太陽系形成の謎解きの新展開
(日本とベルギーとの南極隕石を用いた共同研究)
~第54次南極地域観測隊の南極隕石採集その後~

掲載日:2013年5月24日

ベルギーのブリュッセルにおいて5月24日(金)、日本とベルギーとで合同で採集した南極隕石に関して、国立極地研究所、ブリュッセル自由大学、およびベルギー自然史博物館との間で研究協定が調印された。これにより合同で採集したあすか隕石の共同研究を本格的に開始する。

写真1.国立極地研究所、ブリュッセル自由大学、およびベルギー自然史博物館による研究協定調印
左から、Vinciane Debaille:ブリュッセル自由大学 研究者
白石和行:国立極地研究所 所長
Philippe Claeys :ブリュッセル自由大学 教授
Camille Pisani :ベルギー自然史博物館 館長

写真2.国立極地研究所より送られた共同隕石探査隊が採集した試料のうち最大の18kgの隕石の横で調印する白石所長

調印に至るまで

第54次南極地域観測隊はベルギー隊との合同によりセール・ロンダーネ山地南方のナンセン氷原(南緯72度30分~73度、東経23~25度、標高約3000m 図1)で隕石探査を行い、新たにあすか隕石を採集した。総重量は約75kgで合計約420個であった。

採集された隕石は国立極地研究所の低温実験室で一時、保管され、解凍後、国立極地研究所、ブリュッセル自由大学、およびベルギー自然史博物館において最新鋭の分析機器を駆使して分類・研究が行なわれる。

調印式に先立ち、5月13日(月)に日本ベルギー学会の講演会「南極大陸におけるベルギーと日本:共同研究の伝統」(司会:同会代表の北原和夫・東工大名誉教授)が、東京麹町のベルギー大使館で開催された。まず、ベルギー大使館・公使参事官のクリストフ・ドゥ・バッソンピエール氏と元朝日新聞科学部長で、第7次、第47次と二度の南極地域観測隊にも参加した柴田鉄治氏により、南極での日本とベルギーとのつながりが深められてきた歴史的な過程が紹介された。

続いて、最近の両国の共同研究のトピックスとして、これまでに3回にわたって実施された南極隕石の共同探査(2009-2010年、2010-2011年、および2012-2013年)について国立極地研究所・南極隕石キュレーターの山口亮助教より紹介があった(写真3)。講演会の後、2012-2013年の共同隕石探査隊が採集した試料のうち最大の18kgの隕石を囲んで懇親会が開催された(写真4)。この隕石は、ベルギー自然史博物館で恒久的に展示されるためにブリュッセルに運ばれ、ブリュッセルで開かれた第36回南極条約協議国会合の初日に各国代表団に披露された(写真5)。

写真3.在日ベルギー大使館における南極隕石の共同探査の紹介

写真4.在日ベルギー大使館において共同研究におけるカンファレンスの後、18kgの隕石を囲んで懇親会が開催された。

写真5.18kgの隕石は国立極地研究所より、ベルギー自然史博物館に送られ、5月20日(月)ブリュッセルで開かれた第36回南極条約協議国会合の初日に各国代表団に披露された。

今後の共同研究計画、展望について

1.ベルギーの南極隕石キュレーション体制の確立に向け、国立極地研究所・南極隕石ラボラトリーが協力する。国立極地研究所、地圏研究グループ 山口 亮 助教はブリュッセル自由大学の招聘研究者として5月末より1ヶ月滞在し、ベルギーと共同で採集した隕石の分類・研究を推進している。また、ベルギー自然史博物館から隕石キュレーターが、国立極地研究所の南極隕石の一連のキュレーションシステムの習得を目的に本年7月に来日する。

2.今回の隕石探査の特徴は隊員一人一人が携帯GPSを所持し、隕石発見地点を記録した。この精度数メートル以下の正確なGPSデータに基づき、ある特定の隕石種の分布状況を明らかにすることができる。また、落下位置と風化度の度合いは隕石落下年代に関連づけることができ、将来的には氷床流動に関連した隕石集積機構の解明につがなる。

3.具体的な今後の共同研究のテーマとしては、ベルギー自由大学(VUB、ULB)は、年代学を中心とした同位体学的手法に強みをもち、鉱物学的あるいは実験学的手法を強みとする極地研側と相補的な関係にあるので、様々なエコンドライトやコンドライト隕石を、様々な手法でアプローチし、太陽系初期の物質進化過程を明らかにする。

4.太陽系の形成と進化については理論や観測のみでは実証的な結果を得ることが難しく,太陽系始源物質である隕石や宇宙塵およびリターンサンプルからの物質科学的証拠がその解明の拠り所となる.これらの共同で採集した南極隕石は今後高度な分析技術を駆使してさらに研究を発展させる。

図1.セール・ロンダーネ山地とその周辺域図。Google Earthから抽出。