太陽活動の変動がグリーンランドの気温変動に影響することを発見
〜グリーンランドは大気・海洋循環場の変動に伴い、北半球傾向からずれる〜

掲載日:2013年3月15日

国立極地研究所(所長:白石和行)を中心とした国際研究グループは、グリーンランドの気温変動とそのメカニズムを探るため、グリーランド氷床コア中の気泡から導き出した過去800年の気温の復元データを使い、太陽活動の変動がグリーンランドの気温変動に影響することを発見した。グリーンランドの気温変動は、北大西洋振動・北極振動や大西洋数十年規模振動と呼ばれる大気・海洋循環に大きく影響されることが知られているが、太陽活動の変動はこれらの循環に似たパターンを作り出す。つまり、太陽活動が強い時、北半球平均気温は温暖化するが、グリーンランドは大気・海洋循環場の変動に伴い、北半球の傾向からずれて寒くなり、逆に、太陽活動が弱い時にはグリーンランドは北半球傾向より暖かくなる。すなわち、もし、これから数十年に亘って太陽活動の変動が比較的弱く推移すると、グリーンランドの気温は北半球全体の温暖化傾向より一段と温暖化し、それに伴う氷床融解が進む可能性があることを示唆している。

研究の背景

グリーンランドでは、周辺の急速な温暖化に伴い近年氷床の縁辺部で融解が進んでいる。たとえば、1993年から2005年の海水面上昇の4〜23%がグリーンランド氷床の融解によって発生したと見積もられている。このように、グリーンランドが海水面上昇にもたらす影響が大きいため、温度変動とそのメカニズムの理解は、将来の温暖化を予測するために欠かせない。これまで、本研究グループは、過去の氷床表面の温度を復元する新たな手法として、氷床コアの気泡中のアルゴンと窒素の同位体比を用いて氷床表面温度を導出する手法を開発し、過去4000年の気温復元を成功させた(Kobashi et al.,2010,2011)。本研究では、このデータと気候モデルを使って、過去800年に亘るグリーンランドと北半球の気温変動を精査した結果、グリーンランドの気温変動は、太陽活動の変動に伴って北半球気温変動傾向からずれることを発見した。

研究対象・手法

グリーンランド氷床の頂上付近にある氷床コア掘削地点「GISP2」(図1)から掘削された氷を米国スクリップス海洋研究所において分析し、気泡空気中のアルゴンと窒素の同位体比を分析した(Kobashi et al., 2008に出版済み)。その同位体比データと積雪量の復元データ、掘削孔中の深さ方向の温度分布データ、雪や氷の圧密・熱伝導計算を組み合わせることにより、過去4000年のグリーンランド表面温度復元に成功した(Kobashi et al., 2010,2011に出版済み)。本研究では、このグリーンランド気温復元データ、北半球気温の復元データ、太陽活動変動の復元データを用いて、グリーンランドの気温が太陽活動の変動に伴い、北半球傾向からずれることを発見し、NASAが開発した気候モデル(GISS-ER)を用いて、そのメカニズムの解明を行った。

研究成果

過去160年の観測データを見ると、グリーンランドの気温変動は北大西洋振動・北極振動や大西洋数十年規模振動に大きく影響されていたことが分かる。しかし、未来の温暖化にも関連する数十年規模の変動の原因を知るには、観測データの使える160年は短すぎる。そこで、本研究グループは、氷床コアから復元した過去800年のグリーンランドの気温と、気温プロキシから復元した北半球の平均気温のデータを比較し、グリーンランドの気温が太陽活動の強い(弱い)時、北半球気温変動傾向より寒く(暑く)なることを発見した。このメカニズムを解明するため、気候モデルを用いて解析した結果、これは、太陽活動の変動が、北大西洋振動・北極振動(NAO/AO)に似た大気循環を引き起こすことによるものであることが分かった。また、太陽活動の変動に伴う大西洋子午面循環の変動が、大西洋の熱輸送に影響し、北半球が温暖化(寒冷化)する時、グリーンランドの気温は比較的寒く(暖かく)なる。

発表論文

この成果は欧州地球物理学連合誌 [Climate of the Past] に3月8日にweb版(フリーアクセス)で出版されました。
Climate of the Past, 583-596, 2013

論文タイトル

On the origin of multidecadal to centennial Greenland temperature anomalies over the past 800 years
(過去800年間における数十年から百年規模のグリーンランド気温の北半球傾向からのずれの起源)

著者

Takuro Kobashi1,2, Drew T. Shindell3, Kunihiko Kodera4,5, Jason E. Box6,7, Toshiyuki Nakaegawa4, and Kenji Kawamura1

1 National Institute of Polar Research, 10-3 Midoricho, Tachikawa, Tokyo 190-8518, Japan
2 Scripps Institution of Oceanography, University of California, San Diego, La Jolla, California 92093, USA
3 NASA Goddard Institute for Space Studies, New York, New York, 10025, USA
4 Meteorological Research Institute, Tsukuba, 305-0052, Japan
5 Solar Terrestrial Environment Laboratory, Nagoya University, Nagoya, Japan
6 Byrd Polar Research Center, The Ohio State University, Columbus, Ohio, 43210, USA
7 Department of Geography, The Ohio State University, Columbus, OH 43210, USA

参考論文

Kobashi et al., Geochimica et Cosmochimica Acta, 72, 4675-4686, 2008.
Kobashi et al., Climatic Change, 72, 733-756, 2010.
Kobashi et al., Geophysical Research Letters, 38, doi:10.1029/2011GL049444, 2011.


図1:グリーンランドの地図とGISP2の場所(赤の四角)。


図2:1200年から2010年までの気候変動の記録。
[a] グリーンランドの気温(青)、北半球平均気温(赤、緑)
[b] 標準化したグリーンランド(青)と北半球平均気温(赤、緑)
[c] グリーンランド気温の北半球傾向からのずれ
[d] 太陽活動の変動
[e] 北半球の火山活動

お問い合わせ先

研究成果について

国立極地研究所特任研究員 小端 拓郎
TEL:042-512-0758 FAX:042-528-3497 E-mail:kobashi.takuro@nipr.ac.jp

報道担当

国立極地研究所 広報係長 小濱 広美
TEL:042-512-0652 FAX:042-528-3105 E-mail:kofositu@nipr.ac.jp