第54次南極地域観測隊の南極セール・ロンダーネ山地・ナンセン氷原における隕石探査報告
(ベルギーとの国際共同オペレーション)

掲載日:2013年3月22日

第54次日本南極地域観測隊(隊長:渡邉研太郎、以下JARE-54)は、ベルギー隊(BELARE)と合同で、南極セール・ロンダーネ山地南方のナンセン氷原で隕石探査を行い、新たに「あすか隕石」(総重量:約75kg、合計約420個)を採集した。

本探査の概要

南極内陸に分布する裸氷帯(注1)では隕石が多産することが知られている。この発見の契機は、第10次南極地域観測隊(JARE-10)でのやまと山脈周辺に分布する裸氷帯での9個の隕石の発見にあった。以来、日本隊はおよそ17000個の隕石を採集している(注2)。JARE-54では、ベルギー隊との合同(図1)によりセール・ロンダーネ山地南方のナンセン氷原(南緯72度30分〜73度、東経23〜25度、標高約3000m、図2)で隕石探査を行い、新たにあすか隕石(注3)を採集した(図3、図4)。総重量は約75kgで合計約420個(注4)であった。採集した隕石には18kgの巨大なコンドライト(図5)をはじめ、炭素質コンドライトやエコンドライトの稀少な隕石を含む。1個あたりの平均重量は180gである。この重量は過去2回の合同探査に比べてずっと大きい。探査域は個々の隊員が所持する携帯GPSにより記録することにより、ナンセン氷原内の探査域の詳細を明らかにした(図6)。これにより今後の探査を効率的に行うことができることになった。

(注1)氷床下部で雪の圧密により生成した氷が氷床表面に露出した地域。内陸の山脈の周辺に発達する。標高は約2000〜3000mに分布する。常に10m/sを超す強い風が吹く。
(注2)アメリカはおよそ2万個。中国はおよそ1万個を採集している。
(注3)あすか隕石:セール・ロンダーネ山地周辺で採集される隕石で、あすか基地開設時に命名。今回は、Asuka12001,Asuka12002,Asuka12003,….と命名する。ここで12は探査を行った年度の西暦2012年の下2桁。ベルギー隊と合同での隕石探査はJARE-51,BELARE2010-2011に次いで3度目。なお、25年前のあすか基地開設時にJARE-29ではおよそ1500個のあすか隕石を採集している。
(注4)フィールドで隕石と南極大陸の岩体の転石と判別困難な場合があるため、採集個数には5から10個程度の誤差を含む見込み。


図1:10名の隕石探査隊のメンバー


図2:セール・ロダーネ山地とその周辺域図。GoogleEarthから抽出。セール・ロダーネ山地南にナンセン氷原。セール・ロダーネ山地東のバルヒェン山に裸氷帯が分布する。JARE-51でセール・ロンダーネ山地東のバルヒェン山の裸氷帯で隕石探査を行い、2010年度のBELAREではナンセン氷原北部での隕石探査を行った。今回の隕石探査のエリアは赤色で示している。


図3:本探査における隕石の産状の例。すべての隕石は裸氷上に産出し、氷内部に埋没していないので、容易に拾い上げることができる。手で直接触れず、チャック付きのポリエチレン袋に直接収納する。


図4:2.6kgの隕石。2013年1月4日に発見。石質隕石で普通コンドライトと考えられる。


図5:今回最大の18kgの隕石。2013年1月28日に発見。石質隕石で種類は普通コンドライトと考えられる。


図6:個々の隊員が所持した携帯GPSの航跡記録。今回の探査域と未探査域とが一目瞭然となった。

調査方法

・ベルギー基地より100km南のナンセン氷原のベースキャンプ地へアクセスした。隊員はスノーモービルで移動した。モジュール橇、コンテナ橇、燃料、および食料はベルギー基地のサポート隊により雪上車によりベースキャンプへ輸送し、キャンプ撤収後に基地へ持ち帰った。
・ナンセン氷原には1ヶ月半滞在し、期間の半ばには、ベルギー基地の雪上車の支援を受けて、ベースキャンプ地(図8)を移動した。
・隕石探査は、1人1台ずつスノーモービルに分乗し、V字形状になって、裸氷帯を探査した(図9および図10)。連続して12日間悪天候により探査できないなど期間の半分程度は停滞したため、探査できたのは約18日間であった。


図7:居住コンテナ。主としてベルギー隊が用いた。


図8:ベースキャンプ(BC1)BC1には2013年1月15日まで滞在した。以後移動し2月2日まではBC2に滞在。


図9:隕石探査の風景。50mほどの間隔で横に広がって探査する。中心が先頭を行き、スノーモービルの並びはV字形状となる。


図10:クレバス帯での探査。1m程度の高さのマウンドの発達する裸氷帯はクレバス帯であり、十分な注意を要した。

本探査の特色

・メンバー全員が携帯GPSを所持し、探査ルートの設定、ナビゲーション、隕石の発見地点の記録、および探査の航跡記録を行った。
・東南極域の航空機ネットワーク(ドロームラン)を利用し、日本とベルギー基地間は航空機で移動した。日本発着日はそれぞれ2012年12月1日と2013年2月14日で予定通りであった。
・物資軽減のため、フリーズ・ドライ食品を活用した。
・採集した隕石はすべて冷凍により日本に持ち帰った。隕石の酸化を防ぐために還元雰囲気下で極地研の南極隕石処理室で解凍して常温にする。

本探査の意義

・南極は宇宙に開かれた地球の窓であり、隕石研究は太陽系の起源と進化の解明に貢献する。このために新たに採集した隕石を用いてベルギーと共同研究を推進する。
・小惑星探査「はやぶさ2」サンプル・リターン・ミッションとも連携する。
・太陽系外惑星系の起源ともリンクし、宇宙の起源にも繫がる。
・隕石の分布、および落下年代に基づく隕石集積機構の解明は、地球環境変動とも関連する。

今後の展望

本探査によって採集された隕石は、ベルギーと共同で、最新鋭の分析機器を駆使して分類・研究を行なう。これらの中から宇宙および太陽系の起源に関しての新たな発見が大いに期待される。

謝辞

AlainHubertベルギー・プリンセスエリザベス基地長をはじめ、BELAREから多くの設営面でのサポートをいただいた。

実施メンバー

第54次南極地域観測隊(4名):
今栄 直也 国立極地研究所研究教育系助教(リーダー)
山口 亮  国立極地研究所研究教育系助教
三河内 岳 東京大学大学院理学系研究科准教授
赤田 幸久 国立極地研究所(フィールド・アシスタント)

ベルギー隊(BELARE)6名:
Vinciane Debaille, Universite Libre de Bruxelles (ULB)(ベルギー側リーダー)
Genevieve Hublet, ULB
Nadia Van Roosbroek, ULB
Harry Zekollari, Vrije Universiteit Brussel(VUB)
Wendy Debouge, ULB
Christophe Berclaz 山岳ガイド(フィールド・アシスタント)

本件問い合わせ先

研究成果について

国立極地研究所 助教・今榮 直也
TEL:042-512-0706 FAX:042-528-3479 E-mail:imae@nipr.ac.jp

報道について

国立極地研究所 広報係長 小濱 広美
TEL:042-512-0652 FAX:042-528-3105 E-mail:kofositu@nipr.ac.jp