地圏研究グループ奥野淳一 特任研究員の
タヒチ島における第四紀海水準変動に関する共著論文が、
Nature誌に掲載されました

掲載日:2012年3月29日

著者:P. Deschamps, N. Durand, E. Bard, B. Hamelin, G. Camoin, A. L. Thomas, C. M. Henderson, J. Okuno, Y. Yokoyama.
タイトル:Ice-sheet collapse and sea-level rise at the Bølling warming 14,600 years ago.
雑誌名:Nature
掲載日:2012年3月29日

最終氷期終焉期におこった急激で大規模な氷床崩壊

仏国CEREGE研究所、英国オックスフォード大、東京大学大気海洋研究所の研究グループとの共同で、最終氷期から現在の間氷期への移行期に起きた、大規模かつ急激な氷床崩壊の規模とそのタイミングなどに関する研究を行いました。この成果は、これまで南極やグリーンランド氷床で得られている氷床コアが明らかにした、気温変化などの古気候記録と比較検討することで、気候変動メカニズムの解明に大きく貢献することが期待されるものです。

現在は氷期と氷期の間、いわゆる間氷期に相当し、第四紀の中では海水準が高い時期にあたります。一方で、今から約2万年前の最終氷期最盛期(Last Glacial Maximum: LGM)には、地球の両極域および高緯度の陸域には大規模な氷床が発達し、海水準は現在よりも約120m低い位置にありました。このLGM以降、北アメリカやヨーロッパ、南極などの氷床が融解することで海水量は増加し、グローバルな海水準は現在のレベルまで上昇しました。しかし、その上昇速度については、必ずしも一定の速度で上昇していなかったと理解されています。このことは、これまでの研究より、約14,000年前には数100年という短期間で急激な氷床の融解(融氷イベント1a:Melt Water Pulse 1a)が起こったり、約12,900〜11,500年前にはヤンガードリアス期と呼ばれる寒冷期があったことなどが、さまざまな古気候データより指摘されていることに基づいています。

このような背景から、日米欧が中心となって行っている統合国際深海掘削計画(IODP)第310次航海(タヒチでの海水準変動)が計画され、南太平洋に位置するタヒチ島において、水面下に眠るサンゴ礁堆積物を掘削し、過去2万年間の海水準変動曲線を高精度で抽出することを目的のひとつとして、本研究が実施されました。さらに、このような珊瑚礁堆積物のコアの解析から明らかにされた最終氷期以降の海水準変動より、グローバルな氷床量変動を推定するためには、氷床の融解や海水の増加によって引き起こされる地球の変形を精度良く見積もることが必要です。そこで、現在国立極地研究所と東京大学大気海洋研究所において開発している、グラシオハイドロアイソスタシー(Glacio hydo isostasy:図1に概念図を示す)のモデルを適用し、海水準変動の理論値とコアの解析結果と比較することで、約14000年前のMWP-1aイベントにおける北半球、南極両氷床の寄与やその規模について考察しました。

まず本研究で注目したMWP-1aイベントについて、これまで海水準上昇量について「25 m/500年」という報告がなされていましたが、実際には、その規模は「14-18 m/350年」であり、上昇速度は 40mm/年以上にもおよんだことが明らかになりました。近年の地球温暖化により予想されている海水準上昇は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次評価報告書に記された値で、最大約3mm/年程度であることから、MWP-1aイベントの規模の大きさが伺えます。海水準上昇のタイミングについても、珊瑚礁の正確な年代測定より、これまでの定説より約 500 年早いことが指摘され、14,600 年前に上昇が始まったことが明らかになりました。この結果は、グリーンランド氷床の温度記録に見られる急上昇期と同調することを示しています。さらにグラシオハイドロアイソスタシーのモデル計算結果は、南北両極氷床の寄与の割合や地球内部粘性構造などについて、いくつかのシナリオが成り立つ可能性を示唆するものでした。

今後、このような研究成果の蓄積に加えて、日本南極地域観測隊が行っている南極地域の調査観測や、その他の氷床地域の調査に基づく第四紀氷床変動の地形地質学的な情報を、より詳細に知る必要があると考えられます。

Nature誌で3月29日に掲載された。

図1:グラシオハイドロアイソスタシーの概念図