました。この事実は、南極に周辺の海洋域から大気循環で輸送される水蒸気が増 えたことを示しており、近年の地球温暖化に対応した現象である可能性があります。 今後の地球の海水面変動を予測するうえで監視と分析を必要とします。

研究の背景

地球温暖化にともなう海面上昇発生の可能性は、近年地球気候研究で議論されている課題である。海面上昇を予測するうえでの不確定要素のひとつが、温暖化に対する南極大陸氷床の応答である。地球温暖化にともない、周辺の海洋域で発生する水蒸気の量が増え、南極大陸に積もる積雪量の増大となり、海面の上昇を抑制する要素になる可能性も指摘されている。しかし、20世紀後半の近代と、それ以前の長期の積雪量の差は、観測データ間のばらつきや地域間の差もあり議論が続いていた。状況をより知るためには、実際の南極大陸の氷床の上で起こっている積雪量の増減傾向や、それに関連した水蒸気輸送と積雪のプロセスを把握する必要があった。南極大陸内陸は、厳しい気候により現地アクセスは難しく、詳細な現地広域データの取得が期待されてきた。「国際極年」の2007年と2008年に、国際連携による観測が実施された。

研究対象・手法

国立極地研究所を中心とした研究グループは、スウェーデン国と共同で、東南極ドロンニングモードランド地域内陸部広域の氷床環境を、雪上車隊で数ヶ月をかけて詳細に調査した。調査風景を図1、2に示す。調査の主要地域は、この地域の最高点であるドームふじを含む2800キロメートルの区間(図3)である。氷床の内部に堆積した過去約44年前、722年前、7900年前の火山爆発に起因する硫酸エアロゾルの堆積層の深度(図4に事例)を、雪氷試料の化学分析と氷床探査レーダから広域に高精度で導出した。あわせて、無人気象観測装置の設置や氷床表面の形態調査や氷床の厚さの調査を実施し、人工衛星観測データとの比較も実施した。積雪量の時空間分布と関連のプロセスが明らかになった。

研究成果

東南極での広域の積雪量分布を決定づける要素は、表面標高、海岸域からの距離、氷床のなす尾根との相対的な位置関係であることが明らかになった。20世紀後半以降の年間の平均積雪量が、過去722年間や7900年間の年間平均積雪量と比べて約15%多かったことが判明した(図5)。さらに、南極大陸広域の多地点の観測結果とあわせた検討から、この積雪量の増加は南極大陸上で広く起こっていることが明らかになった。この事実は、南極地域に周辺海域から輸送された水蒸気が増えたことを示しており、近年の地球温暖化に対応した現象である可能性がある。今後の地球の海水面変動を予測するうえで特に監視と分析を必要とする。

発表論文

この成果は欧州地球物理学連合誌[TheCryosphere]電子版に掲載されるほか、現在国立極地研究所(東京都立川市)で開催されている第2回極域科学シンポジウムのなかで、11月16日(水)のポスターセッション(セッション時間帯:13:05-14:00)で発表されます。

論文タイトル

Spatial and temporal variability of snow accumulation rate on the East Antarctic ice divide between Dome Fuji and EPICA DML(東南極ドロンニングモードランドドームふじおよびEPICA DML間の東南極分氷界における、積雪堆積率の空間および時間変化)

著者

Fujita, S1. , Holmlund, P2., Andersson, I3., Brown, I2., Enomoto, H4,1., Fujii, Y1., Fujita, K5., Fukui, K1., Furukawa, T1., Hansson, M2., Hara K6., Hoshina, Y5., Igarashi, M1., Iizuka, Y7., Imura, S1., Ingvander, S2., Kameda, T4., Karlin, T2., Motoyama, H1., Nakazawa, F1., Oerter, H8., Sjöberg, L3. , Sugiyama, S7., Surdyk, S1., Ström, J9. Uemura, R10. and Wilhelms, F8.
1 NationalInstituteofPolarResearch,Tokyo,Japan;
2 StockholmUniversity,Stockholm,Sweden
3 TheRoyalInstituteofTecknology,Stockholm,Sweden
4 KitamiInstituteofTechnology,Kitami,Japan
5 NagoyaUniversity,Nagoya,Japan
6 FukuokaUniversity,Fukuoka,Japan
7 HokkaidoUniversity,Sapporo,Japan
8 Alfred-Wegener-InstitutfürPolar-undMeeresforschung(AWI),Bremerhaven,Germany
9 StockholmUniversity,Stockholm,Sweden
10 UniversityoftheRyukyus,Okinawa,Japan

図1:日本隊とスウェーデン隊が、南極大陸内陸域会合点での会合をした際の写真。2007年12月27日。

図2:氷床内部をアイスレーダで探査しながら進む日本南極地域観測隊の内陸調査の雪上車。

図3:南極大陸における探査地域。昭和基地、ドームふじ基地、それにワサ基地を結ぶ広域の氷床環境を調査した。内陸調査を実施した際には、日本とスウェーデンの調査隊は、それぞれの基地である昭和基地とワサ基地から出発し、会合点で合流した。

図4:図3に示した探査地域に沿った氷床の断面図。表面地形と基盤地形が観測の結果明らかになった。レーダ探査でとらえた7900年前の積雪層も示す。

図5:広域で判明した様々な時代における年間平均積雪量。横軸は内陸での昭和基地からのルート沿いの距離。縦軸は年間平均積雪量。20世紀後半の時代(各種マーカー)と、過去約700年(青線)、過去約7900年の年間堆積率(赤線)を比較し20世紀の後半(過去44年)の年間堆積率が、過去約700年や7900年の平均の年間堆積率よりも、有意に15%程度高いことを見いだした。この傾向が南極大陸の上での多地点の観測結果とよく整合することがわかった。なお、マーカーには誤差範囲が表示されており、誤差範囲を大きく上回る差が見いだされている。